植田日銀総裁のG20財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で為替は再び円安基調に。28日の金融政策決定会合後、市場はどう動くだろうか(写真:ブルームバーグ)

前回の記事「日経平均は年内に3万5000円達成の可能性がある」(7月2日配信)で予想したとおり、現在の日本株は高値警戒感から株価は変調をきたし、乱高下している。現状「年内3万5000円の可能性」という見方は不変だが、日経平均株価の値動きや投資家動向を分析しつつ、今後の見通しを考えたい。

海外投資家の「爆買い第1弾」は終了

まず、今年の日本株の値動きを日経平均を中心に、簡単に確認しよう。年初からの日経平均は、1月4日の2万5716円(終値、以下断りのない限り同じ基準)を起点にして、6月16日の3万3706円まで一気に上昇。約半年で7990円もの急騰となった。

その後は6月27日に3万2538円まで7営業日で1168円も急落。そこから再度7月3日の3万3753円まで4営業日で1215円上昇したものの、7月12日は3万1943円となり、7営業日で1810円も急落した。

日経平均は、6月と7月の2度の上昇後の下落で、トレンド転換のサインといわれる「M」のような形のチャートでダブルトップを形成した。これは当面のピークのサインになることが多いのだが、7月12日以降は再び反転するなど、5〜7営業日毎に急落・急騰を繰り返す相場展開となっている。

急落の理由は、これまで急騰の牽引役だった海外投資家の「第1弾の爆買い」が6月中旬以降すっかり止まり、利益確定売りへと転じているからだ。

一方、急落した局面では、上昇相場に乗り遅れた国内の中長期投資家や国内の短期投資家などが、新規や押し目買いを入れているとみられる。これらが株価が下落した後に急反発している主な理由だ。

ここで海外投資家の「第1弾の爆買い時期」を、「中長期投資家」(現物売買が中心)と「短期投資家」(先物売買が中心)に分けて見ていこう。それはいずれ訪れるであろう海外投資家の「第2弾の爆買い」へのヒントが隠れているはずだからだ。

海外投資家の動向は現物に加え、先物も合わせて分析を

まず前者の「中長期投資家」は、3月第5週から6月第3週まで12週連続で大量買い越しとなったのが象徴的だ。一方、後者の短期投資家が連続買い越しとなったのは、ほぼ5月の1カ月間だけだった。

この海外投資家の現物・先物を合計した売買をみると、

・6月第1週(6月5〜9日)まで10週連続の買い越し
・6月第2週(6月12〜16日)に11週ぶりの売り越し
・7月第1週〜第2週まで、2週連続の買い越し

だったことがわかる。7月26日現在、日経平均の今年の高値は前出のとおり、7月3日の3万3753円だ。こうした数字を初めて見た投資家は「東証はこんなわかりやすい指標を発表していたのか。もっと早く知っていれば、投資判断の手助けになったかも」と思っていただけると嬉しいが、残念ながら、相場はそんなに甘くない。

なぜなら東証が発表するタイミングは、実際の取引よりも1週間近く遅れるからだ。通常は翌週の木曜日の15時以降に「投資部門別株式売買状況」として公表されている。ただ海外投資家、国内投資家(法人、個人)などに分類されて需給がわかる便利な指標であり、ぜひ注目していただきたい。

具体的に今回の事例に当てはめると、海外投資家の中長期投資家の売買(現物中心)は6月第3週(6月19〜23日)に売り越しに転じているが、この状況が、公表されたのは6月29日木曜日の15時以降で、すでに株価が下落に転じていたタイミングだった。実際の売買では、少しタイミングが遅れてしまう。

一方、海外投資家の短期投資家の売買(先物中心)は6月第1週に売り越しに転じていた。これが公表されたのは6月15日木曜日の15時以降であり、株価が直近のピークをつける前のタイミングだった。今回のケースでは、直近の株価のピークを見極める先行指標となったといえる。

このように、私は、海外投資家の現物売買だけでなく、先物売買も考慮してチェックすると、さらにマーケットの高安を見極める大きなヒントを与えてくれると感じている。

今のところ、投資スタンスは「現状維持」だ。これは前回時点と変わっていない。なぜなら、想定通りの展開になっているからだ。では、これらを踏まえ、いつ「海外投資家の第2弾の爆買い」が入るのかを考えてみたい。

中長期の海外投資家は日本株に失望していない

前回は(1)「外国人投資家は株主総会で日本企業が企業価値向上についてどう説明するかを注視しているが、現時点では期待したほどではない」(2)「4〜6月期決算の結果などを冷静に判断するタイミングだが、同期の決算は大幅増益になる可能性はそう高くない」という2つのポイントを述べた。これらをアップデートしてみよう。

まず、企業価値向上はどうか。やはり想定どおり、6月の株主総会を起点に、企業の本気度の「モメンタム」(勢い)は弱くなっているようにみえる。「東証の低PBR対策が日本企業の資本コスト意識を高めたのは事実。だが外国人投資家の日本企業に対するガバナンス改善期待を今のところ下回っている」という厳しい意見も聞こえてくる。

企業の本気度は「コーポレートガバナンス(CG)報告書」にも透けて見える。同報告書は今年「定時株主総会終了後に遅延なく提出すること」とされており、すでに発表した東証プライム上場企業は約1300社に達した。だが、アクティビストに狙われた企業などPBR1倍割れの危機感の強い企業が4〜5月の決算発表時までに低PBR対策を発表した一方、「提出期限ギリギリ」の7月のCG報告書に低PBR対策を発表した企業も少なくなかった。そうした企業は、本気度や具体性が低くみえる。

東証の資本コストを意識した経営の改革要請は、東証プライム企業全体への要請である。だが高PBR企業の中でCG報告書に資本コストや株価を意識した経営について記載した企業は、低PBR企業に比べて危機感が小さいようだ。短期的には、外国人投資家の日本企業に対するガバナンス改善期待を下回っている可能性がある。

ただ、私にはこれは想定内だ。やはり東証の低PBR対策が日本企業の資本コスト意識を高めたのは事実だ。来年の株主総会に向けては再度企業の本気度は上がってこよう。この東証の「企業価値向上」の改革は時間がかかる。短期の海外投資家は勘違いしてがっかりするかもしれないが、本質が見えている中長期の海外投資家も私と同じように想定内とみて、決して落胆はしていないはずだ。

次に、「4〜6月期決算」の状況はどうか。3月本決算企業の2023年度の第1四半期決算発表日は7月最終週から8月第2週末までがピーク。第1のヤマは、コマツ(6301)、デンソー(6902)、KDDI(9433)など200社以上の決算が発表される28日。第2のヤマは8月10日だ。

自動車を中心とした輸送用機器など、輸出産業の好決算が期待されているが、人件費や原材料費などのコスト上昇分を上回る値上げを実施、しっかりと収益を確保できている内需企業にも注目したい。個人的には今のところ企業全体では実績・予想ともにニュートラルな印象だ。ただ、業種間・企業間では格差が広がり、まだら模様になるとみている。

以上、残念ながら、足元の「企業価値向上」や「4〜6月期決算」の状況からは海外投資家の第2弾の爆買いが入る雰囲気はない。

日銀会合は現状維持の可能性、一部政策修正の場合は?

現在は「中銀ウィーク」のまっただ中だ。7月25〜26日のFOMC(連邦公開市場委員会)に続き、27日のECB(欧州中央銀行)理事会でも、市場のコンセンサスどおり0.25%の利上げが発表になるとみられ、サプライズはないだろう。

となると、やはり注目は7月27〜28日の日銀金融決定会合だ。同会合では、日銀が示す2023年度の物価見通しが上振れる可能性が高い。

この間、内田真一副総裁がYCC(イールドカーブコントロール、長短金利操作)に懸念を示し(7日の日経新聞)、日銀が近く政策修正に動くとの思惑が再燃。一時は急速な円高になった。逆に18日には植田和男総裁が「持続的、安定的な2%のインフレ達成にはまだ距離がある」(インドで開催のG20財務相・中央銀行総裁会議)と語り、当面の金融緩和継続を匂わせている。

今回の日銀会合は「金融政策の現状維持」が筆者のメインシナリオだ。実際に現状維持だった場合、円安となり、株価は上昇して直近の高値をめざす展開もあるかもしれない。ただ、前出の植田和男総裁発言で円安が進んだ結果、相場にはある程度織り込まれた可能性もあることには注意したい。

今回の会合ではYCCの撤廃・修正などのサブシナリオも排除しない。その可能性は20〜30%あるとみている。今のところ、多くの有力エコノミストは10月までにYCC修正を予想しているようだ。仮にYCCが修正か撤廃となれば、円高が進むことにより、株価はいったん急落するかもしれない。だが、そこは押し目買いのチャンスとなる可能性が高い。株価が調整する場合は、その後、海外投資家の第2弾の爆買いが入る可能性もある。

振り返ると、改めて、5月19〜21日に開催されたの広島サミット(主要7カ国首脳会議)の株式市場への影響は大きかった。西側の主要7カ国が「対ロシア」「対中国」で結束できるかどうかが最大の焦点だったが、オンライン参加予定だったウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のリアル参加は大きなサプライズとなった。

ここでホスト役を務めた日本の岸田文雄首相は国際社会に中国に対するG7のスタンスについて『分断ではなく、リスク低減』であることを発信。このことで恩恵を受けるのが日本であることがさらに注目され、海外投資家の第1弾の爆買いに拍車をかけたとみている。

直近、中国は、広島サミットの共同文書や、東京電力福島第一原発の処理水放出の方針に反対している。このような中、中国がただちに団体旅行の解禁などの規制緩和に踏み切る可能性は低いとの見方が多いようだ。

APECで米中首脳会談開催なら日本株にも大きなプラス

ただ、一方では米中対話が再開となっているのも事実だ。中国景気の低迷も影響しているのか、6月から矢継ぎ早にアメリカの現役閣僚等が訪中している。このことはポジティブに評価すべきだろう。

現状ではいつ開催されるか不明だが、仮に11月のAPEC(アジア太平洋経済協力)で米中首脳会談が実現すれば、日米中3カ国はもちろん世界経済にとって大きなプラスと見るべきだ。

その際は日本株にとってもポジティブなイベントになるだろう。引き続き、今年秋冬までの展開がどうなるのか、期待をもって見守りたい。

(本記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(糸島 孝俊 : 株式ストラテジスト)