鈴鹿サーキットを舞台に8月26日・27日に行なわれたスーパーGT第5戦。週末は気温30度を超える真夏日となり、今シーズン一番の暑さのなかで両クラス合わせて40台のマシンが熱戦を繰り広げた。

 日産、ホンダ、トヨタがしのぎを削るGT500クラスは、予選から0.001秒単位で順位が入れ替わる超接戦の展開となる。そして最後はポールポジションからスタートしたナンバー16のARTA MUGEN NSX-GT(福住仁嶺/大津弘樹)が決勝でも他を圧倒する力強い走りを見せて優勝。ホンダ陣営にとって待望の2023シーズンGT500クラス1勝目を飾った。


ホンダのエース16号車がようやく本領発揮

 鈴鹿といえば「ホンダのお膝元」として知られるコース。過去にはNSXのマシンがライバルを凌駕する走りを見せ、何度も本拠地でのレースを引っ張ってきた印象だ。

 しかし、ここ数年はライバルメーカーの台頭もあり、特に2020年以降は日産が6連勝を記録。ホンダ勢も決して遅かったわけではないが、ライバルを逆転することができず、鈴鹿サーキットでは2018年の第3戦にワンツーフィニッシュを飾って以来、勝利から遠ざかっていた。

 ホンダは2024年からGT500クラスの参戦車両を「シビックTYPE R-GT」に変更することを発表しており、すでに7月下旬からテスト走行も始まっている。それにともない、ホンダのGT500車両として定着しているNSXは今シーズン限りでGT500クラスでの参戦が終了となる(GT300クラスに参戦中のNSX GT3は継続予定)。

「NSX-GTラストイヤー」を有終の美で終えるべく、ホンダ陣営は2023シーズンの体制を大幅に強化した。特に元F1ドライバーの鈴木亜久里監督が率いる名門ARTAは、スーパーフォーミュラで大活躍中のTEAM MUGENにマシンのメンテナンスを委託し、2台体制での参戦を決定。ライバルメーカーも警戒するほどの「強力タッグ」を誕生させた。

【瞬時の決断で30秒以上ものアドバンテージ】

 そのARTAは前評判どおり、開幕戦から上位に食い込む速さを見せ、勝利も時間の問題かと思われた。だが、レース中に細かなミスが相次ぎ、4戦を終えて最上位は3位とまり。

 特にチームを引っ張る16号車は、歯車が噛み合っていなかった。表彰台圏内で争う走りを毎回見せるものの、富士スピードウェイで行なわれた第2戦と第4戦ではピット作業違反によるペナルティを受けて順位を下げてしまい、開幕戦・岡山でも別のペナルティでポイントを取りこぼすなど、厳しい結果が続いていた。

 それでもチームとドライバーは勝利に向かって、挑戦をあきらめることはなかった。ミス再発防止の対策を講じ、不測の事態に備えた戦略も数パターン用意。チームのがんばりに応えるように、第5戦の予選Q2では福住仁嶺が接戦の末にポールポジションを奪い取ってきた。

 そして日曜日の決勝でも、序盤から16号車の勢いは右肩上がり。さらには11周目に起きたアクシデントを見て、フルコースイエロー(※)が出される前に1回目のピットストップを即断で敢行。これが功を奏し、レース中盤には30秒以上ものアドバンテージを得た。

※=アクシデント車両を回収するためにコース全域が追い越し禁止&時速80km制限になった状態。導入後のピットインも禁止。

 ところが、レース中盤になって思わぬ事実が判明する。イレギュラーのタイミングを早めた1回目のピットで、予定していた量の燃料を補給できていなかったのだ。このままのペースで走り続ければ、ゴールの2〜3周手前でガス欠となる。

 またしても16号車に暗雲が......そんな不穏な空気に包まれた時、危機的状況を冷静に対処したのが今季ARTAに加入した大津弘樹だった。

「燃料が足りない可能性が出てきたとチームから言われて『マージンを切り崩してもいいから燃費を稼いでくれ』との指示を受けました」と大津はその時の状況を語る。

 ペースを落としすぎると、ライバルに逆転される可能性もある。その微妙な塩梅が難しいところではあるのだが、大津は必要最低限のペースダウンで燃費を稼ぎ、どうにかポジションを死守。そしてトップのまま、エースの福住にバトンを託した。

【NSX-GTとともにチャンピオンを獲りたい】

 その後は懸案だったピット作業違反もなく、16号車が順位を守りきって念願のチェッカードフラッグを受けた。折れそうになったメンタルを必死に支え、ついに掴んだ今季初勝利。福住は「激戦のGT500クラスで味わってきた苦い経験が糧になった」と語る。

「GT500クラスに乗った最初の年もすごく苦労して、勝てそうで勝てないレースが続いたこともありました。正直、今年もそういう感じで、パフォーマンスはありながらも結果を残すことができなかった。なによりよりNSX-GTの鈴鹿ラストランで勝てたというのは、すごく大きかったと思います」(福住)

 一方の大津は、GT300クラス時代を含めてスーパーGTでの記念すべき初優勝。ただ、うれしさよりも「ようやく勝てた」という安堵の気持ちのほうが強い様子だった。

「ポテンシャルはあって、勝てそうなところにいたのに、結果につながらないことが続いていました。このもどかしさはチームみんなで感じていたと思うので、うれしいもあるんですけど、ホッとしています」

 そんな大津にとって、今年で参戦終了となるNSX-GTは思い入れのある1台だと語る。

「僕のなかで(NSX-GTは)"節目になる時に乗っているクルマ"です。実績がないにもかかわらず道上龍さんのチームで乗れたのもGT3のNSXでしたし、GT500に上がる時もすごくいいタイミングが重なり、中嶋悟さんのチームに入れてもらえました。そして、今回の初優勝の時に乗っていたクルマもNSX。このクルマとともにチャンピオンを獲りたいなと思います」

 今回の優勝によって16号車の福住/大津組は合計37ポイントとし、首位から12ポイント差のランキング3番手につけた。残り3戦の舞台となる第6戦のスポーツランドSUGO、第7戦のオートポリス、そして第8戦のモビリティリゾートもてぎは、すべてホンダNSX-GTが得意としているコース。十分に逆転可能な範囲とも言える。

 今シーズンの前半戦、ホンダ勢はトヨタと日産の後塵を拝する格好となっていた。しかし昨年と同じように「後半戦からの巻き返し」を見せることになれば、2023年のチャンピオン争いはさらに面白くなるだろう。