連載『藤澤五月のスキップライフ』
9投目:「絶対に負けられない戦い」in軽井沢

ロコ・ソラーレ藤澤五月の半生、"思考"に迫る連載『スキップライフ』。今回は、高校3年生の頃から中部電力のチームに合流し、"兄弟子"SC軽井沢クラブと練習試合を重ねた軽井沢での日々を振り返る――。

【長岡コーチの自宅で居候生活】

 中部電力に入社したのは2010年の春ですが、私はその前の年、高校3年生の頃からチームに合流して練習していたので、夏休みなどを利用してコーチの(長岡)はと美さんの、軽井沢のご自宅に居候させてもらっていました。

 長岡家はもともとゲスト用の部屋があるくらい来客の多い家のようで、私はそこで寝泊りさせてもらっていました。みなさん優しくて、私をいい意味でお客さん扱いをせず家族の一員のように接してくださり、リラックスして過ごすことができました。

 はと美さんと一緒に、「はじめ」と「アトム」という2匹のラブラドールの散歩に行ったのはとてもいい思い出です。今でも軽井沢でその散歩道を通りかかると、温かい気持ちになれます。

 はと美さんは大きな熱量を持った方で、その頃からずっと「世界で勝つためにもっと攻める、面白いカーリングをしよう」という話をしてくれました。「いくらでも練習はつき合うから」とも言ってくれ、実際に何時間でもつき合ってもらっていました。

 また、はと美さんは当時、のちに2018年平昌五輪に一緒に行くSC軽井沢クラブのコーチでもあったので、山口(剛史)さん、モロさん(両角友佑/現TM軽井沢)、こーちゃん(両角公佑/現TM軽井沢)、てっちゃん(清水徹郎/現北海道コンサドーレ札幌)がそれぞれ個人練習をしている時に、私も便乗してオンアイスしていました。

 基礎的なショット練習がほとんどだったのですが、誰かと一緒にいると石がアイスを滑るタイムを参考にできたりしますし、同じショットを繰り返す練習はひとりでやるより、2人、3人のほうがリズムよく投げられるので、効率よく練習量を確保できます。

 モロさんとの練習では時々、はと美さんが指示した同じラインでどちらがセンターにドローを寄せることができるか、同じ形でのランバックをどっちが決めるか、といったプチ対決があって、勝つとちょっと"ドヤれる"ので、なんだかんだ楽しく練習できていたのはありがたいことでした。

【兄弟子相手に負けず嫌いが爆発】

 SC軽井沢クラブとは練習試合も本当にたくさんしました。その頃、彼らはすでに日本選手権3連覇を達成していたチームだったので、いつも苦戦を強いられ、ほとんど勝つことはできなかったです。

 はと美さんには、「作戦でわからないことがあれば、モロに教えてもらいなさい」「疑問があれば、モロに聞きなさい」と言われていました。彼らはいわば"兄弟子"みたいな存在なのですが、それ以上に私にとっては負けたくない"身近なライバル"でした。だからそう言われても、持ち前の負けず嫌いを発揮し、「ライバルにそんなこと聞くかい! 勝ちたいんだから」と、自力でなんとかしようとしていました。

 今考えれば、はと美さんがわざと(私を)煽っていたのかなとも思いますが、単純な私は彼らにどう勝つか、常に考えていた気がします。

 ジュニア時代にやっていたハウスのなかにある相手の石を簡単に出してしまうカーリングではなく、それを利用して石を溜めて複数得点を狙いにいく。その途中で、男子カーリングで多く見られる速いテイクで形を変えられたり、壊されたりしながら、どうやったら有利な局面を作ってエンドをコントロールできるか、みんなで考え続けました。

 考えることは増えましたけれど、考えれば考えるほどカーリングの楽しさを知る日々でもありました。戦績は10回やって1回勝てるかどうかでしたけれど、勝った時は大満足で、モロさんの顔を見ていつもよりニヤニヤしてやりました。

 改めて振り返ってみると、世界ジュニアに出て「もっと考えないと勝てないんだ」と知って、「もっとうまくなりたい」と願ったこと。そして、その時期にSC軽井沢クラブとの何十試合の練習試合で得た、負けた悔しさと勝った喜びが、確実に今の私を育んでくれたと信じています。

 おそらく高校3年生の18歳、そして中部電力に入った19歳の頃が、"量"という意味では人生で一番アイスに乗っていた時期かもしれません。

 のちに『軽井沢アイスパーク』という通年型の立派なカーリングホールができるのですが、軽井沢での氷上練習と言えば、『スカップ軽井沢』で中部電力のチーム練習はもちろん、SC軽井沢クラブのみんなと黙々と石を投げた時間とそのストーンがアイスを滑る音を、いつも思い出します。


藤澤五月が黙々とストーンを投げ続けた『スカップ軽井沢』。現在は温水プールとして営業している。写真:本人提供

藤澤五月(ふじさわ・さつき)
1991年5月24日生まれ。北海道北見市出身。高校卒業後、中部電力入り。日本選手権4連覇(2011年〜2014年)を果たすも、ソチ五輪出場は叶わなかった。2015年、ロコ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝。2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。趣味はゴルフ。