7月9日、英・ガーディアン紙が日本のコメ離れについて記事を掲載しました。英国人記者はこの問題をどう見ているのでしょうか?

↑かなりピンチ

 

この記事を要約すると、日本のコメ離れの原因は、主に社会の変化(核家族や共働き世帯の増加、少子化)と食の多様化(例えば、若い世代のパンを好む傾向)にあると述べています。特に「Gohan(ごはん)」の調理時間が長いことが問題視されており、共働き世帯の生活はとても忙しいため、「ごはんよりパンのほうが楽」と考える日本人が増えていると分析。有効な解決策もなく、日本は米の衰退を食い止めることができないだろうと悲観的に語っています。

 

確かにそうかもしれませんが、少し疑問が湧きます。まず、なぜガーディアン紙はこのタイミングでこの問題を取り上げたのでしょうか? 日本人がごはんを食べなくなっていることは今に始まったことではありません。同紙は高度経済成長期にコメ離れの種はまかれたと述べていますが、日本では異なる見方も存在しており、戦後、GHQ(連合国軍総司令部)が学校の給食にパンを導入したことによって、コメ離れが始まったという意見も根強くあります。

 

同紙は触れていませんが、日本でコメ離れという「危機」が長年にわたって進行している一方、世界では米危機(global rice crisis)が起きていると欧米のメディアは報じています。世界経済フォーラムによると、稲作は世界のメタン排出量の12%を、温室効果ガス排出量の1.5%を占めており、気候変動の一因となっているとのこと。そのため、稲作の「サステナブル化」が優先事項だと言います。そうだとすれば、AIやIoTなどのテクノロジーの実用化がこの分野で進むのかもしれません。

 

また、ガーディアンの記事では言及されていませんが、コメ離れがこのまま続くとすれば、どうなるのでしょうか? 2022年10月20日付の日本経済新聞の記事によれば、「農林水産省は2023年産の主食用米の需要量(23年7月〜24年6月)が680万トンになる」と予測したとのこと。これは10年連続の減少になりますが、このトレンドはもっと続くかもしれません。2050年には350万トンになるという予測もあり、それとともに水田面積もさらに減るかもしれません。

 

世界中で進む食の「グレートリセット」の恐ろしい実態を明らかにしたジャーナリストの堤未果氏は『ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?』(文春新書)で、日本の水田について次のように述べています。

 

国土の7割を森林が占め、亜熱帯から亜寒帯まで幅広い気候を持つ島国、先進国で唯一野生の猿が生息し、四季の移り変わりを感じながら、細やかな虫の声を音楽のように聞き分ける私たち日本人の感性は、水田という小宇宙と共に育まれてきた。

その価値を、一体私たちは、この先どれだけ、次世代にバトンタッチできるだろう。

 

コメ離れは農業や経済だけではなく、文化や健康の問題でもあります。ガーディアンの記事では「NO RICE. NO LIFE」というメッセージの入ったシャツを着た日本人男性の写真が掲載されていますが、その意味は英国人記者が思うより重大かもしれません。

 

【出典】

Justin McCurry. ‘Bread is much easier’: how Japan fell out of love with rice. The Observer (The Guardian). July 9 2023