「タクミはどんどんよくなっているね。とてもいいプレシーズンを過ごしていたし、リーグ戦でもすばらしいスタートを切ってくれた。守備面における貢献、カウンタープレスをしっかり体現していることも含め、本当にいい状態だよ。

 もちろん、彼がかつて私の教え子だったという事実はあるが、それだけで好調の要因を説明することはできない。なぜならその間、彼はビッグクラブで多くの経験を積んできたわけだからね。

 彼が進化を遂げてくれていたことに、私は満足している。彼も私の考えやスタイルを理解しているはずだし、いろいろなことが彼を心地よくさせているんだと思う。

 私が知っていた19歳の頃、彼はとてもシャイだった。だが、現在の彼は、ヨーロッパの文化にもしっかり適応できている。私自身、そういった選手、人間が好きなんだ」


南野拓実のプレーが変わったタイミングはいつ?

 現地時間8月25日(日本時間26日朝)に予定される第3節のナント戦に向けた記者会見でそう語ったのは、今シーズンからモナコを指揮するオーストリア人監督のアドルフ・ヒュッターだ。

 ヒュッターと南野拓実の最初の出会いは、今から8年前の2015年冬──。南野がちょうど、セレッソ大阪からオーストリアのザルツブルクに移籍した時に監督を務めていたのが、ヒュッターだった。

 ただし、ともにシーズンを過ごしたのは約半年のみ。南野はリバプールに移籍する2019年12月までザルツブルクでプレーしたが、ヒュッターはリーグと国内カップの二冠を置き土産に退任。翌シーズン9月から、スイスのヤングボーイズの監督に就任している。

 第1節のクレルモン戦(4-2)で1アシストを記録し、続く第2節のストラスブール戦(3-0)では2ゴール1アシスト。期待を大きく裏切った昨シーズンとは別人のような活躍を見せる南野の好調の要因について、多くの現地メディアはヒュッターとの関係性に焦点を当てた。

 しかし、ヒュッターが「それだけで好調の要因を説明することはできない」と語ったように、あくまでもそれは好調の要因のひとつにすぎない。好調につながっている多くの部分は、むしろ南野自身の変化にあると見ていい。

【以前と違ったプレーを試みた】

 では、なぜ今シーズンの南野は、見違えるほどの活躍ぶりを披露できているのか。その伏線は、南野が不振にあえいでいた昨シーズン後半戦にあった。

 昨シーズンのリーグ・アン第22節のクレルモン戦。当時5戦連続で出場機会を失っていた南野は、4-2-3-1の1トップ下でスタメン出場を果たすと、ゴールやアシストこそ記録することはなかったが、シーズンベストと言えるほどのパフォーマンスでチームの勝利に貢献した。

 とりわけ前半13分のモナコ2点目のゴールは、南野を起点に生まれたショートカウンターからのゴールだった。

 中盤に下りた南野がクレルモンのMFサイフ=エディン・ハウイ(現ホール・ファカン・クラブ/UAE)からボールを奪ってドリブルで前進。抜群のタイミングで左サイドのMFアレクサンドル・ゴロヴィンに展開し、そのゴロヴィンのクロスをFWブレール・エンボロがフィニッシュした。

 結局、その試合で上々のプレーを見せた南野は85分間プレーしたのだが、当時のモナコには前線中央に6人の戦力がひしめいていたこともあり、その後も多くの出場機会を得られないまま、失意のシーズンを過ごすこととなった。

 ただ、その試合で見逃せなかったのは、南野がそれ以前とは違ったプレーを試みていたことだった。

 それまでの南野は、ボールを受ける時に相手に詰め寄られると、力勝負でボールをキープしようとしたり、焦ってトラップミスをしたり、とにかくボールを失うシーンが少なくなかった。

 もちろんプレミアリーグを知る南野には、デュエル勝負でも勝てる自信があったのだろう。だが、リーグ・アンの選手の寄せ、足の出し方、体の使い方には独特なものがあるため、それに適応できないままシーズン前半戦が終わった印象だった。

 ところが、その昨季のクレルモン戦の南野は、相手が間合いを詰めてくる場合はシンプルにダイレクトパスで味方にボールを預け、フリーな状態でボールを受ける場合は素早くドリブルに移行して次の展開につなげるなど、プレー選択の判断、そしてボールコントロールの精度の面で、改善の兆しを見せていたのである。

【2シャドーの南野は実に厄介】

 そして迎えた新シーズン。

 プレシーズンマッチのアーセナル戦やバイエルン戦で南野が見せたプレーからは、昨シーズン後半戦に取り組み始めていた課題を強く意識していることが垣間見られた。のちに新指揮官のヒュッターも認めたように、南野自身がプレシーズンで積み上げたことの成果が、そのまま開幕後の2試合につながったと言えるだろう。

 実際、今季のクレルモン戦でもストラスブール戦でも、南野が見せたトラップ、ドリブル、キックの精度は高かった。キャプテンでエースの1トップ、FWウィサム・ベン・イェデルへのフリックパスも、相手を惑わすという意味において実に効果的だ。

 相手選手にとってみれば、現在の南野は厄介だ。

 たとえば素早く寄せて潰しにかかろうとすると、寄せる前にダイレクトパスで展開されるので安易に近づけない。逆に、間合いをとって守ろうとすると、今度はドリブルで前進を許し、視野を確保された状態でパスやシュートをされる。

 要するに、常に南野の間合いとリズムでプレーされてしまうから、いくらフィジカルバトルに自信があっても、止めるのは簡単ではない。

 さらに、ヒュッターが採用する3-4-2-1も、南野にとってはプラスに作用している。

 これまで南野が任されているのは、2シャドーの一角(右)。ヒュッターが重視する前線の守備は、ザルツブルク時代、リバプール時代に磨きをかけた仕事なので難なくこなすことができるうえ、攻撃面では10番の仕事に集中できる。また、前を向いた状態でプレーすることも多いため、ストラスブール戦のようにミドルレンジからでも思いきってシュートを狙える。

 そしてなにより、南野の最大の武器でもあるボックス内でのプレーが増加した。当然、ゴールやアシストをマークする確率は高くなる。

「好調モナコ、タクミ・ミナミノの躍動とともに始まったシーズン」

 第2節ストラスブール戦の翌日、昨シーズンの南野に"失望"の烙印を押したフランスのレキップ紙は、一転して現在の南野の活躍ぶりを賞賛。昨シーズンはフィリップ・クレマン前監督が採用した4-4-2の犠牲者となり、フィジカルの準備に失敗した南野がその不振から脱出することに成功した、と報じた。

 しかし繰り返しになるが、南野が苦境から脱した主な要因は、南野自身の変化にある。そういう意味でも、現在のフォームさえ崩さなければ、"ニュー南野"の活躍はしばらく続くことはほぼ確実と見ていいだろう。

 第3節のナント戦でも先発出場が予想される南野は、果たしてどんなプレーを見せてくれるのか。今シーズンの南野は、とにかく要注目だ。