中国のBYDは、コンパクトEV「ドルフィン」の日本での価格を363万円からとした。国の補助金65万円を勘案すれば、普及の目安とされる300万円を割り込む298万円となる(記者撮影)

「価格、航続距離、安全性のすべてがそろったコンパクトEVの決定版としてご選択いただける商品に仕上がっている」

中国の自動車メーカー大手・BYDは、9月20日、日本でコンパクトEV(電気自動車)「ドルフィン」の販売を開始した。同日行われた価格発表会で、BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長は、冒頭のように語って胸を張った。

日本向けのドルフィンは、電池容量と航続距離の違いから来る「標準」と「ロングレンジ」の2グレードを用意。価格はそれぞれ363万円と407万円に設定した。国のクリーンエネルギー自動車導入促進補助金65万円を勘案すれば、標準グレードなら実質298万円となる。東京都ならさらに45万円の補助金を受けられる。

世界で最も注目されているEVメーカー

1995年に中国の深圳市で携帯向けのバッテリーメーカーとして創業したBYDは、2003年に国営自動車メーカーを買収することで自動車事業へ参入した。2022年3月にガソリン車の生産から撤退し、現在はEVとプラグインハイブリッド車(PHV)に特化している。

2022年には、全世界でEVを91.1万台(前年比2.8倍)、PHVを94.6万台(同3.5倍)販売した。EVでは、同じ期間に131.3万台(同40.3%増)販売したテスラを猛追している。目下、世界で最も注目されている自動車メーカーといってよい。

そのBYDが日本の乗用車市場への参入を表明したのは昨年7月のこと。今年1月末には第1弾となるコンパクトSUV(スポーツ多目的車)「ATTO3」を発売。第2弾のドルフィンに続き、今年末頃には高級セダン「シール」の投入も予定する。1月末時点に20店(開業準備室)からスタートした取扱店舗は、足元で48店まで拡大しており、2025年度末までに全国100店舗以上を整備する方針だ。

ドルフィンは全世界で累計43万台を販売したBYDのグローバルモデルだ。日本参入に当たって機械式駐車場に対応できるように車高を調整したほか、ペダルの踏み間違いによる急加速を防止する誤発進抑制システムの機能を新たに追加するなど、日本の交通事情に合わせて仕様を変更するなど本気度が伺える。

もっとも、ドルフィンについて「2023年度3月末までの6ヵ月で1100台販売することが目標」(東福寺社長)。ATTO3(440万円から)の販売台数が、店舗数も少ない1月末から8月末までで700台だったことと比べても、さほど高い目標を置いているわけではない。

日本は海外ブランドに厳しく、かつEV後進国

そもそも日本は、海外の自動車メーカーにとって非常に厳しい市場だ。海外ブランドの年間販売台数は24.2万台、販売総数に占めるシェアは5.8%(2022年)しかない。しかも、その3分の2は独ブランドである。

EVの普及も遅れている。2022年度の国内のEV販売台数は約7.9万台で、新車販売台数の1.8%にとどまっている。中国の20%、EUの12.1%、アメリカの5.8%(いずれも2022年)と比べるとEV後進国といえる。

2022年度に日本で最も売れたEVは日産自動車の軽EV「SAKURA」の3.3万台。SAKURAの兄弟車でもある三菱自動車の軽EV「eKクロスEV」もそれなりに売れている。いずれも航続距離は180キロメートルと短いが、254万円からという低価格が支持されたようだ。

軽以外の「登録車」では、早くからEVに力を入れてきた日産の「リーフ」や「アリア」が健闘しているが、トヨタ自動車をはじめとする他の国内勢のEVは1000台にも達していない。一般の消費者にとって、EVはまだまだ縁遠いのが実態だ。


ただ、軽EVを除けば、最も安いリーフでさえ408万円(航続距離は322キロメートル)からで、ほかはもっと高いこともEV購入のハードルになっていると考えられる。363万円の標準グレード(東京都なら実質253万円)で、400キロメートルの航続距離を持ち、運転支援技術や各種装備のスペックでもリーフを上回っているドルフィンが、日本市場でどこまで受け入れられるかは注目に値する。

ちなみに、本国の中国ではドルフィンのスタート価格は約230万円。車載電池の「ブレードバッテリー」やモーターといったコア部品を内製しており、EVのコスト競争力は日本勢を圧倒している。

BYDは南米や欧州といった90カ国以上で販売し、タイとブラジルではEV工場の建設を進めている。日本市場でBYDがすぐに一気にシェアを獲得することはないにしろ、その存在は日本メーカーにとって脅威であることは間違いない。


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(井上 沙耶 : 東洋経済 記者)