オウケイウェイヴの杉浦元社長。上場維持の瀬戸際にある同社の事業再建を進めている(記者撮影)

「取締役なら計画は立てろ。立てたら、必死で計画を遂行しろ。変えざるをえない場合は、任せていただいている株主たちにしっかりと説明をする責任があるだろ」

9月28日の定時株主総会を前に、一部の大株主からそんな痛烈な批判を受けているのは、Q&A投稿サイトを運営するオウケイウェイヴ(OKウェイヴ)社長の杉浦元氏だ。

2022年9月配信の「架空投資話で損失、日本初『Q&A投稿サイト』の転落」で報じたように、架空の投資話で34億円を失った前経営陣から、創業メンバーの1人で大株主の杉浦氏が経営権を奪取した。杉浦氏が社長となった昨年8月の臨時株主総会から1年。今はOKウェイヴの事業再建をめぐり責められる立場になった。

この株主とのいざこざ、通常なら注目するほどではない。名古屋証券取引所に上場しているとはいえOKウェイヴは、売り上げが1億円超、従業員30人前後の規模にすぎない。しかも上場維持の瀬戸際にある「特設注意市場銘柄」だ。

ところが「ウルフパック(オオカミの群れ)戦術」を仕掛けられていると杉浦氏ら経営陣が示唆したことで、話が変わってきた。

「金商法違反の強い疑い」との主張

複数の株主がひそかに協調して株式を買い集め、時機をみて一気に経営権奪取を図るような動きをウルフパック戦術という。日本ではここ2〜3年で出始めた動きといわれる。


「金融商品取引法違反の強い疑いあり」と強調するOKウェイヴの資料(記者撮影)

OKウェイヴは定時株主総会を前に、9月14日から広く株主に対して委任状の記入を依頼し始めた。

端的にいうと、当日出席できない株主に対し、杉浦氏の再任など会社提案の取締役選任案に賛成すること、さらには総会当日に動議が出された際に自分の票の扱いを現経営陣に委ねることを求めている。

委任状を求める理由を説明した資料の中で、とりわけ目を引くのが次の一文だ。「本株主と協調して、株式を購入していることが強く疑われることから、金融商品取引法違反の強い疑いあり」。

「本株主」とは大株主の公益財団法人「こどもの未来創造基金」を指す。同基金の理事長である佐藤悠大氏(38)は、大学在学中に起業した会社の売却資金を基に、今では事業投資を手広く行う。

佐藤氏個人と基金、さらに佐藤氏が株主で顧問を務めるシステム開発会社の3者合計で、OKウェイヴ株を16・55%保有する(7月10日時点)。基金が持つOKウェイヴ株は佐藤氏が寄付したものだ。佐藤氏は昨年6月に杉浦氏の友人の勧めで同社株を購入、杉浦氏の経営権奪取を支援した。

だが今年になり、運転資金に窮したOKウェイヴからの貸し付け依頼に対し、佐藤氏の示した条件をめぐって、杉浦氏との関係に亀裂が生じた。佐藤氏が取締役の過半の選任権を求めたことが原因だった。

杉浦氏ら経営陣が「法違反の強い疑いあり」としたのは、7人の個人株主がOKウェイヴ株を買い進め、7月に7人合計で約9%を保有したことに対してだ。焦点は、この7人、もしくは基金などを通じた佐藤氏と7人が「共同保有者」に該当するかどうかだ。

共同して株式を取得したり、議決権を共同で行使したりする(株主総会で賛否を投じる)ことで「合意」している場合は、共同保有者になる。金融商品取引法では5%以上の株式を取得した株主は、財務局に5営業日以内に届け出なければならない。これは共同保有でも同じだ。


杉浦社長のいう‟状況証拠”とは

現状、共同保有者として届け出があるのは、佐藤氏と基金、佐藤氏が顧問を務めるシステム会社の3者のみ。7人については共同保有者としての届け出はない。

杉浦社長は東洋経済の取材に、7人の株主、もしくは佐藤氏と7人が「合意」していることを証明するものはないと話す。ただ、‟状況証拠”はいくつかあると主張する。その1つが7人から郵送され、7月18日に一斉に届いた書面だ。

OKウェイヴはこの頃、債務超過を解消する目的で借金などの債務を株式に切り替えてもらうデット・エクイティ・スワップ(DES)の実施を公表、臨時株主総会に諮る予定だった。

だが、当時の株価の6割程度で新株を発行するDESの条件に7人が反対を表明。さらに株主の提案する取締役を追加するよう求めた。結果、現経営陣はDESの条件変更を迫られた。

杉浦氏は、7人の書面が言葉の使い方は違っていてもほぼ同じ内容であったことに違和感を示す。しかもDES実施の公表後、7人全員が持ち株数ゼロの状態から株を取得している点も不可解だと指摘する。後に反対するのであれば、買わなければよかったのではないかという理屈だ。

これらの状況証拠から、杉浦氏は弁護士と相談のうえで「強い疑い」と説明資料に記載することにした。

なお、8月1日に佐藤氏は基金を通じて新たな取締役5人を追加する株主提案を送付した。ただ、「株主であることを証明する書類の有効期限が切れており要件を満たさなかったため」(杉浦氏)、定時株主総会の議案には上げられていない。

一方、疑惑の目を向けられた佐藤氏は憤懣やるかたない。冒頭で紹介した杉浦氏ら現経営陣を痛烈に批判する文面は、この佐藤氏がまとめた反論資料に記載されている。


佐藤氏の反論資料(全17ページ)には、OKウェイヴの経営陣を痛烈に批判する文面が続く(記者撮影)

資料では、OKウェイヴの株価の下落が続いていることを問題視。「私の望みは『会社の価値を上げてほしい』の一点につきる」と訴える。杉浦氏に社長を続けてもらったうえで、株主の意図をくみ取る取締役の増員を求めているだけであり、「経営権はマストではない」と説明する。

佐藤氏いわく「7人との合意はない」

7人の株主との合意はあったのか。東洋経済が尋ねると、書面回答で「まったくない」と否定した。

佐藤氏によると、6月前半から複数の株主を訪問し、OKウェイヴ株を自分に売ってくれないかと持ちかけていた。その際、DESについて話題を振ると実施に反対する株主が多かったという。その中で実際に反対表明の行動に移したのが7人ではないかとする。なお7人のうち2人は面識があった。「OKウェイヴへの投資に関する愚痴を聞いてもらう間柄だった」そうだ。

定時株主総会の2日前となる9月26日。OKウェイヴは、新たな社外取締役の候補としていたうちの1人が候補を辞退したと発表した。アドバイザリー契約を結び、マーケティングや新規事業開発に関する助言を行ってもらうというので、関係が切れたわけではないが、あまりにも急な変更だ。

開示資料には理由が「一身上の都合」としか記されていない。しかし、この候補は9月初旬に杉浦氏、佐藤氏の仲立ちをした際、佐藤氏の意見に理解する姿勢を示していたとされる。

ウルフパック疑惑については、佐藤氏の説明だけをもって完全に「シロ」とするにはまだ説得力に欠ける。ただ、杉浦氏ら現経営陣に完全に理があるとも言いがたい。9月28日の定時株主総会を無事乗り切ったとしても、波乱は収まりそうにない。

(緒方 欽一 : 東洋経済 記者)