運をつかむためにはどうすればいいのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「私はポッドキャストで自分の『推し』の話をよく聞いている。日本ではまだ知られていない有益な情報を得ることができる」という――。(第2回)

※本稿は、茂木健一郎『強運脳』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

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■推しが運を引き寄せる脳科学的理由

「推しメン」「推し活」。最近では、ネットやテレビなどで「推し」という言葉を見ない日はないほど、若者だけでなく幅広い世代でこの言葉が使われています。

「推し」とは、いち推しのメンバーを指す「推しメン」をさらに略した言葉です。おもにアイドルグループ内でもっとも応援しているメンバー、おすすめしたいメンバーを指す言葉として以前から使われていましたが、AKB48の人気とともに世間に広く知られるようになったとされています。

さらに現在はアニメやゲーム、歴史や食べ物など、人にすすめたいものすべてが推しの対象となっています。推しのニュアンスは、その対象となる人やモノを独り占めしたいというよりも、他人にもその存在を知ってもらって共感を得たいという気持ちが含まれる点が特徴です。

そんな「推す」という行動には、意外にも運を引き寄せるヒントが隠されているのです。

「推しが運を引き寄せる⁉」

そう疑っているあなたのために、参考になることをお伝えしましょう。

■誰よりも早くトレンドを押さえておくべし

まず、推し活として私がおすすめするのが、「トレンドを誰よりも早く押さえておく」ということ。今は、ツイッターでトレンドを押さえているという人も多いかもしれません。

たとえば、人気アニメの『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』はもちろん、どんなアイドルグループが流行っているかというのはだいたい把握できていると思います。そうしたトレンドは今の時代を表す鏡のようなものなので、自分の好きなものに関係なく押さえておくことが大事です。

ただ、これだけでは運を引き寄せることはできません。そこでポイントになるのが、いち早くトレンドを押さえておくということです。

■なぜ運気アップにつながるのか

これは私も実践しているのですが、ツイッターにはそれこそさまざまな情報があがっています。中には誰よりもトレンドを先取りしている人や噂レベルの情報を流している人もいます。私はそうしたいわば情報の先取り屋たちが発信する「情報リスト」というものをつくっていて、スキマ時間にチェックしています。

そうしたものの中から信憑性のある情報にアンテナを張っておき、誰よりもいち早くトレンドを押さえる活動を日々行っているのです。

現在、世界で最も注目を浴びている実業家イーロン・マスク。今となってはこの名を知らないビジネスパーソンはいないでしょう。私も彼が有名になる前から目をつけていて、よく大学の授業などで「イーロン・マスクという実業家がいてね、これから世界の注目を浴びる人物になるよ」などと推していました。

多くの人はトレンドになってからそうした情報を知るわけですが、トレンドになる前にいち早くそうした情報をつかんで推すことは、運を引き寄せることにつながるように思うのです。

なぜ、トレンドを誰よりも早く押さえることが運気アップにつながるのか?

■トレンドの兆しをつかむ方法

株式投資で考えるとわかりやすいかもしれません。株価の上昇や下落が始まるタイミングを「トレンドの転換」といいますが、適切なタイミングで売買を行うためにはトレンドの転換をいち早く捉えることが重要だとされています。

つまり、トレンドを誰よりも早く押さえることができれば株を底値で買い、やがて世の中のトレンドになって天井値で株を売り抜くことができるということです。

これは投資に限らず、あらゆる情報でも同じです。トレンドを誰よりも早く押さえておくことでもたらされる運は数多くあります。そのためにはトレンドの兆しをキャッチしておく必要があるということです。

その方法を身につけるうえで誰もが簡単にできるのが、ツイッターなどでいち早くトレンドを発信しているキーパーソンを見つけるというような訓練です。

■私の激アツな最新の「推し」

私の激アツな最新の「推し」をご紹介しましょう。それは、海外の「ポッドキャスター」です。

ポッドキャスターとは、スマホやパソコンから視聴できる保存型の音声コンテンツ「ポッドキャスト」を配信している人物のことで、ポッドキャストではラジオを聴く感覚で気軽にさまざまなトークが聴けるのが特徴です。

ポッドキャストは、アメリカでは多くの人が通勤の車の中などで聴いて有益な情報収集に役立てたりと、絶大な人気を得ています。これもまたトレンドの先取りになるのかもしれませんが、海外のポッドキャストはこれから話題になる可能性を大いに秘めている音声配信コンテンツといえるでしょう。

ではなぜ、私が海外のポッドキャスターを推すのか。それは、まだ日本には入ってきていない有益な情報の宝庫だといえるからです。

たとえば、「レックス・フリードマン」という人物をご存じでしょうか。レックス・フリードマンは、AI研究やコンピューター科学に長(た)けているMITの研究者です。

ポッドキャスト上のインタビューをYouTubeチャンネルでも配信していて、何とその登録者数は約250万人を誇ります。そのYouTubeチャンネルには過去にイーロン・マスクも登場していて、当時はツイッターのCEOの後任と噂されていました。

日本ではあまり知られていませんが、アメリカではフリードマンのようなポッドキャスターが日々有益な情報を発信して支持されているのです。

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■ひろゆき、成田悠輔を超越する発信力

もうひとり、私が推すポッドキャスターをご紹介しましょう。それは、「ジョー・ローガン」という人物です。ローガンは、アメリカのコメディアン兼プロレス解説者からポッドキャスターへと転身した人物であり、今世界でもっとも人気を誇るポッドキャスターです。

その歯に衣着せぬトークが売りで、彼の番組は毎月約2億回ダウンロードされるほど、世界中のリスナーに支持されています。「フォーブス」によれば、ローガンが2019年にポッドキャスト配信から得た広告収入は推定3000万ドル(約32億円)といわれており、これは世界的にもトップクラスの数字です。

そんなローガンに目をつけたのが、音楽ストリーミングサービス「Spotify」で、ローガンのポッドキャスト番組を独占配信するライセンス契約として同社がローガンに支払った契約金は、噂では1億ドル(120億円)以上といわれています。

現時点で、レックス・フリードマンやジョー・ローガンといったポッドキャスターは残念ながら、「日本ではそれほど知られていない超一流の人」であるというのが、私の感じているところです。

今の日本では、経済学者の成田悠輔さんや2ちゃんねる(現5ちゃんねる)の創業者であるひろゆきさんが「時代の寵児」などともてはやされていますが、世界的にみればレックス・フリードマンやジョー・ローガンといったポッドキャスターの発信力には足元にも及ばないでしょう。日本国内での人気は盤石ですが。

■推し活は、運気を呼び込むための訓練

それこそ、数年前までは世界の叡智が結集するカンファレンスとして有名な「TED」にそうしたキーパーソンが集まっていた印象がありますが、今やTEDよりもポッドキャストのほうが有益な情報を提供するコンテンツになっているのです。

茂木健一郎『強運脳』(かんき出版)

私はこうしたポッドキャスターの推し活をすることで、そのコンテンツを楽しむとともに、まだ日本では知られていない推しが日本でもメジャーになっていくことを楽しみながら、自分も一緒に成功に向けて旅をしているような気持ちになれるのです。

日本ではまだ知名度が低い超一流の人たちの情報をいち早く入手し、その推し活をする。私にとって推し活は、運気を呼び込むための訓練のようなものです。

誰もが知り得る情報を集めるのは容易いですが、たとえ苦労してでもまだ誰も知り得ない自分の推しを見つけることは、運を引き寄せるうえで役立つと私は考えています。

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茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学院理学系研究科修了。クオリア(感覚の持つ質感)を研究テーマとする。『脳と仮想』(新潮社)で第4回小林秀雄賞を受賞。近著に『脳のコンディションの整え方』(ぱる出版)など。
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(脳科学者 茂木 健一郎)