角田裕毅、今季最大のアップグレードで下位脱出に期待「0.2秒以上は速くなっている」
シンガポールの街に夜の帳(とばり)が降りてからずいぶん時間が経って、ようやくアルファタウリのマシンにボディカウルが取りつけられた。
コクピット脇のサイドポッドは内側へと深くえぐり込まれ、後方もタイトに絞り込まれている。そしてサイドポッド上面は後方に行くにしたがって、溝のように気流の通り道が形成されている。
今シーズン最大というアップグレードが、ようやくかたちになった。角田裕毅の表情がいつになく明るいのも、気のせいではない。
角田裕毅はローソン(左)やアロンソ(右)と談笑
「今週はかなりのアップグレードが入り、今シーズンのなかでも大きなものになると思います。手応えはけっこうあります。
イギリスGPのアップデートの時はシミュレーターでも大きな変化はあまり感じられませんでしたし、ラップタイムのゲインもほとんどなかったんですけど、今回はシミュレーター上でもすでにマシン特性の変化を感じました」
今回のアップデートは、最大ダウンフォース量を追求するというよりも、ハードブレーキングからコーナーへターンインする際に空力バランスが乱れないようにし、リアの安定感を高めることを目的としている。
これはAT04が開幕前テストからずっと抱えてきた問題であり、第3戦オーストラリアGP、第11戦イギリスGPに投入したアップデートで改善を図ったが、改善しきれなかったものだ。
「ブレーキングからのエントリーでのリアサポート(安定性)がかなり増えて、一発で曲げやすいというか、自信を持ってコーナーに入っていけるクルマになっていると思います。今まではリアのサポートが足りなかったことは明らかでした。
それはダニエル(・リカルド)やリアム(・ローソン)からも同じフィードバックだったので。今回のアップデートは開発として間違いなく正しい方向に進んでいますし、ドライバーとしてさらに自信を持って走ることができるマシンになればと思います」
【アルファタウリは市街地コースで好走している】シミュレーター上では、ラップタイムにして少なくとも0.2秒、もしかすると0.3秒ものゲインになるという。これは大接戦の今のF1において、非常に大きな意味を持つ。
このゲインが現実になれば、いつも10チーム中8番目から10番目のクルマでしかなかったアルファタウリが、下位集団争いから抜け出すことができる。
「シミュレーター上では0.3秒くらい、少なく見積もっても0.2秒以上は速くなっていると思います。これはけっこう大きいです。ハースやアルファロメオとの争いから抜け出せればと思いますし、できればウイリアムズやアルピーヌくらいまでいければ......」
シンガポール入りした角田裕毅は終始笑顔
ブレーキングからターンインで攻めることができれば、ブレーキングに自信を持つ角田の腕がさらに生きる。マシンの限界を攻める予選でのパフォーマンス向上につながり、そうすればもっと上位で戦うことができるようになる。アルファタウリにとってはゲームチェンジャーになり得る大きなアップデートだ。
シンガポールGPの舞台「マリーナベイ市街地サーキット」は低速や中低速の90度コーナーが多く、バンピーな路面でメカニカル性能が求められる。
そういう意味で、アゼルバイジャンGPやモナコGPといった市街地でQ3に進出してきたアルファタウリのマシンにとっては好走が期待できるサーキットだ。そこに加えて今回のアップデートが投入されるのだから、期待が高まらないわけがない。
実際に第12戦ハンガリーGPでフロアとフロントウイングをアップデートして以来、マシンは改善の兆しが見え始めた。夏休み明けの2連戦ではQ3が狙える位置につけていたのだから、なおさらだ。
もちろん、壁に囲まれてリスクがそこら中にあるサーキットだけに、油断は禁物だ。昨年は初挑戦のレースでブレーキングポイントを誤ってクラッシュを喫しているだけに、2回目のシンガポールGPには「より慎重なアプローチを取る」と角田自身も語っている。
【今季これまで失ってきたものを取り戻す】「FP1では路面コンディションの確認をして、マシンがこのサーキットでどんな挙動をするか、このサーキットに合っているか、第一印象を探ることになります。そこから予選で100%を引き出せるようにビルドアップしていく必要があります」
このアップデートされたマシンでQ3の常連になり、常に入賞を果たせるポジションへと浮上したい。
角田は、力強く語った。
「まずはFP1でクルマのフィーリングを確認し、できるだけチームにフィードバックして、クルマのパフォーマンスがよければQ3で7〜8位まで行けるようなパフォーマンスを出すことが目標になります。決勝では今まで獲れなかった分を取り返していければと思っています」
これまでに失ってきたものを取り戻す──。アルファタウリの逆襲が、ここから始まる。