清水邦広選手インタビュー 後編

(前編:石川祐希を中心に今年の日本男子バレーは「ひと味違う」 攻守の精度を絶賛>>)

 パナソニックパンサーズの清水邦広選手に聞く、今年度の男子バレー日本代表。後編はバレーボールネーションズリーグ(VNL)で活躍した各ポジションの主力選手や新戦力、9月30日から始まる「パリ五輪予選(OQT)/ワールドカップバレー」への期待を語った。


今年度に活躍が目立つ宮浦健人(左)と、チームの核として安定したプレーを見せる郄橋藍

【郄橋の成長と、「二刀流」の新戦力】

――清水選手も日本代表時代、2009年のワールドグランドチャンピオンズカップで銅メダルを獲得していますが、今回のVNLの銅メダル獲得についてどう思いますか?

清水 本当に実力で取れた銅メダルだと思いますし、これからが楽しみなチームだとも思いました。若くていい選手がたくさんいますし、代表メンバーの全員が主人公になれるレベルで、華もありますね。

――その中の主な選手たちについて、ポジション別に伺っていけたらと思います。リベロの山本智大選手やセッターの関田誠大選手については前編ですでに語っていただいたので、まずはアウトサイドヒッター陣から。今やチームの核になっている郄橋藍選手についてはいかがですか?

清水 郄橋藍選手はイタリアのセリエA、特に2年目の昨シーズンにスパイク能力が上がった印象です。東京五輪では、決め球がライン(ストレート)でブロックアウトが多かったのが、インナーに打つ力、クロスで飛ばす力が増しました。特に前衛レフトからのスパイクは幅が広がりましたね。パイプもしっかりと打てますし、打ち分けができるので的が絞りづらくなった。

 レシーブなどのディフェンスは元から能力が高かったですが、ブロックに関してもタイミングと手の出し方、位置取りがすごくうまいので、しっかり止めたり、タッチが取れるようになりましたね。味方のレシーバーも拾いやすいと思いますよ。

――今大会で新たに注目された選手のひとりが、専修大2年の甲斐優斗選手(アウトサイドヒッター/200cm)だと思います。リリーフサーバーなどでの出場が多く、大会中に足の小指を疲労骨折するアクシデントがありましたが、復帰後のアジア選手権でも活躍しました。

清水 甲斐選手はミスが少なく、ベテランのようなプレーをする印象です。彼はミドルブロッカーもできますが、ミドルとオポジットでプレーできる選手は世界にたくさんいますけど、ミドルとレフトの両方ができる選手はなかなかいないので、器用な選手ですね。

 スパイクはすごく打点が高くて被ブロックが少ないですし、ブロックされてもフォローしやすいボールが返ってくる。打ち方もうまいですよ。サーブに関しては高いトスを上げて打つタイプではなく、越川優さんのようにトスが低めで走りながら打つスタイル。ミスが少なく相手を崩せていました。

――甲斐選手本人は、「レフトでやりたい」とコメントしていました。

清水 両方できるのは大きな武器ですし、今はどちらかに決めず、両方とも練習していっていいと思います。伸びしろがある、本当に素晴らしい選手が出てきましたね。

【宮浦の成長に驚き】

――ブラジル戦やイタリアとの3位決定戦で見事な活躍を見せた、オポジットの宮浦健人選手についてはいかがですか?

清水 言葉が出ないぐらいすごかったです。今回のVNLで最も成長した選手じゃないかと。彼がジェイテクトSTINGSにいた時に何回も対戦しましたが、昨シーズンをポーランドで過ごしたことで高さ慣れをしたように感じます。もともとコースの打ち分けはできていましたが、ブロックに当てて出す力が上がりましたね。

 レフトからの打ち方もすごく成長しています。S1ローテ(セッターがサーブを打ったあとのローテーション。サウスポーのオポジットにとっては"鬼門")で石川選手にトスが偏りがちな場面でもしっかりと打てていました。ジェイテクトでプレーしていた時は、あそこまでレフト打ちはうまくなくて、ライトに回りこんで打っている時もありましたけどね。なぜあそこまでレフトからの決定率が高くなったのか......どんな練習をしたのか、僕も同じサウスポーのオポジットとして興味があります。

あと、ポーランドのリーグでは出場機会が限られてリリーフサーバーとしても出ていましたが、そこで腐らず、何度も劣勢の場面で出ていって数少ないチャンスをモノにしてきた。そんな経験が自信につながっているんじゃないかと。サウスポー特有の取りづらい回転もしているので必ずレシーブが崩れますし、ミスが少ないのも素晴らしいですね。

―― 一方で、同ポジションの西田有志選手は、ケガの影響などもあって本来の力を発揮できなかったようにも見えました。

清水 僕はそこまで心配していません。彼の爆発力は試合を逆転できる、決定づけることができますが、その役割を自分で背負いすぎている部分もあると思うんです。まだ若い選手ですし、「プレッシャーを感じないで」というのは難しいかもしれないですけど、もう少し肩の力を抜いてプレーできたらいいなと思っています。

――来季からはパナソニックパンサーズのチームメイトにもなりますが、清水選手の存在も大きな支えになりそうですね。

清水 彼は身長がそこまで高くない分、めちゃくちゃジャンプをしてエネルギーをたくさん使うので、自分では感じていない体の負担もあるはず。そういったコンディション面で僕が気づいたことがあれば伝えたいですし、トレーナーやスタッフも力になってくれるでしょう。

【三者三様で存在感を放つミドルブロッカー】

――チームメイトで言うと、ファイナルラウンド準決勝のポーランド戦でノータッチエースを決めた、20歳・西山大翔選手の代表デビュー戦はどう見ていましたか?

清水 2セット目終盤の僅差の場面で、いきなりリリーフサーバーで出てきてエースが取れる選手はそういません。だいたいの選手は、大舞台になればなるほど実力を発揮できるタイプと、プレッシャーにやられて思うようなプレーができないタイプの2つに分かれますが、彼はまさに前者です。

 ただ、西山選手だけじゃなく、今の代表選手は大舞台のプレッシャーをはねのけ、むしろ自分の力にして活躍できる選手ばかり。それもチームの成長につながっていますし、観る者を惹きつける力がありますよね。

――初めて代表でプレーする西山選手に対して、大会前に何かアドバイスをしましたか?

清水 僕がいつも彼に言っていることなんですが、「ポテンシャルは海外のトップ選手にも負けないものを持っているから、どんな状況であれ縮こまらず思いっきりプレーするべき」ということ。ミスになっても、貴重な経験になりますからね。それがまさにポーランド戦で、2本目のサーブはミスになりましたけど、そこから学ぶこともあると思います。

――続いて、「存在感が増した」というミドルブロッカー陣ですが、こちらもやはりチームメイトの山内晶大選手のプレーはいかがでしたか?

清水 山内選手はもともと、攻撃力の高さが持ち味。関田選手の使い方も非常にうまいんですが、ラリー中にしっかりと決めきれるのが武器ですね。Aクイックのほうが得意でしたが、Bクイックもしっかりと打てていて決定率も高かったですし、自信になったんじゃないかと。

 サーブもブレイク率がすごく高かったですね。高い打点からのフローターサーブは、Vリーグの選手よりも海外の選手のほうが苦手な選手が多い印象で、そこをしっかり狙えていました。

 ブロックに関しては、彼のポテンシャルならもっと止められるし、もっとタッチも取れるはず。ジャンプのタイミングや手の出し方だと思いますが、これは経験によって磨いていく部分だと思いますし、自分で気づいている面もあると思うのでそれを生かしてほしいですね。

――他の2人のミドル、小野寺太志選手、郄橋健太郎選手の印象は?

清水 小野寺選手は、トータルとして一番バランスがいい選手だと思います。サーブ、スパイク、ブロックなどのすべてにおいて、一定の力が発揮できるタイプです。相手のブロックが一枚になれば必ず決めてくれるので、関田選手も勝負どころで上げられる。ブロックは、高さがある相手に対して真正面から高さで勝負するのではなく、タイミングと手の出し方で仕留められるのがうまいですね。

 郄橋健太郎選手と言えば、フィジカルの強さを生かしたブロック力。そこで存在感を発揮する選手ですが、スパイクの力も徐々に上がってきているので、彼が出るときのブロックのタッチや威圧感は本当に脅威になっているんじゃないかと思います。

【主将・石川の「勝たせる能力」】

――最後に、チームをまとめる主将の石川選手についてお願いします。

清水 石川選手はすべてのプレーがトップクラスではあるんですが、プレーだけではなく勝たせる能力が高まっていると思います。マインドの部分ですが、それはキャプテンになってから変わり始めたところですね。以前は「自分で頑張ろう」という気持ちも見えたのが、今は「みんなで頑張ろう」という色が強くなっているように感じます。

 試合の中で「相手に流れを持っていかれたくない」といった大事な場面では、必ず石川選手が絡んでいる。そういったポイントを押さえ、チームを鼓舞できているからこそ、チームが大崩れしなくなっているんだと思います。

――清水選手は石川選手の代表デビュー時から一緒にプレーしてきたからこそ、大きな変化を感じるのかもしれませんね。

清水 強豪チームほど石川選手をマークするので、若手の時はそういったプレッシャーで崩れてしまうケースがあった。キャプテンになってからは、そういったものをはねのける力が強くなってきていると思います。そういった力があってこそ、プレーの引き出しの多さも際立ち、さまざまな場面で点数が重ねられている。周りの選手もそれに倣って全体のレベルが上がっている印象があります。

――チームはアジア選手権を制し、OQTに臨みます。パリ五輪出場に向けてカギとなるのは?

清水 アジア選手権はイランでの開催でしたが、いろんな選手を試しながら勝ち進み、さらに力をつけた大会になったと思います。準決勝のカタール戦はセットをひとつ落としたものの、それ以外はすべて3−0のストレート勝ち。選手たちは大会を通して集中力が高く、感心しながら応援していました。

 OQTでは、VNLやアジア選手権で得た自信を、どれだけ相手へのプレッシャーに変えて戦えるのか、という点もポイントのひとつだと思います。かつて、ブラジルなど強豪国に対して日本が「当たって砕けろ」的な精神で挑んだように、今後は海外のチームが「日本は強い」という認識で対策をしてくると思います。いかにそれを跳ね返し、崩れずに相手の心を折れるのか。日本はそういったレベルのチームになったと思います。

 自分たちの力を出せれば必ず結果はついてくるはずですし、過度なプレッシャーを感じることなく戦ってほしいです。連戦が続き、体やメンタルには負荷がかかっているかと思いますが、全員で乗り越えてほしい。日本開催ということでみなさんの声援も味方に、力を発揮してほしいと思っています。

【プロフィール】
■清水邦広(しみず・くにひろ)

1986年8月11日生まれ。福井県出身。福井工業大学附属福井高校から東海大学に進学。20歳の時に日本代表に選出され、2008年に最年少の21歳で北京五輪に出場する。卒業後はパナソニックパンサーズに入団し、長らく日本代表のオポジットとしても活躍。2021年の東京五輪でも日本の準々決勝進出に貢献した。