セーラー服に上履き姿の4人組ダンスボーカルユニット「新しい学校のリーダーズ」が急速に人気を高めている。評論家の白川司さんは「メンバー4人の個性、質の高いダンスパフォーマンスはもちろん、従来のアイドルにあった『やらされている感』がない点が新しい。自らアイドルであることを楽しむ『自覚型アイドル』の時代に入りつつある象徴だろう」という――。
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■2020年のシングル曲が3年後に「発見」された

「新しい学校のリーダーズ」の快進撃が続いている。21〜24歳の女性4人組で、グループ紹介の定番のあいさつは「個性と自由ではみ出していく」。TikTokの「首振りダンス」で海外から話題になった楽曲「オトナブルー」がスマッシュヒットとなり、これまでの楽曲や、パフォーマンス力の高さも注目されるようになった。

「オトナブルー」は2020年5月にシングル曲として配信されたものであるが、この時期は新型コロナウイルス禍と重なっており、パフォーマンスを披露する機会が奪われた面もあるのかもしれない。この曲がこの2023年に「発見」されたこと、とくに「ATARASHII GAKKO!」として海外で先行して話題になったことは、アイドル論的に意義がある。

それは、拙書『14歳からのアイドル論』(青林堂)の最終章に予言した「自覚型アイドル」の時代が、ついに到来したのではないかといえるからだ。

■「伝統型アイドル」の基本は「未成熟」

私が主張してきた日本型アイドルの形式は「未成熟の一生懸命」をファンが「応援する」という形で発展してきた。この型を「伝統型アイドル」と呼ぶことにする。

アイドル黎明期の1950年代から全盛期の1980年代まで、アイドル市場の中心を担ってきたのは、未成熟で透明感のある少女たちだ。その大半は歌唱力が高くないのだが、それが生み出す「不足感」こそが、伝統型アイドルをあり方の基本である。

ただし、単に歌唱力が低ければいいのではなく、下手にも悪い下手と良い下手がある。悪い下手とは聞く者を困惑させるような下手さ、良い下手とは「頑張れ!」とつい応援したくなるような絶妙な下手さのことである。

下手でも一生懸命が伝わる「頃合いの下手さ」が大事なのであって、完璧に歌いこなせる高い歌唱力は求められなかった。

伝統的アイドルの消費は「楽しむ」ではなく「応援する」にある。ファンはアイドルに質の高いパフォーマンスを求めるのはなく、未完成や未成熟を求める。アイドルの「不足感」を応援するという形が日本におけるアイドル消費の中心にある。

もちろん、デビュー当初から完成されていたピンク・レディーや、生バンドでも安定した歌唱を披露できた松田聖子や中森明菜など例外はある。ただ、彼女たちはアイドルとしても「例外」であって、だからこそ、時代を代表するスターになれたという面もある。

■小泉今日子が作った「自覚型アイドル」の形式

1982年に『私の16才』でデビューした小泉今日子は、当初、「聖子ちゃんカット」など清純派アイドルとして松田聖子を真似たフォロワーに過ぎなかった。同世代アイドルの中では高い人気を誇り、出演ドラマもヒットしたが、「時代を代表するアイドル」というレベルからはほど遠かった。

彼女が飛躍したのは1983年に髪を刈り上げに近いショートにして、それまでのかわいらしい女の子路線からボーイッシュの領域に入ってからである。人気をだめ押ししたのが、1985年にプロデューサーの秋元康が仕掛けた『なんてったってアイドル』(1985年)である。この曲で、小泉今日子は「アイドルであることを自覚して楽しんでいるアイドル」という新たなイメージ作りに成功して、時代を風靡(ふうび)する松田聖子・中森明菜に肉薄しながら、伝統型アイドルとは一線を画す独特の地位を得ることになった。

私が言う「自覚的アイドル」は、小泉今日子がその原型を作り上げたと考えている。その核にあるいのは「アイドルであることを楽しんでいるアイドル」のことだ。小泉はこれ以後、その発言が大衆に影響を与えるほどのポジションを獲得して、紹介した本がベストセラーになるほど、若い女性たちにとってのアイコンであるとともに、代表的なオピニオンリーダーとなっていく。

■「アイドルを楽しんでいる」は希少な存在だった

それまでのアイドルは指示されたことを一生懸命にこなすという「受動型」が中心であって、自覚的アイドルという地位は特権的と言っていいほど希(まれ)である。自分で作詞を始めた松田聖子や自己プロデュース力が高かった中森明菜は受動型ではないが、小泉今日子には彼女一流の「アイドルを楽しんでいる」という要素があった。

このことが功を奏して、小泉今日子はバッシングに遭うことがほとんどなかった。それに対して、先行者であるピンク・レディーは当初は「ゲテモノ」(今で言う「キワモノ」)とバッシングされた。さらに、松田聖子は「ぶりっこ」、中森明菜は「わがまま」と過剰なバッシングを受けている。多くの売れっ子アイドルが「ぶりっこ」であり「わがまま」であるはずだが、両者はあまりに突出したことで、アイドルとしての当たり前の属性で叩かれてしまった。

のちに小泉が「読んだと公言した一部の本を実は読んでいなかった」と告白している。自覚型アイドル小泉今日子という像も、結局は、大半は仕掛け人が考えたものである。つまり、「自覚型アイドル」とは実際にアイドルを楽しんでいるのではなく、あたかもアイドルを楽しんでいるがごとく行動するアイドルであって、「作られたもの」である点では、受動型も自覚型も大きな差はなかったのである。

ただそれでも、「アイドルであることを楽しんでいるアイドル」に脱皮した小泉今日子の存在感は圧倒的でありつづけた。

■一人ひとりの個性が引き立つ「モー娘」の登場

1990年代から「みんなが知っている楽曲」が減って、視聴者の好みの細分化が起き、テレビから徐々に歌番組が減っていく。それに伴って、ソロアイドル歌手が自分をアピールする場をなくして、今度はテレビ番組がアイドルを作るようになっていく。1985年にフジテレビの番組で誕生したおニャン子クラブをひな形にするアイドルグループの時代に移行する。

その中でも1997年にテレビ東京の番組から誕生したモーニング娘。(以下、モー娘)は、メンバー一人ひとりが伝統型アイドルを逸脱した奔放な言動が受けて、国民的な人気を獲得した。

人気の要因は、デビュー曲を除くほぼ全楽曲をつんく♂(シャ乱Q)が手掛け、音にもダンスにもピンク・レディーの流れをくむ、派手でキャッチーなわかりやすさがあったことだ。ピンク・レディーが子供の人気を獲得して国民的スターになったときと似た軌跡を辿っている。

ただし、ピンク・レディーがあくまでデュオとして売っていたのに対して、モー娘はオーディションの過程にスポットを当て、最初から一人ひとりの個性を引き立てることに配慮している。おニャン子クラブにも共通した部分があるが、おニャン子クラブに目立った「緩さ」がさほどなく、陰では必死でエンターテインメント性を追求している。

■AKB型は国際市場では通用しなかった

モー娘で特筆すべきは、フランスやスペインを中心に起こった日本ブームに乗って、ヨーロッパの日本好きな若者にも人気が出たことだ。韓国エンタメがこの現象の重要性に気づき、K-POPとして世界市場に打って出るきっかけとなっている。

その一方で、日本ではまたも秋元康が2005年にAKB48を立ち上げて、のちに国民的アイドルグループに育て上げている。AKB48はもともと秋葉原を拠点とするローカルグループだったが、テレビでも活躍して全国区になっている。さらには、姉妹グループも各地で立ち上げられて成功し、のちにルックスを重視した坂道シリーズが立ち上げられてテレビを中心に活躍している。

写真=iStock.com/Goddard_Photography
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しかし、秋元を中心にしたチームがアジアを中心に立ち上げたAKB型の海外ローカルグループは、インドネシアのJKT48以外は成功したとは言えず、世界市場ではブラックピンクやTWICEなどを輩出したK-POPとは明暗を分けている(この点についてはプレジデントオンライン「なぜNiziUは世界を興奮させるのか…日本のエンタメが『韓国に完敗』した理由」を参照)。

モー娘が作った世界市場の道をAKBが切り拓けずK-POPが独占してしまった理由はいくつかあるが、最も重要なのは、AKBが伝統的アイドルの形式である「未成熟の一生懸命」を超えるものではなかったからだろう。アイドルは応援するという楽しみ方をするエンターテインメントであるが、それはあくまで日本独自のものであり、国際市場では通用しなかったのである。

■「国際的ローカル」を切り拓いた3組

国内でいえば、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)の存在が見逃せない。AKBにある「やらされている感」がなく、メンバーの個性を全面に出しながら、体育会系のノリで「一生懸命」を表に出している点で成功している。ファンはあたかも同じ学校の女子部活動を応援しているかのような雰囲気であり、「自覚的アイドル」の雰囲気が強い。

その一方、別の流れの中で、世界で活躍するグループも現れた。特に目立ったのは中田ヤスタカ氏がプロデュースするPerfumeときゃりーぱみゅぱみゅ、BABYMETALである。

三者に共通するのは、それぞれテクノ系、原宿系、メタルという音楽的には「ローカル」の場にありながら、そのローカルが国境をまたいでいることだ。

ただし、違いもある。Perfumeときゃりーぱみゅぱみゅの土台が日本のテクノカルチャーやポップカルチャーであるのに対して、BABYMETALはメタルという純粋な国際的な領域が活躍の場であったことだ。

その裏には、メタルを熟知する仕掛け人と、国際水準のプレーヤーが、BABYMETALを全面的にバックアップしており、歌唱力のあるボーカルと、アイドルとしての弾力性があるダンサーによって、一定のレベル(=お金を払った客をライブで楽しませるレベル)のパフォーマンス力を持っている点が大きい(ダイヤモンド・オンライン「日本人9人組『NiziU』が大ブレイク、韓国が世界的アイドルを生み出す理由」を参照)。

■自由奔放で「やらされている感」がない

BABYMETALのメンバーはもともとアイドル志望であり、ファンの中心はメタル愛好家の「おやじ世代」だった。人気メンバーだったYUIMETAL(水野由結)が2018年に脱退したことで、BABYMETALに内在していた「やらされている感」がぬぐえなくなってしまった。

ただ、PerfumeやBABYMETALなどが切り拓いた「国際的ローカルアイドル」というあり方は、日本人がK-POPとは違うやり方でも国際マーケットに進出できることを証明した。

新しい学校のリーダーズは学校の制服を着て、学校の上履きを履いている。格好はまさに一昔前、あるいは地方の学生であり、その雰囲気はももクロが持っている「部活のノリ」の延長にある。ただし、基礎がしっかりした質の高いダンスパフォーマンスを見せており、プロとしてのエンターテインメントを成立させている。

特に、リードボーカルを担当するSUZUKAのお調子者の男子学生のような自由奔放な振る舞いは、「やらされている感」がほとんどなく、アイドルであることを楽しんでいるという「自覚的アイドル」の印象を与える。

新しい学校のリーダーズは一見、アイドルグループに見えないという人もいるかもしれないが、それはまさにこの「やらされている感」の希薄がもたらしたもの。それはブラックピンクをはじめとするK-POPがモー娘を出発点にしながら、「完璧」を目指すゆえにアイドルに見えないことに似たところがある。

■「和製K-POP」の人気が伸び悩んだ理由

日本では若者層を中心にK-POPが人気を博しているが、K-POPのガールズグループは常に質の高いパフォーマンスとともに、「よい子」を演じなければならない立場にあり、自覚的アイドルとは対極的だ。

また、「和製K-POP」と言うべきNiziUはオーディションの段階から露出が多く、抜群の知名度を与えられながら比較的早くに伸び悩んでしまった裏には、NiziUがK-POPのトップレベルとは隔たりがあったこととともに(この点についてはダイヤモンド・オンライン「『NiziU』が早くも試練、人気復活に必要な戦略とは」を参照)、日本の若いファンがすでに「やらされている感」の強いK-POPに飽き始めている可能性がある。

こういった流れの中で突如として人気を獲得したのが、新しい学校のリーダーズだった。時期はちょうどアニメ『推しの子』が世界的に人気になり、テーマ曲であるYOASOBIの『アイドル』が世界的にヒットしたときと重なる。まさに日本文化に根ざした「アイドル」という存在が世界的に注目されているようになった時期なのである。

新しい学校のリーダーズはメンバー4人の個性がはっきりしていながら、シンクロ率の高いダンスパフォーマンスを見せ、エンターテインメント性も高い。ももクロの「自覚性」とBABYMETALのエンターテインメント性の高さの両方の流れをくんでいるのではないだろうか。

■売れる共通点は、中高年層にとっての「エモい」

彼女たちが外国で先行して火がついたのは、「学校」という異文化を前面に出したことで、「日本」を感じられたからだろう。その点では、原宿ポップカルチャーを前面に出したきゃりーぱみゅぱみゅとも共通するが、きゃりーぱみゅぱみゅの持つkawaiiではなく、男性的なCOOL JAPANがある。平たく言うと「かっこいい」だ。

これは「オトナブルー」という楽曲が、「少女が背伸びして大人ぶる」という古典的な歌詞と昭和サウンドを基調としながら、スカートもまくり上げる男性的なパフォーマンスで彩られていることも影響しているのだろう。

なお、Perfume、BABYMETAL、新しい学校のリーダーズには共通点がある。それはPerfumeがテクノ、BABYMETALがメタル、新しい学校のリーダーズが「(昔の)学校」と、それぞれがおやじたちのノスタルジーを呼び起こす要素を含んでいることだ。「オトナブルー」のスマッシュヒットも、ノスタルジーを感じた中高年層に受けたという面も小さくないだろう。

現在のアイドル市場を支えているのは中高年であり、日本においてアイドルが成功するには中高年層を引きつけるものが必要になっている。三者はその点で強みがある。

アイドルグループも徐々に「自覚的アイドル」に時代に入りつつあり、「未成熟の一生懸命」を超えたエンターテインメント性の高さを求められるようになっている。新しい学校のリーダーズの活躍は、その時代の幕開けにふさわしい。

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白川 司(しらかわ・つかさ)
評論家・千代田区議会議員
国際政治からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。『月刊WiLL』にて「Non-Fake News」を連載、YouTubeチャンネル「デイリーWiLL」のレギュラーコメンテーター。メルマガ「マスコミに騙されないための国際政治入門」が好評。著書に『14歳からのアイドル論』(青林堂)、『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック)ほか。
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(評論家・千代田区議会議員 白川 司)