<バスケW杯>トム・ホーバスHCが語る“日本の勝算”「死のグループと言われるのはいい意味」

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いよいよ8月25日(金)より沖縄で開幕するFIBAバスケットボールワールドカップ2023。

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、バスケットボール男子日本代表HC・トム・ホーバスと侍ジャパン前監督・栗山英樹氏が対談。ともに日の丸を背負う思いを語り合った。

本記事では、「ホーバスHCが進めたチーム作り」「死のグループに挑む決意」に迫る。(前後編の後編)

◆他競技から学んだ“日本が世界と戦うヒント”

ホーバス:「1年半男子のヘッドコーチやってきて、最初はあまりいいチームじゃなかったけど、少しずつよくなってきた。選手たちも日本のスタイルをだんだん理解して、いいコミュニケーションをとり合って、自信も少しずつついてきました。男子も女子と一緒で速いバスケ。足が止まらない。ネバーギブアップ。動いて動いて、なバスケットです」

栗山:「日本らしさって、やっぱり粘り強さや動き回れる強さ、そんなところでしょうか?」

ホーバス:「日本の野球とアメリカの野球を見ていても、日本は(身体が)小さいから細かいことをやっているじゃないですか。何回も何回もしつこく。アメリカはそんなにやらないと思う。そこも日本のアドバンテージかなと思います」

栗山:「たしかにそれも日本野球のアドバンテージですよね。細かい技術や練習方法とか、徹底的に突っ込んでいくので」

ホーバス:「この間初めてヤクルトスワローズのトレーニングキャンプを見に行ったんですよ。マネジメントがすごい。ここはバッティングやる、ここは別の練習をやるとか、もったいない時間がゼロ。すごかった」

WBC開幕前の今年2月。ホーバスHCの姿は、ヤクルトスワローズのキャンプ地にあった。

ホーバス:「オフの日はほかの競技も見に行きます。たとえば柔道の練習やテニスの練習、車椅子バスケの練習も見に行ったんですよ。いろいろなスポーツで勉強できる」

ホーバスHCが見つめていたのは、スワローズの投手・高橋奎二のブルペンでの投球。

ホーバス:「ほかのスポーツの練習を見ていると、身体の使い方とか面白いです」

取材ディレクター:「高橋選手の横にiPadがあるじゃないですか。すぐに球速が出るようになっているらしくて」

ホーバス:「面白いね。データがいっぱいある。バスケットもこういうシューティングシステムがあるんです。例えばシュートの角度とか(が出るような)。やっぱりデータすごいね。日本の野球が世界で強い理由がわかる」

◆誰が選ばれてもブレないチーム作り

こうして異なるスポーツからも日本が世界と戦うヒントを得てきた。そんなホーバスHCのメンバー選考に、栗山氏も注目している。

栗山:「例えば日本であまり試合に出ていない選手を抜擢したりしているそうですね。指導者って見る目がすごく大事だと思うんですけど、ホーバスさんすごいなって。そういった選手の見方ってどうされているんですか?」

ホーバス:「すぐこの選手はいいなってわかるんですよ」

栗山:「感じるんですか? この選手のここがいいぞって」

ホーバス:「はい。この間ディベロップメントキャンプがあったんですよ。そこで金近選手、19歳(当時・現20歳)ですけど、間違いなく彼が一番いい選手だった」

今回のワールドカップ代表メンバーからは外れたが、金近廉は2月に行われた若手中心の合宿でホーバスHCに才能を見出され、4月、千葉ジェッツに練習生として加入したばかり。

プロとしての経験もない彼をホーバスHCは迷わず日本代表の合宿に追加招集した。そのワケは…。

ホーバス:「体も十分、強さや力も十分で、シューティング力もすごくあるんですけど、やっぱりA代表に入るにはメンタルタフネスがあるか、気持ちが足りているかどうかが大事。彼はもう十分あった。イラン戦の第1クオーターで出したら、20得点も入れたんですよ」

それは、代表デビュー戦となった2月のイラン戦。金近は6本のスリーポイントシュートを決め、両チーム最多の20得点を叩き出した。

さらにホーバスHCの期待に応えるかのように、7月のチャイニーズ台北戦でも豪快なブロックショットを決めるなど活躍。7得点4リバウンド2スティールと、オールラウンダーとして存在感を示した。

経験や実績を問わず、代表にフィットするメンバーを招集し、進められてきたチーム作り。6月、八村塁が大会欠場を発表したが、そうした事態でもホーバスHCの信念は変わらない。

ホーバス:「この1年半は、渡邊雄太や八村塁がいなかったから、今のメンバーで一番いいチームを作りたい(と思ってやって来た)。いいチームを作って、NBA選手が入って、NBA選手たちが(チームに)アジャストすることが必要。チームがNBA選手にアジャストするのはおかしいですよ。チームのほうが大事だから」


栗山:「そうですよね。誰かが怪我するかもしれないし、いないかもしれない。ベースが変わったらおかしくなってしまいますもんね」

ホーバス:「間違いないです」

栗山:「野球の場合は、個々の能力を引き出しながら、それを足し算じゃなくて掛け算にしていくような作業だと思うんです。WBCはいきなり合宿に入ってそのまま大会みたいな感じだったんですけど、僕が『こういう野球をやりましょう』と打ち出して、みんなにアジャストしてもらった。みんな一流なので、誰が入ってもあまり違和感がなかったです」

ホーバス:「1年半前にヘッドコーチになってからそういう話もしました。『いいをチーム作ろう』『うちのスタイルはこれだよ』『NBA組が入ってもこのスタイルだよ』と」

栗山:「そうすると方向性が出ますから全員がやりやすいですよね」

◆「死のグループ」を勝ち抜く勝算

誰が選ばれてもブレないチームで、いざワールドカップへ。

1次ラウンド、日本が入ったのは世界ランク3位のオーストラリア、11位のドイツが揃う死のグループ。だがホーバスHCは、前向きに捉えている。

ホーバス:「女子の東京五輪のときも、“グループ オブ デス”(死のグループ)に入っていました。アメリカ(当時世界ランク1位)、フランス(世界ランク5位)、日本(世界ランク10位)とナイジェリア(世界ランク17位)。でもあのグループから(東京五輪の結果は)アメリカ1位、日本2位、フランス3位。そういう経験があったんですよ。

今回も、ほかの国やメディアは『グループEは死のグループだ』と言っています。しかも、日本の世界ランキングは36位で、グループの中で一番低い。だけど、ランキングの1番低い日本が『やっぱり日本は強い』とほかの国に思わせるような戦いができれば、それこそが死のグループになる。4チームのうちランキング最下位のチームが弱かったら死のグループとは呼ばれないんですよ。だから、死のグループと言われるのはいい意味だと思います」

栗山:「なるほど! 捉え方というか考える方向性ですか。僕も選手によく言いますけど、確かにそうですよね。余計楽しみになっちゃいました!」

ホーバス:「楽しみですよ、本当に」

栗山:「練習や合宿においてのプロセスが大事なのはもちろんわかっていますけど、僕らが見るのは試合の結果なので、それをどんな形に持っていかれるのか、ホーバスさんに背負わせますけど、日本の人たちはめちゃくちゃ楽しみにしていますよ」

ホーバス:「楽しみですよ。僕はもうプレッシャーがあってもOKです。選手たちにプレッシャーがあるといいパフォーマンスができないと思うので、選手たちをカバーしたいです。僕は髪の毛ないからプレッシャーあっても大丈夫です(笑)」

栗山:「ハハハ(笑)。ぜひ日本のために、よろしくお願いしますね」

ホーバス:「ありがとうございます。日本のために頑張ります」