スタートアップで働くと資産形成にも大きなチャンスが巡ってくるかもしれません(写真:Fast&Slow / PIXTA)

「やりがいのある仕事で社会に貢献しながら、金銭的報酬もしっかり得たい」ーー。
そう願うビジネスパーソンは多いはずです。そのようなとき「スタートアップで働く」という選択が、理想を現実に変えてくれるかもしれません。特に、金銭的報酬に目を向けた場合、スタートアップで働いて「ストックオプション」が付与されると桁外れの資産を築ける可能性があります。

その理由について、フォースタートアップス代表・志水雄一郎氏の著書『スタートアップで働く』から一部を抜粋・再構成し、ご紹介します。

ストックオプションがもたらすもの

資産をつくるための金銭的報酬は「給与報酬」と「株式報酬」に分かれる。給与報酬については大企業群と大差のないスタートアップも出てきているが、さらに株式報酬となると、話は大きく変わってくる。

大企業でも持株会に加入することなどで株式報酬を得るチャンスはあるのだが、スタートアップにおいては、その比ではない。

スタートアップでは、上場前の段階から事業に携わり、その貢献度などによりストックオプションを付与されることがある。

ストックオプションとは、株式会社の従業員や取締役などが、自社株をあらかじめ定められた価格(権利行使価格)で取得できる権利のことだ。

成長過程で上場を果たせば、権利行使価格と上場した株価との差額をキャピタルゲインとして得られる。

さらに上場ゴールに終わるのではなく、仲間とともに成長戦略を力強く実行し、さらに数倍から数十倍の企業価値向上を果たしていくことにより、社員としても個人資産を数億から数十億レベルで形成することも可能になる。

たとえば、初期のスタートアップに参画した社員に、会社が株式全体から0.1%のストックオプションを付与していたとする。

日本は上場時のバリュエーション(企業価値)が2021年の初値ベースで平均250億円だったから、単純に計算しても株式報酬は2500万円の価値になる。

当然、役職や働きによってストックオプションの付与率がさらに高ければ、それに応じて資産は一気に増えていく。

あくまで、これは「初値ベース」であって、あなたの働き次第で企業がさらに大きくなれば、株価もより高まり、手にしているストックオプションの価値も向上していくのだ。

しかも、社会や未来の課題解決を掲げるスタートアップが多いからこそ、仕事を通じて人類の現在と未来に貢献でき、さらには自己実現にも近づけるかもしれない。

イーロン・マスクは象徴的な人物

スタートアップ的キャリアの象徴的な人物は、イーロン・マスクだろう。
彼がオーナーを務める電気自動車メーカーとして知られる「テスラ」の時価総額は、一時期、1兆ドルを超えたこともある。

ほかにも、宇宙関連事業の「スペースX」のオーナーでもあるが、こちらの企業価値は1400億ドルともいわれる。テスラができたのは2003年、スペースXは2002年だ。わずか20年足らずで、これだけの企業を彼はつくりあげてきた。

自分がやりたいことで仲間を募り、投資家からお金を集めれば、イーロン・マスクのようなビッグプロジェクトに挑戦できるチャンスは誰にも与えられている。

企業価値が爆発的に増えれば、そこで働く社員の懐も潤っていく。すでにストックオプションが付与されている社員の中には、日本円にして数百億円以上の個人資産を持っている人もいる。

何もアメリカの巨大企業だからという話ではない。

日本のエンターテインメント系スタートアップであるANYCOLORが、株式上場を果たした際に、従業員の多くに自社株式やストックオプションを付与していることが話題になった。

同社が公表した「大株主リスト」には30人以上の従業員が記載され、最も少ない人でも1億3500万円の価値がある株式を持っていた。つまり、上場によって30人の億万長者が誕生したわけである。

さらに、株主リストには従業員を含む117人が名を連ねており、数千万円から数億円を得ることになったとも報じられている。

このように株式報酬は、給与報酬とは桁外れの資産を築ける可能性がある。

多くの億万長者が誕生している

アメリカほどの規模でないにしても、日本でもストックオプションなどで資産を得るのは夢物語ではなくなった。なぜなら、日本はアメリカに比べて株式上場がしやすい環境にあるといわれるからだ。

2021年の上場社数は136社、2022年は112社であり、2015年以降は毎年約100社近くが上場を果たしてきた。

日本では全発行株式の10%前後を社員にストックオプションとして付与され、最近では15〜20%という高い比率にて付与されている事例も多い。事実として、毎年多くの億万長者が誕生しているのだ。

ちなみに、ストックオプションに関して、執筆時点(2023年7月末)では「信託型ストックオプション(※ストックオプションにおけるスキームの一つ)」の税務や会計の取り扱いについて議論が続いている。

課税方式のあり方をめぐって、国税庁や経済産業省と企業の間でも意見交換などが進んでいるところだ。

報道では「行使時の税負担が増える」といったネガティブなニュースを目にした機会もあるかもしれないが、現状ではストックオプションの付与や、キャピタルゲインを得ることについては安心してもらって構わない。

スタートアップ振興が国策でもあることから、むしろ従来より有利になる税制ルールの変更など、プラス面での見解も出されている。スタートアップ全体にとっても重要な観点のため、情報を継続的にキャッチアップすることをすすめたい。

日本では平均給与は過去と比較して上がっておらず、労働分配率も上がっていない。その一方で、社会保障は減り、税率は上がっている。退職金制度も揺らいでいる。

生涯収入は減っているのに、税金は増えていく。物価が上がり、実質所得が減っている実感を持つ人も増えているだろう。

客観的なデータを見てみよう。


(出所:『スタートアップで働く』)

OECDのデータによると、2022年時点の日本の平均賃金は4.15万ドルと、アメリカのほぼ半分しかない。35カ国中25位で、OECD平均を下回っている。

「アジアの中では日本はまだまだ豊かだ」と思っている人もいるかもしれないが、平均賃金では韓国にも抜かれているのが現状だ。

だからこそ、給与報酬だけに頼るのではない方法で、人生を成り立たせる方程式をつくる必要がある。

株式報酬の重要性に目を向けたい

この状況に立ち向かうためにも、キャリア設計における株式報酬の重要性に目を向けることをすすめたい。

すでに有名大企業で働くほとんどの人ですら、十分な資産を築くことはできなくなってきている。

むしろ、株式上場前のスタートアップに早い段階から参画して、ストックオプションをもらうほうがよほど勝算が高いように僕には思える。

スタートアップで働く人やスタートアップに転職したい人は、企業価値と持株比率を掛け合わせ、どのくらい資産形成できる可能性があるかをしっかり認識しておくべきだろう。

60歳から65歳ほどで退職して、一定の生活水準で暮らしたいと考えるとする。仮に年間500万円水準の生活を続けたいとなれば、残り数十年の人生を生きるには、ざっと見ても2億円ほどの資産が必要になる。

もちろん、年金の受給もあるので一概には言えないが、退職するときに2億円を持っている人はどれほどいるだろうか。

健康寿命がより長くなり、可処分所得が変わった分、ただ守るだけでは難しい時代になった。攻めも必要になったという事実も「知らない悪」の一つだ。

人生で必要な資産を逆算してみよう

資産の話が続いてしまったが、僕が伝えたいのは「金持ちを目指せ」ということではない。あくまで「人生で必要な資産を逆算してみよう」といった現実的な提案だ。必要な資産を確保することは、より大きな挑戦ができる可能性にもつながっていくのだ。

こうしたお金の話をすると、怪訝な顔をする人がいるかもしれない。ただ、僕としては、自分の人生を豊かにしながら生き続けていくためにも、「やりがい」と「経済合理性」のバランスと「金銭報酬」と「株式報酬」のバランスを常に意識しながら、ベストな職場を選ぶべきだと思う。

株式報酬を交えると、資産形成のスピードも段違いになる。通常であれば60歳まで勤めて築ける金額を、わずか数年で、キャピタルゲインによって得られる可能性もある。

先ほど例に挙げたANYCOLORの設立は2017年5月であり、株式上場は2022年。わずか5年で多くの億万長者を輩出したことになる。

しかも、ストックオプションはみずからの努力によって、成功確率も資産価値も向上できるものである。アンコントローラブルなものではなく、コントローラブルなものだと捉えられる。

企業価値を向上させようとすれば、仕事や自己成長に対する向き合い方も変わってくるだろう。

給与報酬をアップさせようと自分一人だけの目標達成に日々励むのではなく、株式を持っている全員で、会社の成長にコミットすると、給与以外に資産も向上していく。「視座・視野・視点」も高める必要が出てきて、自己成長も促される。

スタートアップは社会や未来の課題解決を志向する。そのため、成長すればするほど、課題は解決され、人類や生活にイノベーションを起こす可能性も高まっていく。ひいては国家の競争力にもつながっていく。金銭的な期待と社会への貢献が連動する、僕にはよほど純粋な働き方のようにも思われる。

早い段階からスタートアップにジョインできれば、ビジネスによる成長を心から楽しみ、キャリアはより最高のストーリーになりやすいはずだ。
決してアメリカンドリームの話をしているのではない。

日本人が、日本国内におけるキャリア設計であっても、可能になっている環境が広がっているのだ。しかも、この状況はバブルのように儚くなくなってしまうものでもなければ、博打のように危ういものでもない。

政府は、「スタートアップ5か年計画」として、国策としてスタートアップに注力する姿勢を決めたわけであり、この大きな時代の流れは止まらない。

日本は国家としての危機に直面し、経済競争にも負けている。それなのに新たなリーダーが次々と生まれていないのは、こういった状況に多くの人が気づけていないからだろう。これも「知らない悪」の一つだ。

あの巨大企業も同じ人間がつくったもの

多くの日本人が日本経済はまだまだ強いと勘違いしている。気づいていないから、自分がやらなくてもいいと思ってしまっている。


経済的な「負け」を認識できておらず、仮に認識した人であっても、最初から自分たちには世界に通用する企業やサービスはつくれないと諦めている。

たとえば、GAFAM(Google、Apple、現Meta・旧Facebook、Amazon、Microsoft)のようなビッグテックは、自分から遠い存在だとも感じている。でも、それは違う。

GAFAMだって同じ人間がつくったものだ。同じように生まれ、後天的に学んだ内容もそれほど変わらないはずなのに、働く日本人の多くが「自分たちはダメだ」と思い込んでしまっている。

GAFAMだけではない。ソフトバンクも、Yahoo!も、DeNAも、GREEも、あらゆる会社は自分と同じ人間の「誰か」が真摯に学び、目標を据えて怠惰を超え、素晴らしい仲間と時代を歩みながらつくったものに他ならない。

(志水 雄一郎 : フォースタートアップス 代表取締役社長)