「こんなときどんな服を着ればいいかわからない」のあるあるなお悩みに合わせたアイテムやコーディネートを、30〜40代の今を生きる3人の個性豊かな女性の日常とともに紹介していきます。第23回は黒のTシャツ。どんなテイストのコーディネートにも使えるし白よりすっきり見えるけれど、オシャレに見せるのが難しい側面も。コンサバスタイルが好きな主人公・マユミに当てはめて着こなしを紹介します。

シルバーアクセサリーでモードっぽくシャープに見せる

●6/20 火曜日 13:30 雨の昼休み、カフェで

マユミ:雨の日って結構好き。雨音をBGMにランチするひとときが好き。雨の日に合うファッションを考えるのも好き。黒のTシャツは雨濡れも体型もカモフラージュできるし、すっきり見えるから好き。黒のタイトスカートを合わせてワントーンにすると、Tシャツのカジュアル感が消えて会社に着て行けるのも好き。シルバーのネックレスを二つ重ねて華やかさを出したらもっと好き。こうやって、自分が心地のいいコーディネートで過ごす日常が好き。

ユウが好きだったブランドで買ったTシャツ。上質なコットンでふわふわで着心地がよくて、湿気が多い日だって快適。いちばん着ているブランドだと言っていたから、着るたびに私もユウを思い出してしまう。ユウの好きなものはなんでも知りたかった。彼が好きだと言うものは私もなんだって買って試して、ユウが見たという映画もアニメも読んだ本も、私は好きじゃないと思っても全部最後まで目を通した。

別れて2か月が経った。ユウのことを思い出さない日なんてなくて、今でも毎日SNSを見に行ってしまう。別れてからユウはSNSをほとんど更新しなくなってしまった。いつか新しい彼女との写真がアップされるだろうし、ある日突然「結婚しました」とポストされる日だってきっとくる。二人そろって婚姻届の紙を持った写真が出てきたらと思うと、起きてもないことなのに絶望する。

連絡を取らないことにやっと慣れた。時間が経つとどうしてこんなに、よかったことだけ思い出してしまうんだろう。もうこんなにだれかのことを好きになりたくない。そう思うと同時に、まただれかを好きになって、その隣で安心したい。「暇だからさみしいんだよ」って人は簡単に言うけれど、40も過ぎれば忙しいときほどひとりがこたえる。手を離したのは私なのにな。私はなんだったら満足できるんだろう。私はなにがしたいんだろう…。

上からビスチェを着てトレンドスタイルに

●6/25 日曜日 8:45 ドライブデート

マユミ:4月に出会った松田と3度目のデート。千葉の港町に海鮮丼を食べに行こうと誘ってくれた。コーヒースタンドでホットコーヒーを2つ買って合流場所へと急ぐ。もしかしたら散歩するかもしれないし、暑くなるかもしれないし、コーヒーやしょうゆを飛ばしたりするかもしれないし。シワも汗も汚れも気にしなくていい黒のTシャツを着た。ビスチェを上から重ねてデートに張りきってる雰囲気も出した。黒でそろえれば大人だってビスチェをすてきに着られる。淡色デニムで港町に似合う爽やかさも添えた。うん、これでいいでしょ。

松田もバツイチ(子持ち)だから自分のバツイチステータスを気にしなくていいのはラク。話がとくに盛り上がることはないけれど沈黙もなく、気を遣わなくても話はまわっていく。特別好きだと思えるポイントはないけれど、嫌いな要素もない。湧き上がる感情はないけれど、興味がないわけでもない。感情に波風が立たない人との方が、生活を考えるうえではうまくいくんだと思う。

「マユミちゃんはさ、また結婚したいとか思うの?」と聞かれてどう答えるか言葉につまった。本当は考えてるけれど、私が「結婚したい」と答える重みを考えてしまう。「まぁ、いい人がいれば」と当たり障りない返事で流し、話題を変えた。

<俺はマユミとただ一緒にいたいだけだった。好きな気持ちにそれ以上も以下もなくて一緒にいられたらそれで幸せだったから、つき合うってことがじつはよくわかんなかった。結婚する必要もよくわかんなくて。でもそれでマユミが苦しかったのなら、ごめんね>

ユウに最後に言われたことだった。あまりに純粋な気持ちに自分が嫌になった。私が形式にこだわってつき合うことや結婚を求め、安心したがったこと。ユウにこうでいて欲しいと求めたこと。全部私が悪者になっちゃうじゃん。

今目の前にいるこの人になら、私はなにも求めずにすむような気がする。悪者でいても罪悪感は湧かない気がする。平穏に日々が過ぎていくのなら、それがいいのかもしれない。そんな日が来れば、このTシャツを着てもきっとなにも思い出さなくなる。

「あのさぁ、まだお互い好きとかじゃないと思うんだけどさ、私とつき合ってみませんか?」

いつかこの恋を思い出しても、きっと泣いてやらない。

●今回のキーアイテム:黒のTシャツ

オーバーサイズに着るトレンドが長かったですが、今季はコンパクトに着るトレンドが回帰。コンパクトサイズなら女性らしく見えたりきれいめに見えたりする効果があるので、会社やデートなどおしゃれさが必要な場面にも頼れます。ビスチェの重ね着だけでなく、ジレやキャミワンピースとの組み合わせもおすすめ。

【今回の主人公は、コンサバスタイルの“マユミ”】

42歳のマユミ。保険会社の営業で、バツイチ独身のひとり暮らし。168cm、57kg。大阪出身。はっきりものを言う性格で気が強く、クールで周りに頼られがちだけど中身は乙女。仕事柄、平日はオフィスカジュアルスタイルでモノトーンばかり。休日もそれをベースにしたコンサバな服が多い。