持続可能な社会をつくるための「SDGs」。2030年までの達成をゴールとした「持続的な開発目標」を指し、世界的に注目されています。一見難しそうに感じますが、じつは私たちの暮らしのなかに取り入れられることがたくさんあります。今回のテーマは「自然を守る取り組み」について。SDGsに詳しいフジテレビの木幡美子さんにつづってもらいました。

井浦新さんが自然環境改善のために始めたこと

みなさん、今年の夏はどう過ごされますか?
海や山のレジャーに出かける計画を立てている方も多いでしょう。自然にふれると身も心もリフレッシュしますよね!

【写真】環境に配慮した商品開発に取り組む井浦新さん夫妻

私たちの生活は、自然と密接に関わっています。
(1)海の豊かさを守り、(2)陸の豊かさも守り、(3)気候変動を食い止め、(4)安全な水にアクセスできる環境を維持すること。

SDGsを「ウエディングケーキ」にたとえたモデルがあるのですが、この4つはそのいちばん下の土台にあたります。これがくずれるとその上にのっているケーキの2段目(社会)や3段目(経済)も崩れてしまいます。

すべてのベースは環境にあり、それが破壊されてしまうと、社会も経済も成り立たないことを示しているのです。

●俳優・井浦新さんの挑戦

山、森林、海、川、湖というと、美しい景色を想像しますが、厳しさもあります。

「自然に癒やしてもらうのではなく、圧倒的なパワーをもつ自然に身をおくことで野生を呼び覚ますのです」

番組のインタビューでそう語ってくれたのは俳優の井浦新さん。多くのドラマなどで活躍中の井浦さんが、地球環境を改善させることに本気で取り組んでいることを知り、思いきって取材を申し込みました。

フジテレビのミニ番組『フューチャーランナーズ』は、毎週、SDGsの課題解決に向けて行動している人たちを紹介していますが、俳優さんが登場するのは初めてです。

「今の世の中は、なんでもラクな方、簡単な方に流れていっていて、人間が本来持っている力や本能がなくなっているのではないか」
だから、「自分をリセットするために、定期的に自然と向き合う」のだと。

すごく共感しました。エアコンで適温に保たれた環境で、いつでも食事や安全な水が手に入り、欲しいものは“ぽちっ”とネットで買える時代。もちろんそれによってたくさんの恩恵も受けていますが、もし災害などでこれらの便利なシステムが一挙に失われたら、私たちは生きていけるでしょうか?

●環境のために取り組んだのはヘアケア商品の開発

人間が便利な生活を追求した結果、温暖化がかつてないスピードで進むなか、「今起きていることがこのまま続くと、いったいどんな未来が待っているのだろう…」井浦さんは、そんなことを家族と話すようになったそうです。

そこで取り組んだのが、ヘアケア商品の開発です。

「毎日シャンプーしたこのたくさんの泡はどこに流れて、どうなっているんだろう」
この疑問をきっかけに、家庭で使う洗剤類を見直した際、安心して使い続けられるシャンプーが見つけられず開発に至ったそうです。お風呂場から流れ出る排水も環境破壊の要因だからです。

井浦さん夫妻が開発した100%自然由来(石油由来成分等化学物質不使用)の石けんシャンプーとトリートメントは、鹿児島県の最南端・南大隅町で製造されています。国内の化粧品工場を探して検討を重ねた結果、自然豊かなこの場所に工場を見つけたそうです。

●地球に還るシャンプーとは…?

南大隅町の特産であるパッションフルーツから抽出した蒸留水をベースに、井浦さんが香りをブレンドした精油や植物エキスなどを入れ、すべてが地球に還る成分でできています。

原料に使用するパッションフルーツとタンカンは傷や成熟不良で流通にのらなかった「規格外」のものを使用して、農家の方への支援につなげています。製造の際に出る植物や果実の残渣(抽出後に残った皮などの部分)は、粉砕して養鶏場の餌や畑の土壌改良のための肥料になっているそうです。

さらに、容器はリサイクル効率が高く、リサイクルエネルギーがプラスチックより低いアルミ製を使用するなど、みごとなまでにすべてが“クルクル”と循環する仕組みになっていました。

 

●働く人の環境づくりも意識

さらに私が感銘を受けたのは、工場で働いているのはほとんどが女性で、子育てと両立できるよう終業は午後4時ということです。女性が家庭と両立しながら、無理なく社会と関われる場所があるのは貴重です。

また、原料の果実の加工の一部の作業は障がい者施設に委託しています。

こうして生まれたヘアケアブランドKruhi(クルヒ)は、ジェンダーフリー・ジェネレーションフリー・着色料フリーで、女性はもちろん男性にも、生まれたての赤ちゃんからお年寄りにも、ワンちゃんにも! 肌につけても、なめても安全だそう。働く人も、使う人もハッピーになってほしい、そんな誠実な思いが伝わってきます。

●「欲しいからつくる」のではなく循環する仕組みを大切にしたい

ブランド名の「クルヒ」は、大和言葉の「明日」「いつか来る未来」からとったそうです。暗闇から抜けて一筋の光が差すように…という願いが込められています。

「欲しいからつくる、をくり返しているとムダが多くなる。すべてを循環させる形を見出すことに、楽しさがある。入口から出口に関わるすべての人たちが幸せになれる未来がいい」と語った井浦さん。

今回取材して、毎日使うものだからこそいつもの習慣を見つめ直し、人間にも生態系にも優しい選択を考えることが大事だと改めて感じました。