仕事でメンタル不調に陥る原因と症状・対処法を精神科医が解説 早めのストレスチェック・メンタルヘルスケアを

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平成27年12月から、労働者数50人以上の事業場においては、年1回のストレスチェックを実施することが事業者の義務となっています。それ以降、働く人のメンタルヘルスケアが重要視されています。しかし、メンタルケアのためには何をすればいいのかわからないという人も多いのではないでしょうか。今回は「渋谷365メンタルクリニック」の堀内先生に、仕事とメンタルの関係について解説していただきました。

仕事・職場でメンタルの不調をきたす人の主な原因やうつ状態・動悸など気をつけたい症状を精神科医が解説

編集部

なぜ、職場でメンタルの不調をきたすことがあるのですか?

堀内先生

様々な原因がありますが、厚生労働省の調査によると「業務量や業務内容、仕事の失敗や責任の発生、人間関係などが原因となって、仕事や職場環境で強いストレスを受ける人が多い」ということがわかっています(※)。上司からのパワハラ、同僚からの嫌がらせやいじめ、部下からの逆パワハラなどが原因になり得ます。一方で本人自身の問題として、「アスペルガー症候群」や「ADHD」などの発達障害の傾向がある可能性もあります。

※厚生労働省:令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/r03-46-50_gaikyo.pdf?_fsi=LEko4X5j

編集部

メンタル不調の要因は多岐にわたるのですね。

堀内先生

はい。会社には様々な人が集まっていますから、人間関係の悩みを抱えている人は少なくありません。人間関係に悩みを抱えると仕事に支障をきたし、さらに悩みが増幅してしまうこともあります。また、メンタル不調が続くと、身体的にも様々な症状を引き起こします。

編集部

ほかには、どんな問題がありますか?

堀内先生

仕事で不調があれば家族関係がうまくいかなくなったり、子どもに影響が及んだりすることもあります。また、働く世代は本来、仕事を通して成長を重ねていく年代ですが、そこで挫折してしまうと自尊心が傷ついたり、自信を失ったりしてしまうこともあります。そして、その後の数十年にわたって昇進や、時には給与にまで悪影響を及ぼすこともあります。

編集部

職場でメンタル不調になると、どのような症状がみられるのですか?

堀内先生

症状は非常に多岐にわたり、「気分が落ち込む」「憂うつになる」「注意力や集中力、思考力などが低下する」「意欲が低下する」などの心の不調が表れます。また、自然に涙が出たり、感情がなくなったり、「消えてしまいたい」「死んでしまいたいくらいだ」と思うこともあります。そのほか、食欲不振や不眠などの症状がみられることもあります。

仕事でメンタル不調に陥ったときの対処法 メンタルクリニック受診の目安やストレスチェック・セルフチェック方法

編集部

仕事でメンタル不調に陥ったときは、どうすればいいのでしょうか?

堀内先生

まずは自己判断で放置せず、会社の産業医や社内に設けられている相談窓口などを活用して、誰かに話を聞いてもらうようにしましょう。もし、社内の人に悩みを知られたくない場合には、家族に話を聞いてもらったり、社外のメンタルクリニックなどを受診したりするのもいいでしょう。

編集部

受診の目安はありますか?

堀内先生

「会社に行きたくない」「欠勤や遅刻が続く」「仕事への意欲が低下している」など、なんらかの自覚症状があれば受診を推奨します。

編集部

早めに受診した方がいいですか?

堀内先生

はい。それほど自覚症状がなくても、「なんだか最近うまくいかないな」という感覚がずっと続いているようなら、一度、医療機関で相談してみてください。

編集部

自分でストレスが溜まっているかどうか、チェックする方法はありますか?

堀内先生

例えば、厚生労働省は「5分でできる職場のストレスセルフチェック(※)」を公開しています。4つのSTEPによる簡単な質問から、職場における働く人自身のストレスレベルを知ることができるチェックリストです。こうしたテストをおこなって客観的な評価を得ることで、ストレスがどれくらい溜まっているのかある程度知ることができます。「思っていたよりも結果が悪かった」という気づきが得られるかもしれないので、ぜひ活用してみてください。

※厚生労働省:5分でできる職場のストレスセルフチェック
https://kokoro.mhlw.go.jp/check/

編集部

メンタルヘルスに問題がある場合、必ず休職しなければならないのですか?

堀内先生

いいえ、必ずしもそういうわけではありません。しかし、放置すると適応障害やうつ病、ストレスからくる身体の病気を引き起こし、治療が長引く可能性もあります。そのため、できるだけ初期のうちに適切な対処をすることが重要です。困ったことがあれば1人で問題を抱え込まず、産業医やメンタルクリニックなどに相談しましょう。

編集部

放置するとどのようなリスクがありますか?

堀内先生

まず、メンタルの不調がますます大きくなるリスクがあります。それだけではなく、慢性のストレスで同世代の人と比べて成長できなかったり、自尊心が低下したり、イライラして人間関係が悪化したりと長期間にわたって人生に影響を及ぼすこともありますし、家庭内の問題や夫婦・親子関係に支障をきたすこともあります。そのため、メンタルの問題は決して放置せず、早めに対処してほしいと思います。

仕事でメンタル不調・ストレス過多にならないための予防法やセルフケア方法

編集部

職場でメンタル不調に陥らないためのポイントを教えてください。

堀内先生

まずは、何が原因となって不調を招いているのか考えてみましょう。仕事の内容や職場環境など、職場に要因がある場合には上司やメンターや総務部などに相談して、職場の環境を改善することで回復が期待できるかもしれません。

編集部

そのほか、どうしたらいいでしょうか?

堀内先生

例えば、業務上のミスによって自信を失ったり、努力しても成果が得られなかったりして心身の不調が表れている場合には、自分の考え方や思考の癖が原因となっている可能性もあります。その場合には産業医やメンタルクリニックなどの手を借りながら、考え方を改善していく方法が望まれます。

編集部

ときには、自分にはどうしようもないことで悩んでいる人も多いと思います。

堀内先生

たしかに、上司によるパワハラを受けている場合や、無理難題を押し付けられている場合もあります。また、「仕事がクレーム対応で辛い」というように、ストレスが業務内容に起因していることもあるでしょう。その場合にも産業医やメンタルクリニックなどに相談して、客観的なアドバイスをもらったり、主治医から業務内容の見直しや部署移動の依頼の書類を制作してもらったりする手もあります。

編集部

メンタルの不調に陥らないため、自分でできる予防法はありますか?

堀内先生

「休養を取ること」と「気分転換をすること」が大切です。また、ストレスを発散できる趣味をもったり、楽しみながら打ち込めるものを探したりして、気分をリフレッシュすることができれば、日常のストレスを軽減することができるでしょう。加えて、信頼できる人を見つけて、何かあったときにすぐ相談できるようにしておくことも重要です。産業医や社内の相談窓口が利用できない場合には外部の医療機関を活用して、問題を1人で抱え込まないようにしましょう。

編集部

ストレスを軽減することが大事なのですね。

堀内先生

はい。適度なストレスは心の成長につながりますが、過度のストレスは様々な病気を引き起こします。ただ、「ストレスを溜めないようにしよう」と思っても、仕事をしていれば自然とストレスは溜まるものです。「溜めない」というよりも、むしろ「心の中に入ってくるストレス」と「心から出ていくストレス」のバランスを保つことを意識しましょう。

編集部

どういうことですか?

堀内先生

患者さんに説明するとき、私はよく風船のイラストを使用します。心は風船のようなもので、ストレスが溜まれば風船は膨らみ、限界を越えれば風船は割れてしまいます。しかし、適度にストレスを風船から逃してあげれば風船はしぼみ、破裂することはありません。このように、適度にストレスを心から出して、“心の風船”をパンクさせないようにすることが大切なのです。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

堀内先生

新型コロナウイルスの影響もあり、現代社会は激変しています。また、文明が進化するスピードもますます加速していますし、「仕事がうまくいっている人」と「そうでない人」の格差は著しくなっています。そんな中、ストレスを溜め込み、心身に問題を抱えている人が増えているのも事実です。自分だけではどうしようもないというときには身の回りの人、そして産業医や精神科医に相談して、客観的なアドバイスをもらいましょう。1人で苦しまずに、「ちょっとおかしいな」と思ったら、問題が長期化する前に相談してほしいと思います。

編集部まとめ

現在、日本では政府が主導して職場でのメンタル問題に力を注いでいます。しかし、新型コロナウイルスの問題などもあって、メンタルのバランスを崩している人が増えているという意見もあります。メンタルの不調は長引けば長引くほど、治療が難しくなるという特性がありますから、できるだけ早めに対処することを心がけましょう。

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