Xはブランドセーフティ対策の確立に懸命だが、包括的な対策を追求する同社の取り組みはいまも苦戦しており、果てしない戦いのようにも見える。

なにしろ、Integral Ad Science(以下、IAS)やダブルベリファイ(DoubleVerify)に専門的な業務を委託するなど、この問題で一歩前進しても、(主要なブランドセーフティ担当者の流出は言うまでもなく、場当たり的なツイートや決定を連発するイーロン・マスク氏のおかげで)たちまち二歩後退するありさまだ。

ブランドセーフティ対策の認定(あるいはその不在)をめぐるゴタゴタはいまも継続中であり、これが重大な後退要因のひとつであることは間違いない。宙に浮いた状態が長く続くほど、この問題の重症化は免れない。

ブランドセーフティ対策チームはもう存在しない?

XのMRC(Media Rating Council)認定が遅れる一方、TAG(Trustworthy Accountability Group)認定は疑問視されている。この方面の問題解決に進捗が見られなければ、ブランドにとって安全でないというXのマイナスイメージはさらに増大するだろう。結果として、この問題(そして広告主)への対応力にも疑問符が付く。

Xは昨年12月にMRCの事前審査を完了したが、MRCのジョージ・アイヴィ最高経営責任者(CEO)が米DIGIDAYに認めたところによると、正式な監査の時期や範囲については現在も協議中で、具体的な実施の日程は示されなかった。しかも、XがMRCの認定取得を試みるのは今回が初めてではなく、数年前の最初の挑戦では敗北を喫している。

「2017年、Twitter(現X)は広告集計プロセスの一部について事前審査の対象となったが、後に本格的な監査が行われることはなかった」とアイヴィ氏は話す。その背景にはいくつもの理由があり、経営陣の交代もそのひとつだったと同氏は振り返る。「その結果、Twitterは監査の『進行中』というステータスを失い、最新版のブランドセーフティ監査を再開するまでMRCの正式なステータスは付与されなかった」。

このことは今回の監査の動きが非常に鈍いことの説明にもなる。Xのブランドセーフティ対策を担当するチームは、その内部に混乱を抱えている。さらに、対策を推し進め、あるいはその活動を管理する責任者も不在のままだ。

それまでブランドセーフティと広告品質の責任者を務めていたAJ・ブラウン氏が6月にXを去り、9月初めには新しい責任者の募集が行われていた。そこから推測するに、この重要な役職は未だ埋まっていない可能性が高い。それどころか、Xのブランドセーフティチームはもはやまともに機能していないのではないかという噂も一部にはある。

匿名で取材に応じたある業界関係者は、Xにはもはやブランドの安全を確保するチームは存在しないとまで言っている。この人物いわく、「私が知る限り、Xのブランドセーフティチームに残っていた最後のスタッフは、2週間ほど前に退職した」。

責任者の採用を急ぐ必要がある

もしそれが事実で、社内のステークホルダーが不在の場合、つまりTAGの監査に承認を与えられるブランドセーフティ対策の責任者が正式に任命されておらず、さらには(MRCが「人間の介入」と呼ぶ)堅牢な投稿監視のチームが置かれていないなら、それは両団体の要件に違反していることになる。Xは米DIGIDAYのコメントの求めに応じていないが、この状況を鑑みるに、少なくともブランドセーフティの責任者を新たに任命するまで、TAGにしろMRCにしろXがその認定を取得する見込みは極めて薄いと言わざるを得ない。

単刀直入に言えば、Xは責任者の採用を急ぐ必要がある。

事態をさらに混乱させているのは、Xにブランドセーフティ担当のグローバル責任者がいるように見えることだ。ロサンゼルス在住のエリアナ・ティエリー氏が2023年6月からこの役職に就いている。少なくとも、同氏のリンクトインのプロフィールにはそう記載されている。6月と言えば、Xがブランドセーフティ対策の統括者の募集を開始したことが明らかになる2カ月近く前のことだ。Xにブランドの安全を保証する責任者が本当にいるのか否かはともかく、その担当チームは現在、今後の課題に対処できるような状態にはないようだ。

公的な衛生安全検査を受けずに飲食店を開業するようなもの

Xは3月にTAGの認定を無事に更新したが、TAGのマイク・ザネイスCEOはXの調査が現在進行中であることを米DIGIDAYに認めている。Xにはいまも多くの疑わしいコンテンツが投稿されており、TAGのブランドセーフティガイドラインに違反しているという正式な苦情がTAGに寄せられたという。

このように、Xは第3者の認定と明確なブランドセーフティ対策の不在という二重苦を抱えている。この事実は、マーケターがブランド広告を安心して出稿できるプラットフォームを判断する際、必ず検討する3つの基本的な要因のうち、2つを欠いていることを示している。マーケターは通常、適切な業界団体による正式な認定、そして厳しい投稿監視を行う社内チームと、ブランドにとっての適切性と安全性を強化するプロダクト(通常はサードパーティーとの提携を通じて調達)から成る社内機能に基づいて、プラットフォームを評価する。

たとえるなら、広告費の流出を防ぐためのXの取り組みは、公的な衛生安全検査を受けずに飲食店を開業するようなものだ。こうした検査を経なければ、顧客におよぶ危険を考えて、食品基準庁が当該の飲食店に営業停止を命じることもある。Xの場合も同様に、ブランドセーフティを保証する外部の認定と、この問題をしっかりと管理できる社内の専門家が不在となれば、広告主が広告予算の大半を引き揚げるのはもっともなことだ。

Xに広告を出したい気持ちはあるマーケターたち

マスク氏は6月に、Xを去った多くの広告主がすでに戻ってきた、あるいは戻ってくると確認したと主張していたが、7月にはこの発言を撤回し、Xの広告収入が半減していることを認めた。このことからも、Xで支出される広告費がマスク氏のCEO就任以前の水準に遠くおよばないことは明らかだ。

しかし、これはいまに始まった話ではない。

新たな所有者のもとで、高いリスクは避けれない。昨年、そう判断した広告主がこぞってXから撤退したが、業界の観測筋はブランドセーフティ対策が再構築されれば、マーケターは戻り、すべては元通りになると見ていた。彼らはある意味正しかった。

ある種のガードレール的なものが設置されたいま、マーケターの側にもXに広告を出したい気持ちはあるようだ。実際、米DIGIDAYが話を聞いた10人の広告関係者は、Xのブランドセーフティへの取り組みは正しい方向に進む第一歩だという意見で一致していた。その反面、こうした改革を背景に、広告費が増えたという証言は皆無だった。

「ブランドセーフティ対策などの評価は、それを実行するリーダーシップで決まる」。そう話すのは、ゼンメディア(Zen Media)の創業者でCEOのシャーマ・ハイダー氏だ。「さまざまな決定を行う首脳部が朝令暮改を繰り返すなら、広告主はそういうリーダーシップを信用しないし、大事な広告費を託したりもしない」。

現状ではマーケターの理解は得られていない

IASのようなパートナーとの連携は、マーケターにとって受け入れがたい状況を少しでも受け入れやすくすることが目的だ。興味深いことに、IASは同プラットフォームでビューアビリティと無効トラフィックのソリューションを、ブランドセーフティとブランドスータビリティの入札後ソリューションとともに、2017年から提供している。最近になって、Xはブランドセーフティ対策のパートナーを募集したが、結局、IASと提携強化を協議することになった。

両社は1年間の独占契約を結び、IASがXにブランドセーフティとブランドスータビリティの入札前ソリューションを再び提供する運びとなった。実装の日程について、IASのリサ・ウッツシュナイダーCEOは「今年後半にベータ版を公開する予定で、一般向けの提供はその後になる」と述べている。ベータフェーズはごく短期間で、GARM基準にしたがって機能性と連携のテストを行い、一部の選ばれたマーケターに試験運用してもらうための期間だという。

Xがマーケターの懸念にうまく対処し、より強固なブランドセーフティ対策を確立できるか否かは追々明らかになるだろう。現状では、マーケターの理解は得られていない。

「彼らはこうした取り組みの結果をその目で確認したいのだ」と、ベイシステクノロジーズ(Basis Technologies)でサーチおよびソーシャルメディアサービス担当のシニアバイスプレジデントを務めるエイミー・ランプラー氏は話す。

また、「ブランドセーフティだけでなく、Xにはブランドスータビリティの問題もある。ブランドにとって安全なコンテンツであっても、では自社のブランドにふさわしいコンテンツなのかという問題が残るのだ」とし、「その答えがイエスであったとしても、ほかのプラットフォームと同じ水準のパフォーマンスを期待できるのか。現状では未解決の問題があまりにも多く、ほとんどの広告主はXへの本格的な出稿再開に二の足を踏んでいる」と続けた。

[原文:X’s brand safety efforts called into question (again) as MRC and TAG credentials hang in the balance]

Krystal Scanlon(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)