FIBAワールドカップへ向けて、バスケットボール日本男子代表チームが強化試合の9試合すべてを終えた。先週行なわれた有明アリーナでの3試合のうち、フランスとスロベニアとの試合で完敗を喫したことで、不安を感じたファンも多かったに違いない。

 しかしそのなかでも、日本が自分たちのバスケットボールをできている時間帯も少なからずあり、まったく太刀打ちできないというわけでもなかった。


富永啓生がゾーンに入ると手がつけられない

 まず、有明の3試合を見ていると、日本はオフェンスのスペーシングが改善され、かつノーマークでシュートを打てるシーンが増えた。

 トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)の採用するスタイルでは、選手たちは自身の判断で味方を盾にする動きなどを入れながら、相手とのいわゆる「ズレ」を作る。これまで多くの合宿や強化試合を重ねてきたなかで、その瞬時の判断力の精度は確実に上がってきた。

 それは、日本代表の成否のカギである「3Pシュート」の数にも表れている。

 8月15日のアンゴラ戦では41本、17日のフランス戦では44本、そして19日のスロベニア戦では46本もの3P試投数が記録された。成功率が低いだけで3Pの数は打てているという点においては、自分たちのバスケットボールができている、形は作れていると言える。

 もちろん、それらの成功率を上げなければ勝利は遠のく。有明の3試合ではいずれも20%台(アンゴラ戦26.8%、フランス戦29.5%、スロベニア戦21.7%)と、目標とする40%前後には遠く及んでいない。

 もし、日本がそれぞれの試合で放った3Pを40%の確率で決めていたとしたら、どの試合も得点が80点台にのっていた計算となる(実際の試合結果=日本75-65アンゴラ、日本70-88フランス、日本68-103スロベニア)。

【富永と河村の相性はバッチリ】

 そして3Pを語るうえで見逃せないのは、アンゴラ戦とフランス戦でそれぞれチームトップの20得点を記録した富永啓生(SG/ネブラスカ大)の存在の大きさが示されたことだ。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 富永はアンゴラ戦で14本中6本、フランス戦で10本中4本と、いずれも4割以上の確率で3Pを決めている。なかには3Pラインからかなり離れた場所から決めた「ディープスリー」もあった。3Pシューターにはどれだけ外しても打ち続けるメンタリティが必要だが、富永はこのチームでそれをもっとも体現しており、味方にも精神的な影響を及ぼしている。

 富永は有明のすべての試合で河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)と先発ガードデュオを組んで出場している。代表での河村はベンチからの登場が大半だったが、富永のディフェンスの弱さを補完する意味もあっての先発起用だった。

 このふたりは誕生日が3カ月しか違わず(富永=2001年2月1日、河村=2001年5月2日)、アンダーカテゴリーの頃から日本代表として一緒にプレーしてきたこともあって、息が合っている。

 アシストパスの能力に秀でる河村は、ある意味で対象的な「根っからのスコアラー」である富永と同時にコートに立つことについて、こう語っている。

「彼のオフボールのスクリーンのもらい方には、すばらしいものがあります。彼は少しでも(スペースが)空けばシュートを打てる選手なので、それを見逃さないように、常に場所を把握するようにしています。

 彼とは高校生の頃から一緒に戦ってきて、ともにコートに立つ時間も長かったので、ほかの選手よりもお互い役割をわかり合っている。タイミングの取り方も高校生の時からお互いにやりあっているので、それはいいアドバンテージになると思っています」

【リバウンドを制する者は...】

 また、コンビネーションというところでは、中に切れ込むことの多い河村と、ビッグマンながら機動力があって判断もいいジョシュ・ホーキンソン(C・PF/サンロッカーズ渋谷)との相性のよさも際立っていた。

 フランス戦の第2クォーター。河村がドライブインでふたりのディフェンダーを引きつけ、オープンになったホーキンソンが走り込んできてダンクを決めた場面は、まさにそれを示すものだった。

 続けて、日本の「光明」について記していく。

 韓国やニュージーランドとの強化試合で、浮き彫りになった日本の課題はリバウンドだった。しかしその後、明確に改善されている。

 それは、サイズで圧倒的なディスアドバンテージのあったフランス戦やスロベニア戦でも、リバウンド本数で大きく引き離されていないことでもわかる。これはホーバスHCが口酸っぱく言ってきた、相手に体をぶつけて簡単にリバウンドを飛ばせないようにする「ヒット・ファースト」が浸透している証拠だ。

「前半のリバウンドは負けていなかったと思います。全員で意識した結果が前半に出たかなと」

 そのようにフランス戦を振り返ったのは、チームで最も接触プレーを怖れないといっても過言ではない吉井裕鷹(SF/アルバルク東京)だ。

 バスケットボールという競技で、リバウンドが至極重要なことは言うまでもない。データ的にもディフェンスリバウンドを7割以上確保すれば、勝利の可能性がより高まるとされる。

 日本の大半の選手たちにとってこのワールドカップは初めての世界大会となるが、強化試合を通してニュージーランドやフランス、スロベニアといった経験豊富な強豪・格上と試合をしたことで、徐々にたくましさを増していった。Bリーグでは出場時間が十分に与えられていない吉井は、攻守で体を張って味方にパワーをもたらすプレーで欠かせない選手となった。

 今、急速に脚光を浴びている川真田紘也(C/滋賀レイクス)の存在も、光明のひとつだ。無骨で「リアル・桜木花道」と呼ばれるほどのガムシャラな働きぶりで、インサイドのディフェンスやリバウンドでいいパフォーマンスを見せている。

【2年前とは違うと語る馬場】

 そして、右足の故障でフランス戦とスロベニア戦を欠場した渡邊雄太(SF/フェニックス・サンズ)。彼が復帰すれば、もちろん攻守において強力な戦力が帰ってくることになる。

 ただ、ドイツ、フィンランド、オーストラリアという格上の国に勝つことが、難しいことは変わりない。ここに記したようなことがすべて最大限に発揮されて、初めて彼らと戦えるといった状況だ。

 フランス戦やスロベニア戦では、試合序盤から強度の高いプレーで戦わねばならないため、後半は体力を削られて失速してしまった。ここは大会本番でも大きな課題となってくるだろう。それでも、フランスやスロベニアに対して、日本は「やれた」とポジティブな手応えを感じている。

「今までやってきたバスケが間違いないと自信になりました。バスケのスタンダードをもっと突き詰めていけば、もっといいバスケができる。そこは揺るぎなく、ステップアップできていると思います」

 吉井は力強い言葉を残した。

 2年前の東京オリンピックで、日本はスロベニアを相手にまったく同じ35点差(103-68)で敗れた。だが、馬場雄大(SG)はケレン味のない口調でこう述べている。

「ディフェンス面では個人的にオリンピックの時よりいい感じでやれたのと、(オフェンスも)シュートが入っていれば違う形になる。日本バスケは前進していると思います。あの試合と比べて成長してきている」

 ホーバスHCは採用したスタイルとチームメイトを信じて戦うことが何よりも大切であると繰り返し話してきた。この大会でアジア1位となり、来夏のパリオリンピックへの切符を勝ち取ることが「アカツキジャパン」の目標だ。

 時は来た──。パリへとつながる、長い旅路がいよいよ始まる。