「CottiCoffee」のラテ

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左はCotti Coffeeのラテ。アルゼンチン代表のチームカラーを意識している。右は池袋の店舗(写真:筆者撮影)

9月24日、中華料理店が集積する池袋西口(東京都豊島区)にオープンしたカフェチェーン「Cotti Coffee」には長い行列ができていた。

8月下旬にフランチャイズ形式で日本1号店が東京大学近くに開業したが、池袋は初の直営店となる。実はこの店舗、中国の有力カフェチェーンによる展開だ。現地では1年足らずで5000店舗を出店しただけに注目度が高く、池袋のオープン初日は在日中国人が多く訪れていた。

今年の夏には中国最大の店舗数を誇るティードリンクチェーン「蜜雪氷城(MIXUE)」も東京進出を果たした。なぜ中国の有力カフェチェーンが続々と日本に上陸しているのだろうか。

ラッキンコーヒーの創業者が立ち上げた

Cotti Coffeeは中国で最も注目されているカフェチェーンだ。昨年10月、福建省に1号店をオープンし、今年8月末には5000店舗を達成した。1999年に中国に参入したスターバックスが6480店(今年6月末時点)、中国最大手のluckin coffee(瑞幸珈琲、ラッキンコーヒー)が1万店舗強であることを考えると、何かとスケールが違う中国でも、Cotti Coffeeの出店の勢いが尋常ではないペースだとわかるだろう。

Cotti Coffeeが注目されている理由は、その“出自”にもある。同社は史上最速でアメリカのナスダックに上場したラッキンコーヒーを追放された元経営陣が、リベンジを期して興したスタートアップなのだ。

ラッキンは2018年1月に北京で1号店を開業し、わずか14カ月後の2019年5月にナスダック上場。同年末の店舗数は4500店に達し、スタバの中国の店舗数(約4200店超、当時)を超えて、中国最大手となった。中国の道路を埋め尽くしたシェア自転車に続いて、「爆速成長する中国スタートアップ」の象徴として持ち上げられたので、覚えている人もいるだろう。

ところがラッキンは2020年に22億元(約440億円)に上る売り上げの水増しが判明。創業者の陸正耀会長、銭治亜CEOら経営陣は追放され、同社は同年6月に上場廃止となった。

不祥事によるイメージの悪化と敏腕経営者の退場で、誰もが「終わった」と思ったが、ラッキンはしぶとく生き残り今年前半に1万店舗出店を達成。今月には高級酒「茅台(マオタイ)」とコラボした新商品が発売初日に1億元(約20億円)を売り上げるなど、負のイメージもすっかり薄れている。

一方、ラッキンを追放された陸氏と銭氏は打倒ラッキンを掲げてCotti Coffeeを立ち上げた。同じ業態を選ぶところがいかにも中国らしい。2人は昔の人脈で資金調達すると、加盟料ゼロでフランチャイジーを呼び込み、ラッキンのすぐ近くに出店。ラッキンと似た商品を展開するなど、徹底して「成功者の真似をする」作戦を展開している。


Cotti Coffee池袋店。開店初日は多くの中国人が列をなしていた(写真:筆者撮影)

サッカー好きの中国人消費者に訴求するため、アルゼンチン代表のグローバルスポンサーにも就いた。

来年は日本で「2000店舗出店」

Cotti Coffeeは日本市場でも中国のビジネスモデルをほぼ踏襲している。7月に設立された日本法人「COTTI COFFEE JAPAN」(以下COTTI JAPAN)によると、ドリンクはラテを中心に数十種類を展開し、日本独自のメニューや軽食も提供予定。

ちなみに看板メニュー「ココナッツラテ」も、元々はラッキンが2021年4月に商品化して大ヒットし、今や多くのコーヒーチェーンの定番になった商品だ。

池袋店にはアルゼンチン代表の巨大な垂れ幕が掲げられ、通行人の目を引いている。日本で展開する中国企業は日本のカルチャーを意識して野球のスポンサーになることが多いが、Cotti Coffeeは中国流を貫く。もっともCOTTI JAPANの担当者は「日本の消費者に合わせてもう少しかわいくしたかった」と本音を漏らした。

同社によると、中国本社から数億円の予算を調達し、すでに新宿、浅草の出店準備に入っているほか、関西にも進出し、年内に30店舗を構える計画。

池袋の旗艦店など少数の直営店以外は地域ごとにフランチャイズ契約を締結し、短期間での規模拡大を図る。目標は2024年に日本で2000店舗出店。スターバックスの日本の店舗数は1846店(2023年6月末)なので、Cotti Coffeeは1年でスタバ超えを目指していることになる。

激安MIXUEは表参道に

今年夏には中国最大のティードリンクチェーン「蜜雪氷城(MIXUE)」も日本に進出した。ティードリンクは2010年代後半以降中国でブームが続く分野で、タピオカやフルーツとお茶を組み合わせたSNS映えするドリンクだ。


表参道にあるMIXUEの店舗(写真:筆者撮影)

1997年に河南省鄭州市で生まれた老舗チェーンのMIXUEは、ティードリンクの高級化が進む中でも激安価格を維持し、いつのまにか2万5000店舗まで増えていた。この2年中国経済が減速するのと反比例して勢いを強める“デフレ銘柄”の代表的ブランドでもある。

激安がウリのMIXUEは「ガチ中華」の集積地である池袋、高田馬場(新宿区)に続き、8月には中華色のまったくない表参道(渋谷区)にも出店。いきなりの一等地進出に中国でも話題になった。日本での商品価格は中国より若干高いが、ソフトクリームは100円台、タピオカドリンクが300円台とお手頃だ。


MIXUE表参道店に、オープンした8月21日に訪問した際は、商品の半分ほどが欠品だった(写真:筆者撮影)

中国の注目カフェチェーンが相次ぎ日本に上陸する背景には、自国市場の競争激化がある。

中国ではZ世代をターゲットにしたティードリンクとコーヒーの新ブランドが次々に生まれ、新興と老舗が入り交じって商業施設のテナントスペースを奪い合っている。

コーヒーチェーンを例にとると、コーヒー豆にこだわったManner Coffee、M stand、中国IT大手のテンセントから出資を受けるカナダのティム・ホートンズ(Tim Hortons)などがスタバ、ラッキンの後を追い、ブルーボトルコーヒーも昨年上海に出店した。ティードリンクのブランドは、覚えられないほど多い。

ショッピングモールを歩くと、1つのフロアに似たような店がいくつも並んでいる。中国のカフェ市場は今後も伸びると言われているが、現在の消費者は都市部の20〜30代に偏っており、大都市のよい立地は既存チェーンに押さえられている。

上海の中心部でラッキンのアプリを開いて近隣店舗を検索したところ、400メートル以内に4店舗も見つかったが、Cotti Coffeeは徒歩圏になく、一等地の場所取りで苦戦していることがうかがえた。


Cotti Coffeeの上海の店舗(写真:筆者撮影)

Cotti Coffeeは今年8月に海外進出を始め、韓国、インドネシア、カナダ、そして日本に店舗を出した。COTTI JAPANは取材時に、日本を選んだ理由を「コーヒー文化が成熟しており、受け入れられやすい」と答えた。

ラッキンも今年春にシンガポールに進出するなど、ティードリンクはさらに競争が激しい。MIXUEは2018年に東南アジアへの進出を始め、すでに海外で100店舗以上を展開する。中国人留学生が多いイギリスもティードリンクの激戦区で、複数の中国ブランドが進出している。

日本市場は魅力なし?

中国ブランドが日本市場で成功するかについては、懐疑的な声が多い。
関係者によるとMIXUEは日本に子会社を設立しておらず、都内の複数店舗は日本の加盟店が本社と交渉しながら出店している。

表参道の店は看板が出てから実際のオープンまで半年以上かかっており、MIXUEとしては東南アジア市場ほど力を入れていないようだ。2010年代のタピオカブームが一服して以降、日本でティードリンクチェーンとして成り立っているのは貢茶(ゴンチャ)など数えるほどしかなく、魅力を感じていないのかもしれない。

Cotti Coffeeの創業者である陸氏は「3年で1万店舗体制にする」とぶち上げており、海外市場の拡大が欠かせない。

ただCotti Coffeeに限らず、中国のコーヒーチェーンの主力商品はSNS映えを意識したミルクやホイップクリームたっぷりのラテで、毎週新商品を発売したり、異業種とコラボして、目新しさで消費者を引き付けている。

Cotti Coffeeの商品はアプリでクーポンを使うと安く買えるが、定価は500円台が多い。しかも中国ではテイクアウト型スタンドが大半だ(だからこそ10カ月で5000店舗出せたとも言える)。

スタバやドトールなどカフェ専門店だけでなく、マクドナルドやコンビニでも100円台でコーヒーが購入できる日本で、どの程度競争できるだろうか。中国での競争は激しいが、日本もそんなに甘くはないだろう。

(浦上 早苗 : 経済ジャーナリスト)