マイナーチェンジ後の「問界M7」は、LiDARを含む27基のセンサーを搭載してスマート化のレベルを引き上げた(問界のウェブサイトより)

中国の新興EV(電気自動車)ブランドの「問界(AITO)」は9月12日、SUVタイプのスマートEV「問界M7」のマイナーチェンジ・モデルを発売した。

問界は中国の通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が、2021年12月に中堅自動車メーカーの賽力斯集団(当時の社名は小康工業集団)と共同で立ち上げたブランドだ。このプロジェクトでは、スマートEVの基本設計や販売・マーケティングをファーウェイ側が主導している。

マイナーチェンジ後のM7は、2022年7月に発売された旧型よりスマート化の水準を引き上げた。ファーウェイが開発した高レベルの自動運転システム「ADS2.0」を採用し、フロントウインドウの上部に(レーザー光を用いた3次元センサーの)LiDAR(ライダー)を搭載。さらにミリ波レーダー3基、高解像度カメラ11基、超音波センサー12基など合計27基のセンサーを装備している。

「幻のスマホ」の人気にあやかる

性能の向上にもかかわらず、新型M7のメーカー希望価格は標準グレードで24万9800元(約502万円)からと割安に設定された。これは問界ブランドで車格が下の「M5」の標準グレードと同じ価格であり、M7の拡販を図るための戦略的な値付けとみられている。

それだけではない。ファーウェイの端末事業部門のCEO(最高経営責任者)で自動車関連部門のトップを兼務する余承東氏は、上海市で開催した新型M7の発表会で思いもよらぬ奇策を繰り出した。期間限定のキャンペーン中にM7を購入した顧客に対し、ファーウェイの新型スマートフォン「Mate 60シリーズ」の優先購入権を提供するというのだ。

ファーウェイが8月29日に発売したMate 60シリーズは、5G(第5世代移動通信)に対応したことから人気が沸騰。販売店では製品が入荷してもたちまち売り切れる「幻のスマホ」になっている。その人気にあやかり、M7の販売をテコ入れしたいという余氏の意図は明白だ。

(訳注:ファーウェイはアメリカ政府の制裁により、高性能な半導体の調達が困難になっている。そのため5Gに対応したスマホを生産できなかったが、Mate 60シリーズでブレークスルーに成功したとみられている。ただし、ファーウェイは技術面の詳細を明らかにしていない)

問界の現在の製品ラインナップはM7とM5の2車種で、実質的な初年度だった2022年の販売台数は合計7万台を突破。無名の新ブランドの立ち上げにあたり、ファーウェイの(ブランド力や営業力の)存在がプラスに作用したことを証明した。


ファーウェイの「Mate 60シリーズ」は、問界ブランドの販売テコ入れの起爆剤となるか(写真はファーウェイのウェブサイトより)

しかし2023年に入り、問界は厳しい試練に直面している。1月上旬にテスラが大幅値下げに踏み切ったのをきっかけに、EVメーカー間の値下げ競争が勃発。問界も直ちに追随したが効果がなく、販売不振に陥ったのだ。

2023年に入り大幅な落ち込み

問界は直近の販売実績を明らかにしていないが、(車両の生産を担当する)賽力斯集団が公表している月次販売速報によれば、1月から8月までの累計販売台数は3万3000台と前年同期比15.6%減少した。

一方、業界団体の全国乗用車市場信息聯席会(乗聯会)のデータによれば、同じ期間の新エネルギー車の販売台数は前年同期比38.5%増加しており、賽力斯集団の低迷ぶりが際立つ。

(訳注:新エネルギー車は中国独自の定義で、EV、プラグインハイブリッド車[PHV]、燃料電池車[FCV]の3種類を指す。通常のハイブリッド車[HV]は含まれない)


本記事は「財新」の提供記事です

なお、賽力斯集団は問界ブランド以外のクルマも生産しており、月次速報にはその販売台数も含まれている。このことは、問界ブランドの販売の落ち込みは(賽力斯集団全体の落ち込みより)さらに大きい可能性を示唆している。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は9月12日

(財新 Biz&Tech)