今年3月に『50歳からのごきげんひとり旅』(大和書房刊)を上梓された、料理家・山脇りこさん。ひとり旅のノウハウがつまった旅エッセイは、「旅がしたくなる」と多くの人から支持を獲得し、ベストセラーとなっています。

50代からのひとり旅で「ご機嫌」を手に入れる方法

50歳からひとり旅を始め、更年期の鬱々な時期を乗りきっているという山脇さん。著書に関するお話やとっておきの旅テクを教えてもらいました。

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●機嫌よく過ごすためにも“自分”を最優先にしようと決めた

――ベストセラーになっている『50歳からのごきげんひとり旅』ですが、なぜこの本を執筆されることになったのでしょうか。

山脇りこさん(以下、山脇):もともとは、あるウェブサイトで「50歳をごきげんに生きる」をテーマに連載をしていたのですが、私自身、50歳前後には、やっぱりいろいろと鬱々とすることがあって。既に50代の方は分かると思うんですけれど、“不調”が急に来るんですよね。急に来るのに立ち去らない。去らないどころか、さらに事態の悪さが増し増しになっていく…。

この状況が、体も大変なんですけど、私の場合は気持ちの面に押し寄せてくるのに参ってしまって。毎日が楽しくなくなって、放っておくと不機嫌になることが増えてきたんです。

それで、「とにかく機嫌よく過ごすことを最優先にしなければ!」と、決意。「機嫌よく過ごす」っていうだけでも、まあまあ意識しないとできない年齢になったんだなと気がついたんです。自分のことをあと回しにしたり、ちょっと嫌なことも引き受けたりしていたんですが、そういうのはできるだけやめるようにしました。

意識してみると、私がご機嫌でいられることを最優先にすると、周りの家族とか友達もハッピーなんじゃない? と思うようになって。そのためにいろいろやってみたなかで、ひとり旅の効果が絶大だったんです。すごくよかった。そこで、どうよかったのか? とにかく楽しかった、元気になったというひとり旅の経験を書きました。

――ひとり旅を始めたきっかけは、なにかあったのでしょうか?

山脇:結婚してから、いつも家族(夫)と旅していて、かれこれ30年はひとりで旅をしていなかったんです。でも、49歳だったかな、友人のグループ旅行に参加した際に、私がひとりになるタイミングがあって。そのとき「ひとりで大丈夫?」って言われちゃったんですよね。そこで、私は「ひとりでは大丈夫じゃない人」になっちゃってるのか? とちょっとショックというか、いいのか自分? と思って。

それがきっかけで、ひとり旅ができる人になりたいなっていう思いが、ふつふつと湧いてきて。でも、私は案外ビビり。すごいバックパッカーだったってわけでもないですし、最初はとりあえず、「行ったことがあるところに行ってみよう」と思って、帰省の帰りに京都で途中下車してみました。

●完全に家事を休めるのはひとり旅だけだと気づいた

――ひとり旅をされてみて、いかがでしたか?

山脇:女友達や家族と行っても、我慢や調整をしてしまう部分っていろいろとあると思うんですよね。でもひとり旅だと、自分の好きなところに何時間いてもいいわけだし、決めるのは自分、120%自分の時間です。この前も、ひとりで大阪の中之島美術館に4時間いましたけれど、これがだれかと一緒に行ったら申し訳ないなと思うでしょうし、「ここに4時間とかありえない〜」なんて言われるかもしれない。でもひとりならそれがない、ちょっといいじゃない? と思って。

やっぱり女性って、周りを優先しがちだったりもしますから。私も休みでも家にいるとなんかしちゃうんですよね。たとえば、ごはんをつくったり、シーツを替えたり、ちょこちょこ家事をしたり、あるいは仕事をしてしまったり。だから100%は休めていない。

100%休むには、私の場合、ひとり旅かな〜と。旅でも、家族と行くとなにか家事的なことをしてしまうから、ひとりで旅に出るとまるっと休みというか、私がしたいことだけしていたらいいでしょう? シーツも替えてくれるし(笑)。完璧に休むという意味でも、ひとり旅はいいなーと思います。完璧に休めますからね。

――たしかにひとり旅だと気も使わずに、家事からも解放されて完璧に休めますよね。

山脇:最初は、「私だけ遊びに行って悪いな」とか、うしろめたさがあったんです。都会でバリバリ働いていて出張もこなす女性はそうでもないかもしれませんけれど、私は長崎出身なので、地元の友達と話すと「ひとり旅なんてありえなくない?」って感じで。家族を置いては行けないものだとずっと思い続けて何十年も過ごしてきました。

そうしているうちに早50歳。病気になる友達や、介護で動きにくくなる友達の話も聞いて、今やらないと明日はわからないなと思うようになって。晩節も短いかもしれないから、「ちょっと行ってきまーす」が、言いやすくなった気がします。今回の本にご感想をいただくと、子どもも手が離れたから行けるかも! という声もあるので、自分のことをあと回しにするのやめようって思える時期なのかもしれないですよね。

それと、何度かひとり旅をしていて学んだのですが、カレーとかシチューをつくっていくと案外大丈夫でした(笑)。むしろ、家族も私が機嫌よくしてくれてるのがいちばん大事みたいです。

●ひとり旅をすることで、人に優しくなれた

―ーひとり旅をされるようになって、自分のなかでのなにか変化はありましたか?

山脇:感謝の気持ちもあるので、帰ってきたら「ごめん、ごめん」みたいな感じで夫に優しくできたり、帰宅後2日間くらいはかなり上機嫌でいられます(笑)。

ひとりでいる時間には、おいしいものを食べたら「これ、夫に食べさせたいな」とか、「母に食べさせたかったなとか」とか思って、自分にとって大切な人がクリアにわかります。なにを優先すべきかとか、なにが気になっていたかとか。気持ちの整理もできます。仕事ばっかりしないで家族と一緒にいる時間を増やそう、と思ったり。

ひとり旅には日々のことからちょっと離れて、自分自身や家族とのいろんな関係性を改めて見ることができる感じがします。

●住んでいる街の訪れたことがない場所にいくのも◎

ーー山脇さんはどうやってひとり旅のプランを立ててらっしゃいますか?

山脇:私はひとりでレンタカーとかできないので、基本的には公共の交通機関で移動できる、あるいは歩いて回れるようなところにしています。本にも書いたのですが、Googleマップに行きたいところを保存してあって、その中から場所を決めたら、どうやって行くか調べて、バスとか歩きとか電車とかで行けそうだと分かったら行く、という感じです。

公共の交通機関となると、まあまあな都会で、観光地になることが多いです。すごい秘境とかは私の場合はムリで、これまで友達や家族と行ったことのあるような観光地とか、京都みたいに全方位で観光客を受け入れているような、そういう懐の広い街に行くことが多いです。

ーー観光地だとガイドブックなども多数販売されていますが、そういうものも参考にしてから旅をした方がいいのでしょうか?

山脇:私は、旅行の1週間くらい前から行き先の歴史やその街が舞台の本などを読んでいきますね。ガイドブックは、海外行くときには少し見ますけど、日本国内はあんまり見ないかもしれません。ない。あそこもここもっていうより、「あのパン屋さんに行きたい」とか目的を持って行くので、そこをGoogleマップでマークして、周りになにがあるかな? とか探します。

ESSEさんもそうですけど、雑誌を見て興味のあるところがあったら、そのとき旅するつもりがなくても、そのままGoogleマップに入れて保存します。ときどき眺めてると、「ここ行きたいって思ってたんじゃない? 私」みたいな感じでプランができてくるんです。

――もし初心者向けの場所などあれば教えていただけますでしょうか?

山脇:気になるところに行くのがいちばんかな。たとえば、私は大学時代から東京都に住んでいて、世田谷とか目黒あたりはよく知っているのですが、谷根千(谷中、根津、千駄木)あたりは同じ東京でも詳しくないんですよね。それで1泊で行ってみたりします。わざわざ遠くじゃなくても、車で30分くらいの場所でもいいと思うんです。意外とご自分の住んでいる街でホテルに泊まったことってとかないと思うので、泊まってみるとか。

長崎の人なら佐世保とか諫早、仙台の方は気仙沼とか、山形の方は鶴岡とかに泊まってみるのはどうでしょう? 結構新鮮で、自分の住んでるところでも、意外となにも知らないなって思います。