原油価格が高止まりしている。日常生活への影響も長引きそうだ(写真:Getty Images)

原油先物価格が高止まりしている。すでに筆者は原油価格が比較的落ち着いていた時期から「原油価格は中国経済が不調でも上昇の懸念がある」(7月21日配信)の中で、リスクを指摘してきた。主な理由はサウジアラビアなどの自主的減産継続などによるものだ。

サウジやロシアなどの減産継続で需給が逼迫

実際、9月に入って同国は日量100万バレル(1バレル=約159リットル)の自主的減産を年内いっぱい継続する方針を明らかにした。またロシアもこれに同調する形で、日量30万バレルの自主的減産を年末まで継続する方針を示した。

このとき、市場の大勢は「延長するとしても、せいぜい10月の1カ月間だけだろう」と高をくくっていただけに、減産決定はかなりの強気サプライズとなった。その後、原油の国際指標であるNYのWTI原油先物価格は9月19日に一時1バレル=93ドル台まで急伸した。

当面、石油輸出国機構(OPEC)13カ国とロシアやアゼルバイジャンなど非OPEC加盟国10カ国で構成するOPECプラスも、サウジやロシアの意向を受けて、現在の減産体制を維持することになりそうだ。

OPECプラスは昨年8月、新型コロナウイルスの感染爆発後の価格急落を受けて打ち出した大幅減産をすべて解消、同9月にはさらに日量10万バレルの増産を行った。

だが、その後価格が再び急落したことを受け、同10月の会合では一転して日量200万バレルの減産を決定した。今年に入ってからは、まずロシアが2月から50万バレルの自主的な減産を行う意向を示し、それに呼応するように4月にはサウジやUAE(アラブ首長国連邦)などの主要国の自主的減産で合意、追加の減産量は日量166万バレルにのぼった。

結局、現時点での減産量は、昨年8月水準から比べると、日量500万バレル近くにも上っている計算となる。これは世界の消費量(1日あたり1億バレル強)で見ると、ざっと約5%近くも供給が減る計算だ。

これだけの減産を、少なくとも年末までは行うというのだから、世界需給がこの先一段と逼迫するのは避けられない。また、それを見越して投機的な買いが集まってくるのも当然の流れだ。一方では世界的な景気悪化や需要の伸び悩みに対する懸念も強く、それが8月までは相場の大きな重石となっていたことも確かだ。

だが、エネルギーは生活必需品であり、人々が通常の経済活動を行っている限りは需要も極端に落ち込まない。景気が悪くなってもビジネスを行っている限り、通勤や出張などで交通機関を利用すれば、その分燃料を消費することになるし、猛暑になれば冷房需要が増加、冬場は冬場で暖房需要がやはり増加する。

中国経済の落ち込みなどが懸念材料視される中で、大きく売りが膨らむ場面もよく見られたが、仮に同国経済が急速に悪化しても、再びコロナ禍によるロックダウンでも行われない限り、需要が1日あたり50万バレルも100万バレルも一気におちこむことは考えにくい。一方で、生産はサウジが簡単に100万バレルの減産をしてしまうような状況だ。需要の落ち込みと産油国の減産を天秤にかけるなら、やはり後者の減産の影響を重要視するべきだ。

供給不足は、シェールオイル増産でもカバーできない

すでにOPECは9月12日に発表した月報で、2023年10〜12月期のOPECに対する需要(Call on OPEC)が日量3071万バレルに、2024年1〜3月期には日量3003万バレルになるとの見通しを示した。

一方で8月のOPECの生産量は日量2745万バレルにとどまっており、9月以降もこの生産量が維持されるなら、単純計算でも10〜12月期には世界市場における供給不足が日量300万バレルを超え、1〜3月期も260万バレル程度の供給不足が続くことになる。

もちろん、今後は価格回復を受けてアメリカのシェールオイルなどの生産量が増えてくることも予想される。だが、これだけの大幅な供給不足をカバーすることは不可能だろう。実際、シェール関連業者が価格の指標として使っている、受け渡しが5年以上先となる先物市場の価格は1バレル=60ドル台で低迷しており、採算ラインに乗っている油田がまだ少ないと見られていることも、生産が伸び悩む一因となるかもしれない。

では、原油市場はどこまで上昇するのだろうか。今後、冬場の暖房需要期にかけて需給が一段と逼迫することは不可避だ。それだけに、上昇余地はまだ大きく残っていると見ておいたほうがよい。昨年は欧米をはじめ、北半球の多くの地域が記録的な暖冬となったこともあって価格は低迷した。だが、今のところアメリカでは厳しい冬になるとの長期予報が出ている。もし、気温の低下に伴って需要が大幅に増加すれば需給は一段と逼迫、在庫の取り崩しも急速なペースで進むことになる。それにつれて投機的な買い意欲も強まり、相場を大きく押し上げるのではないか。

まさかの1バレル=105〜110ドルもありうる?

もっとも、ここまでの大幅な減産で、産油国にはかなりの生産余力が生じていることも忘れるべきではない。OPECには現時点では恐らく日量400万バレルから500万バレルの生産余力があり、ロシアなどを加えればさらに余力は増えていると思われる。

つまり、サウジがある時点で価格上昇に満足し「自主的な減産を停止する」と発表すれば、状況はガラリと変わる。あとはその満足する価格水準がどこにあるのかだけの問題だ。

筆者は1バレル=100ドルの大台に乗せるまでは、そうした動きが見られることはないと思っているが、さすがに大台を突破してくれば警戒感を高める必要がありそうだ。

もちろん、そうした方針転換で、相場がいったん大きく値を下げることになるのは百も承知だ。ということは、仮に真の目標が100ドルだったとしても、それ以上に相場が上昇するのを待ってから、「もうええか、許したる」ということで、発表を行うことも十分に考えられる。とすると、1バレル=105ドル〜110ドルあたりが、今後の1つの目安となりそうだ。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(松本 英毅 : NY在住コモディティトレーダー)