フランスのパリ・サンジェルマンからサウジアラビアのアル・ヒラルに完全移籍することが発表されてから約1カ月──。ついにネイマールの新天地デビューが実現した。

 9月16日に行なわれた2022−23サウジ・プロリーグ(SPL)第6節、アル・ヒラル対アル・リヤドの一戦。ホームの首位アル・ヒラルは、前半にセルビア代表FWアレクサンダル・ミトロヴィッチとサウジアラビア代表左SBヤセル・アル・シャハラニがゴールを決めて2-0とリードすると、迎えた後半64分、ポルトガル人監督のジョルジェ・ジェズスは3選手を同時に交代。そのうちのひとりとして、ネイマールが大歓声のなかでピッチに登場した。


ついにサウジデビューを飾ったネイマール

 するとその4分後、相手ペナルティエリア手前でブラジル代表FWマウコムからのパスを受けたネイマールは、絶妙なチップキックでDFとGKの間に浮き球のパス。相手GKの飛び出しでマウコムのシュートはゴールに届かなかったが、詰めたサウジアラビア代表MFナセル・アル・ドサリがネットを揺らし、さっそくネイマールが華麗な技で本領を発揮した。

 さらに83分、ネイマールはカウンターからマウコムのゴールをアシストすると、続く85分にも自ら放ったシュートが相手のハンドを誘いPKを獲得。PKキッカーはサウジアラビア代表MFサレム・アル・ドサリに譲ったが、チームの4点目を生み出した。

 ネイマール劇場はまだ終わらず、試合終了間際の95分にも自らのシュートを相手GKが弾き、それをアル・ドサリがフィニッシュ。最終的にアル・ヒラルは6-1で大勝し、ネイマールはデビュー戦から別格の存在感を示した。

 この試合の約1週間前、ネイマールはブラジル代表として2026年ワールドカップ南米予選のボリビア戦で2ゴールをマーク。今は亡きサッカーの王様ペレが保持していたブラジル代表通算得点記録を更新し、歴代最多得点記録(79得点)保持者となったばかりだった。

【サウジ4クラブで約760億円もの巨額投資】

 そんな現役バリバリの「ブラジル代表10番」がサウジアラビアに移籍したというニュースが報じられた時、世界中のサッカーファンに衝撃が走ったことは記憶に新しい。しかし、昨年12月にクリスティアーノ・ロナウドがアル・ナスルに移籍したのを皮切りに、今夏は一流選手たちのサウジアラビア行きが続々と決定。SPLが移籍マーケットの主役に躍り出た。

 今夏にサウジアラビアのクラブが投資した選手獲得資金の総額は、なんと約9億5700万ユーロ(約1510億円/以下『Transfermarkt』調べ)。さすがにリーグ全体で約28億ユーロ(約4417億円)を投資したプレミアリーグには及ばなかったが、それでも3位のリーグ・アン(約9億700万ユーロ/約1430億円)を上回り、今夏の市場における総投資額で2位にジャンプアップしている。

 なお、4位以下はセリエA(約8億5600万ユーロ/約1350億円)、5位ブンデスリーガ(約7億4800万ユーロ/約1180億円)、6位ラ・リーガ(約4億4100万ユーロ/約653億円)と続く。SPLはヨーロッパ5大リーグに割って入った格好だ。

 そのなかでも特に際立っているのが、サウジアラビアの政府系ファンド「PIF」が株式の75%を保有する4クラブ「アル・ヒラル」「アル・ナスル」「アル・イテハド」「アル・アハリ」の常軌を逸した補強ぶりだ。

 まず、ネイマール(PSG→/31歳)を移籍金9000万ユーロ(約142億円)で獲得したアル・ヒラルは、前述のミトロヴィッチ(フラム→/28歳)やマウコム(ゼニト→/26歳)のほかに、ポルトガル代表MFルベン・ネヴェス(ウルヴス→/26歳)、セルビア代表MFセルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ(ラツィオ→/28歳)、セネガル代表DFカリドゥ・クリバリ(チェルシー→/32歳)、そしてGKにもモロッコ代表ヤシン・ブヌ(セビージャ→/32歳)といった実績十分のビッグネームを大量に補強。トータル約3億5300万ユーロ(約557億円)という突出した選手獲得資金を今夏に投下した。

【サウジ入りしたのは30歳前後のトップ選手ばかり】

 アル・ヒラルに続くのが、約1億9800万ユーロ(約312億円)の資金を投資したアル・アハリだ。

 スペイン代表の未来とも評されるMFガブリ・ベイガ(セルタ→/21歳)を4000万ユーロ(約63億円)で強奪したのをはじめ、アルジェリア代表FWリヤド・マフレズ(マンチェスター・シティ→/32歳)、ブラジル代表DFロジェール・イバニェス(ローマ→/24歳)、トルコ代表DFメリフ・デミラル(アタランタ→/25歳)、セネガル代表GKエドゥアール・メンディ(チェルシー→/31歳)、コートジボワール代表MFフランク・ケシエ(バルセロナ→/26歳)、元フランスU-21代表FWアラン・サン=マクシマン(ニューカッスル→/26歳)、そしてフリー移籍でブラジル代表FWロベルト・フィルミーノ(リバプール→/31歳)も獲得。ひと夏で豪華絢爛な陣容が完成した。

 また、クリスティアーノ・ロナウドが所属するアル・ナスルも負けておらず、約1億6500万ユーロ(約260億円)の資金を使ってヨーロッパから大量補強。セネガル代表FWサディオ・マネ(バイエルン→/31歳)、ポルトガル代表MFオタヴィオ(ポルト→/28歳)、スペイン代表DFアイメリク・ラポルテ(マンチェスター・シティ→/29歳)、コートジボワール代表MFセコ・フォファナ(RCランス→/28歳)、クロアチア代表MFマルセロ・ブロゾヴィッチ(インテル→/30歳)、ブラジル代表DFアレックス・テレス(マンチェスター・ユナイテッド→/30歳)が新たに加入した。

 そしてポルトガル人ヌーノ・エスピリト・サント監督が率いるアル・イテハドも、約1億1900万ユーロ(約188億円)を投資。ブラジル代表MFファビーニョ(リバプール→/29歳)、ポルトガルU-21代表FWジョタ(セルティック→/24歳)、イタリア代表経験もあるDFルイス・フェリペ(ベティス→/26歳)を獲得したほか、フリー移籍でFWカリム・ベンゼマ(レアル・マドリード→/35歳)とMFエンゴロ・カンテ(チェルシー→/32歳)という元フランス代表ビッグネームのダブル獲りに成功。夏の移籍市場・重大ニュースのひとつを飾った。

【今冬の移籍マーケットでもサウジ移籍は加速】

 そのほか、4クラブ以外を移籍先に選んだヨーロッパ組を挙げると、イングランド代表MFジョーダン・ヘンダーソン(リバプール→アル・イテファク/33歳)、オランダ代表MFジョルジニオ・ワイナルドゥム(パリ・サンジェルマン→アル・イテファク/32歳)、元フランスU-21代表FWムサ・デンベレ(リヨン→アル・イテファク/27歳)、ベルギー代表FWヤニック・カラスコ(アトレティコ・マドリード→アル・シャバブ/30歳)、セネガル代表FWアビブ・ディアロ(ストラスブール→アル・シャバブ/28歳)、カメルーン代表FWカール・トコ・エカンビ(リヨン→アブハ/31歳)、そしてかつて京都でプレーしたこともあるブラジル人DFアンドレイ・ジロット(ナント→アル・タアウン/31歳)と、枚挙にいとまがない。

 ちなみに、SPLで最高年俸とされているのはアル・ナスルのクリスティアーノ・ロナウドで、実に推定2億ユーロ(約316億円)。続いて高額なのが、今夏に2年契約をかわしたネイマールで推定1億5000万ユーロ(約237億円)。3年契約のベンゼマと4年契約のカンテも推定年俸1億ユーロ(約158億円)と言われており、SPLは移籍金以上に人件費にも多額の資金を投資していることがわかる。

 これだけの年俸を手にできるとなれば、今後の人生を見据えてトッププレーヤーたちがサウジアラビアに流入するのもうなずける。サウジアラビア政府がスポーツに投資を続けるかぎり、おそらくこの流れは誰にも止められそうにない。

 果たして、冬の移籍マーケットでは誰がサウジアラビア行きを決めるのか。今後の動向から目が離せない。