石川祐希のAttack The World vol.7

(vol.6:男子バレー日本代表は進化も「達成感はまったくない」理由>>)

 バレーボール男子日本代表の石川祐希(ミラノ)は、シーズン当初に掲げた「アジア選手権優勝」も有言実行した。アジア最大のライバル、イランでの完全アウェーの過酷な環境も乗り越え、チームとして着実に歩みを進めている。今季最大の目標に掲げる、9月30日開幕のパリ五輪予選まで残された時間はわずか。五輪切符をつかむべく、さらなる進化を期す。


男子バレー日本代表のキャプテン石川祐希

【若い2選手のプレーをどう見たか】

――開催地のイラン・ウルミアはアクセスも悪く、移動も大変だったようですね。コンディションを合わせるのも大変だったのではないでしょうか。

「イラン入りの前に、トルコで合宿をしました。トルコ到着の翌日、トルコと練習試合をしましたが、コンディションが悪くて負けてしまいました。その次にエジプトとも練習試合をしたのですが、僕は腰を痛めてしまって出られなかったんです。移動して次の日に試合をしたので腰に痛みが出てしまったのか、それともベッドがいつもよりも柔らかかったので、その影響があったのか。トルコ合宿の後、イランに移動してからは痛みが出なかったので、引きずらずにすみました」

――アジア選手権からセッターの山本龍選手(ディナモ・ブカレスト)が合流しました。これまであまり出場機会がなかった甲斐優斗選手(専修大)らも実戦でプレー時間を長く得ることができ、経験を積めましたね。

「山本選手はトルコに行く前のナショナルトレーニングセンターでの合宿にはいなくて、トルコからの合流だったので"ぶっつけ本番"という状態でした。なので、少しでも経験を積んでほしいと思っていたので、プレー時間があってよかったです。2枚替えで入ってきた時にもちゃんとプレーできていたので評価できると思います。まだアタッカー陣と合っていないところもありますが、これから練習を一緒にしていくことで時間が解決してくれるでしょう。素質はいいものを持っていると思います。

 甲斐選手は、ネーションズリーグ(VNL)ではピンチサーバーとしての出場だったので、プレー時間が少なかった。だから1次リーグは相手とレベルの差があったので、試合に出るべきだと思っていました。どんな試合だったとしても、試合でプレーした経験を積むことはメリットしかありません。試合勘をつかむという意味でも経験できたのは大きかったと思います」

――その2人を筆頭に、これまで出場機会が少なかった選手たちがプレーしているのをベンチから見て、キャプテンとしてどのように感じましたか。

「相手と力の差があって余裕がある試合だったので、そこだけでは評価できないというのが正直な感想です。ただ、どの選手も安定してプレーできています。アジア選手権はVNLとは違い、勝ち切らないといけない相手に対してしっかりプレーをすることが大事でしたが、そこに関してはできていました」

【完全アウェーでイランに勝利した意味】

――前回のアジア選手権は千葉で行なわれ、決勝でイランに敗れました。今度は相手のホームでしたが、やり返してやるという思いはありましたか。

「前回は東京五輪が終わった後で、そのシーズンの最大の目標が終わった後だったので、モチベーションを維持するのが難しい状況でもありました。でも、今回はアジア選手権の後にパリ五輪予選が控えています。そのためのステップだと考えていました。

 アウェーの雰囲気で、メンバーを揃えてきたイランに勝ちたいという思いが非常に強かったです。それが決勝で、僕だけでなく全選手がしっかり気持ちを上げて、いいパフォーマンスを出せたことにつながったと思います。アジア選手権のレベルを考えると、決勝以外はコンディションがよかろうが悪かろうが、気持ちが作れていようがいなかろうが、勝ててしまう大会です。大会の入りは決してすごくよかったわけではありませんが、選手それぞれが決勝に向けてパフォーマンスを上げていけたことに意味があると思います」

――試合後には、これまで味わったことのない雰囲気や環境だったとおっしゃっていました。どのような感じだったのですか。

「会場のアウェーの雰囲気もそうですし、ホテルでの食事もそうです。ホテルからあまり外に出られず、常にホテルで過ごす生活でしたがネット環境がよくなかったこともストレスでした。食事は、イランの主食は米なのですが、長粒米でパサパサしており量を食べるのがきつかった。パスタもあったのですが、辛い味つけであまり口に合いませんでした。炊飯器をチームで持ち込んでおり、現地の方が日本米に近いお米を用意してくれたおかげで何となりましたね。

 短い期間で試合がたくさんあったので、エネルギーをしっかり補給しなければいけません。一番欠けてしまいそうなところだったので、お米を食べられたのは本当に助かりました。食事は決して満足いくものではなかったですが、その中でも勝ちきるという結果を残せたのはひとつの成果だと思います」

――会場ではブブゼラ (南アフリカ共和国の民族楽器。チア・ホーンの一種)も鳴り響いていました。独特な雰囲気でイランと対戦し3−0で勝ちました。

「あまり経験がない会場の雰囲気でした。歓声もブブゼラの音もすごくて、イラン戦の第1セットはコート上で選手同士の声がまったく聞こえない状況だったんです。自分たちが点を取っても、点を取っている感じがしませんでした。逆にイランが点を取ったら流れに乗ってくるという難しさがありました。

 それに加えて、普段は相手がハイセットなどになった場合、ブロックに跳ぶか跳ばないかはリベロが判断して指示を出します。でも、声が聞こえないのでそれもできない状況でした。なので、前の選手の動きを見て後ろの選手が判断するというシステムに変更して対応しました。

 第1セットを取ったことで、第2セットからは歓声もブブゼラの音も少し小さくなったのでいつもどおりできました。イランは乗せてしまうとどんどん勢いに乗ってくるチームなので、第1セットを取れたことがよかったです。最後の第3セットでは、イランへのブーイングのほうが大きくなっていました。それは日本がしっかりとしたバレーをできていたからこそ。一歩間違えれば相手に流れを持っていかれる試合だったので、3−0で勝てたことは大きいと思います」

――アウェーでイランに完勝したことは今後にもつながりそうですね。

「イランに勝つことが難しかった時代も僕は過ごしています。だからこそ、自分たちが『成長している』『強くなっている』と感じます。アジアのライバルとしてイランはずっと意識しなければいけません。その相手に僕たちの強さを証明できたことは大きいです。

 VNLでも勝ちましたが、アジア選手権では終始リードしてゲームを進められたので、日本がイランよりも上の位置にいると示せたと思います。これから、イランの選手たちは、日本と試合をする時はネガティブな気持ちになると思います。パリ五輪、その後のロサンゼルス五輪を見据えても、イランに対して日本は強いというイメージを与えられたことには意味があります」

――アジア選手権後、少しのオフを挟んで沖縄、ナショナルトレーニングセンターでの合宿を経てパリ五輪予選を迎えることになります。

「沖縄では追い込んだ練習ができる期間なので、しっかり追い込んで個人のスキルを高めます。その後、チームとしてしっかり仕上げていきたい。個人的にはブロックとレセプションをしっかり練習し、サーブももっと安定させていきたいと思っています」

(vol.8:五輪予選で証明したい強さ「何かを変えるきっかけを作れる自信はある」>>)

【プロフィール】

◆石川祐希(いしかわ・ゆうき)

1995年12月11日生まれ、愛知県出身。イタリア・セリエAのミラノ所属。星城高校時代に2年連続で三冠(インターハイ・国体・春高バレー)を達成。2014年、中央大学1年時に日本代表に選出され、同年9月に代表デビューを飾った。大学在学中から短期派遣でセリエAでもプレーし、卒業後の2018-2019シーズンからプロ選手として同リーグで活躍。2021年には日本代表のキャプテンとして東京五輪に出場。29年ぶりの決勝トーナメント出場を果たした。