殊勲打なのに顔面蒼白 「打たなければよかった」…ベンチも怒り心頭の“衝撃大失敗”
川又米利氏が振り返る“やらかし”…フライをグラブに当て、打球はスタンドイン
どやされて、どやされて、どやされて……。元中日の川又米利氏(野球評論家)は星野仙一監督に何度も怒られたという。実際“やらかしプレー”も多く、土壇場の9回裏に同点タイムリーを打ったにもかかわらず、走塁ミスで闘将に激怒されたシーンはテレビ番組の珍プレーで、何度も取り上げられている。そのプレーも含めて、指揮官からのカミナリにつながった出来事を振り返ってもらった。
川又氏が「よくどやされました」と言って、まず口にしたのが“ベース踏み忘れ事件”だ。「あれは広島戦でした。無死一塁で僕が送りバントして、ピッチャー前にいったんかな。ピッチャーがセカンドに投げてフォースアウト。で、正田(耕三内野手)が一塁カバーに来ていて、その足がベースの上にあったんです。僕は人がいいから、踏んじゃったら、正田が怪我すると思って、飛び越えちゃった。それでアウトになったんです」。
すぐさま星野監督がグラウンドに出てきた。「監督は『何でアウトだ』って抗議に来たんだけど、審判に『ノーベース』と言われて納得するしかない。怒りながら引き揚げていった。その後、怒られた。何て言われたかは忘れたけど、どやされました」。この話には続きがある。「その後、甲子園で同じようなことがあった。僕がファーストゴロを打って、一塁カバーに入った(投手の)御子柴(進)の足がベースの上にあったんです」。
この時。川又氏は「ああって思ったけど、今度は踏んじゃった。普通にね。ノーベースはもういかんと思うじゃん。もう怒られたくないもんね。踏まなかったらどやされるもんね。『お前、2回目だぞ』って言われそうだったしね。御子柴に怪我させてしまい、申し訳なかったけど……」と何とも言えない表情で話した。その流れで「阪神戦といえば(捕手の)木戸(克彦)にやられたこともありましたよ」と続けた。
「僕がランナーで、ホームに余裕でノースライディングで行けると思ったら、パっと足を出されて、ドーンとすっ飛んじゃった。それでタッチアウト。どやされましたよ。監督に。『何で滑らんのじゃ』って。滑っていたら、関係ないだろってことで。でも、もう目の前、ボールが来てないのに、あれは木戸の野郎って思いましたけどね」。星野監督のカミナリは木戸捕手の動きも分かった上でのこと。「やられても怒られたのは僕でした」と川又氏は苦笑しながら話した。。
やらかしプレーで思い出すのはナゴヤ球場での広島戦。ライトでの守備だという。「バッターはランス。初回で満塁。1アウトだったかな。ピッチャーは杉本(正)さんだった。ちょうど薄暮で、カーンと打たれた時、一瞬(打球を)見失って、ウッってなったけど、すぐにあっ、見えた。フェンスにくっついて、よし捕ったと思ったら、ポーンって(グラブから)出ちゃって、スタンドに入っちゃった。犠牲フライで済むところを、満塁ホームランにしてしまったんです」。
同点タイムリーも送球間に二塁進まず…星野監督は激怒
まさかのアシスト。「あの時は一塁ベンチに帰りたくなかったね。杉本さんにごめんなさいって謝って、監督にはどやされるわ……」と、また苦笑いだ。そして、珍プレー番組でも有名なシーンも思い返した。「あれも広島戦でした。ナゴヤ球場でね。1点差の9回裏2死二塁で、ライト前に同点タイムリーを打ったんですけどね……」。
二塁走者の岩本好広内野手がヘッドスライディングでホームイン。川又氏は同点になったのを見て一塁ベースを回ったところでジャンプして喜んでいた。その直後、危険な空気と自らの失敗に気がついた。「(送球間に)二塁へ行けたのに(同点のホームを見ていて)行ってなかったのでね。パッと見たら御大がウワーって何か言っていった。コーチ陣も出てきて『何やっているんや!』って。貴重な同点タイムリーを打ったのに僕が一番悪いみたいになってしまって……」。
喜んだのも束の間、一気に顔面蒼白になっていく川又氏、ベンチで怒り心頭の星野監督。このシーンが何度も珍プレーで取り上げられているわけだが「あの後、次の打者がヒットを打ったんですよね。僕が二塁まで行っていたら、サヨナラになっていたかもしれなかったから、最悪でしたよ。個人的には打たなければ良かったのかなって思っちゃったし……」とも付け加えた。
「その試合は延長戦で広橋(公寿)さんがサヨナラホームランを打ってくれて、勝ったからよかったんですけどね」というが、記憶が途切れている部分もある。「あのプレーの後、どうなったのか、覚えていないなぁ……。ベンチの端っこの方にいたのかな」と言い「もしかしたら、ライト側のポールの方から逃げていたかもね」とジョークを飛ばした。
現在、川又氏はドラゴンズアカデミーなどで子どもたちに指導もしているが「今でもテレビとかであのシーンが出てくるじゃないですか。言われるんですよね、子どもたちに。『川又コーチ、打って監督に怒られていましたね』とかね」と明かす。「『見なくていいんだよ、ああいうのは』って言うんだけど、そりゃあ見たら面白いもんね。僕でも見ちゃうもん、あ、出たって。でも同点打も評価してほしいけどね」。
当時は大変だったが、今はすべて笑って話せる。「珍プレーでは(フライを捕り損ねて頭にぶつけた)宇野(勝)さんと僕がセットみたいにずっと出てきますからね。まぁ、いいような、悪いような……」。これらも川又氏の野球人生に欠かせないエピソードにはなっている。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)