サマーソニック(PR資料より)

 8月19・20日、千葉市のZOZOマリンスタジアムで開催された音楽フェス『SUMMER SONIC 2023』(通称サマソニ)で、熱中症で搬送される参加者が相次いだ。

「正午過ぎに最高気温35.2度を記録した19日には、体調不良で救急搬送された人にくわえ、100人ほどが救護室に運ばれたそうです。

 なかでも、屋外ステージの『マリンステージ』では、スタジアムの芝を痛めないよう、水とお茶以外の持ち込みを禁止するエリアがありました。

 以前からサマソニではそうですし、アナウンスもされていたのですが、それを知らずにスポーツドリンクなどを持ち込んだ人は、スタッフに没収されたため、水分が摂れずに体調を崩した人もいたようです」(音楽誌ライター)

 しかし、熱中症で倒れた人が出たのは、屋外ステージだけではなかった。今回も含め、毎年のようにサマソニに参加している東京・鶯谷のロックバー『叫び』の店長・田中俊行氏が、現場の壮絶さを語ってくれた。

「今年に限らず、サマーソニックは、毎年とんでもなく暑いんですよ。でも、今年は例年と比較にならないくらい、異常な暑さだった。あまりにも危険だと思って、僕は今回、屋外ステージに行くのをあきらめたほどです」

 運営側はスタジアムの外で放水したり、屋外ステージでアイスを売るなどの対策を取っていたが、それでも対策としては十分ではなかったようだ。

「今回の搬送騒ぎで大きな要因になったと思われるのが、『NewJeans』(韓国の5人組女性グループ)が初めて大きなライブをするということで、フェス慣れしてない子たちが大挙して来ていたこと。

 あと、コロナが明けて入場制限が緩和されたことで、パンパンに客を入れてたんですけど、詰め込みすぎて、“圧縮度合い” が半端じゃないんですよ。だから、倒れる人が出るのも、起きてしかるべきというか。

 さらに、観たいアーティストに備えて前もって場所取りする人たちもいたんですが、そういう人たちは1〜2時間待機してるから、そりゃやられますよね」(田中氏)

 悲劇は屋外ステージのみならず、屋内ステージでも起きていたという。

「WILLOWっていうシンガーのステージで最前列近くにいたんですけど、身動きが取れないくらい圧縮がすごかったんです。そんななか、僕の真後ろで、外国人客2人が熱中症でたて続けにぶっ倒れたんですよ。

 ろれつが回ってないし、目の焦点も合ってなかったんで、完全に熱中症の症状ですよね。倒れた1人は、僕が声をかけて水を飲ませたら『平気、平気』って言ったんで、1回起き上がらせたんですよ。その直後に白目を剥いて倒れたんで、めちゃくちゃ焦りました。

 ライブ中だったんで、最前列のセキュリティにすぐ連絡がいって、救助はけっこう迅速でした。そういう部分では、対策はちゃんと練られていたと思うんですけどね」(同)

 国内のみならず、海外の音楽フェスに何度も足を運んできた田中氏は、日本の音楽フェスに足りない点を指摘する。

「海外のフェスはチケット代が高いんですけど、そのチケット代のなかに会場設備やインフラ費用が含まれているという認識を、客側も持っているんです。お客さんたちも危機管理意識を持って臨んでいるというか。

 でも、日本人はライブチケットはライブ代と考えてる人が多いから、海外フェスの客に比べると、参加者の危機管理意識が希薄なんです。僕はそこがいちばん大きな問題じゃないかと感じています。

 あと、とにかく土地が広大なので、休憩できる場所も多いんですよ。休憩できる場所があるかどうかは、かなり大事なんで。その点、サマーソニックの場合、屋外ステージは陰になってる場所がないんです」(同)

 今回は物議を醸してしまったサマソニだが、サマソニに限らず、大物アーティストが一堂に会する音楽フェスは、やはり音楽好きにとって魅力的なイベントだ。今後、行ってみたいと思っている人たちに向けて、田中氏に参加するうえでのアドバイスを聞いた。

「マナー的な話になっちゃいますけど、次の次のバンドが観たいからといって、最前列を陣取るみたいな事前の場所取りはやめましょう、ってことですかね。

 今回でいえば、BABYMETALやNewJeansのファンがそうだったみたいですけど、2時間とか3時間、ひたすら目当てのバンドを待ち続けるんですよ。ただただ、スマホをいじったりしながら。それは演奏中のアーティストに対して失礼だし、そのアーティストのファンにとっても失礼ですよね。

 そういうことがホントに定例化していて、最前列で観ることや、とにかく歯を食いしばって3時間待ったことなどを、みんな武勇伝みたいに語るんです。その認識は、改めたほうがいいと思いますね。観たいバンド以外は、後ろで観ましょうと」

 せっかく音楽フェスに参加するのであれば、熱中症でぶっ倒れることや、ほかのファンに後ろ指をさされることなく楽しみたいものだ。