2030年度に温室効果ガスを46%削減の達成に向け、国は窓の高断熱化に力を入れています。新築やリフォームでの補助金も充実、なかには併用できるものもあります。これはぜひ、利用したいもの。今回はとくに「先進的窓リノベ事業」について、編集部が取材しました。解説してくれたのは、マンションや戸建てのリノベーションを手がける「スタイル工房」のチーフプランナー・鈴木ゆり子さんです。

Q.今、窓が注目されているのはなぜ?

A.脱炭素社会の実現が重要だからです

近年、世界的に叫ばれているのが「2050年カーボンニュートラルの実現」です。日本も、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を森林などによって吸収することで、実質ゼロにすることを目指しています。

加えて、2030年度に温室効果ガスを46%削減(2013年度比)することが目標に。その実現に向け、石油や天然ガスなどの化石燃料から、太陽光発電などの利用拡大へ。こうしたさまざまな努力を重ねて脱炭素社会を実現し、地球の平均気温の上昇を抑える一端などを担おうとしているのです。

「しかし日本は、ヨーロッパに比べて遅れているのが現状です」(鈴木さん・以下同)。そのため国は、1日も早く達成できるようにさまざまな取り組みをしています。

 

Q.脱炭素化に、なぜ窓が関係するの?

A.熱は窓から流出入しやすく、住まいの断熱性に与える影響が大きいからです

家庭で節電することは、脱炭素社会に向けたアクションのひとつです。消費電力を抑えれば発電にかかるエネルギーが減り、CO2の削減になります。住まいが省エネ化されれば、消費エネルギーはさらに抑えられます。そのためには、住まいの断熱性能を上げることが重要に。

 

しかし、このイラストでわかるように、熱の流入・流失は、夏・冬ともに、窓(開口部)がいちばん高い数値を示しています。つまり、窓の断熱性能を上げれば、住まいの熱の伝わりやすさ(熱伝導率)の抑止が可能。外気温の影響を受けにくくなると、冷暖房の設定温度と室温の差が少なくなり、消費エネルギーが抑えられます。

「なによりも、家の中で温度差がないとヒートショックが起きないので、長く健康的に暮らせます。その点でも窓の断熱は重要です」

 

Q.脱炭素化に、なぜ窓が関係するの?窓の断熱性能を高めるための公的支援などはありますか?

A.国や自治体などによるさまざまな支援事業があります。場合によって併用もOK

以前から、国などから補助金が受けられる支援事業はありました。

「過去には時期が合わずに受けられなかった事例もありました。しかし近年は、さまざまな支援事業が継続的に行われています。しかも、ほかの支援事業と組み合わせやすいのが特徴です」

2023年度に始まった先進的窓リノベ事業など、国や地方自治体などの支援事業はいろいろあります。

「ぜひチェックしてください。たとえば東京都の場合、今なら4つの支援事業が受けられる可能性があります」。

 

Q.先進的窓リノベ事業とは、どんな支援事業ですか?

A.窓のリフォーム工事に対して補助金が出ます

新たに新設された先進的窓リノベ事業は、経済産業省と環境省による支援事業です。

「この事業がつくられた背景には、2050年カーボンニュートラルの実現や、それに向けた2030年度の目標達成などがあげられます。目的は、既存住宅に設置されている窓の断熱性能を高めることで、既存住宅の省エネ化や冷暖房費の負担の軽減などがあります」

窓の断熱化によって冷暖房効率が向上し、冷暖房エネルギーの削減に貢献。住宅におけるCO2排出量の低減にも期待できます。しかも、住まいの中で熱損失が大きい窓を一定条件のレベルに断熱改修することで、内容に応じた補助金が受けられます。対象となる窓の断熱改修工事は次の4つ。

 

●補助金の対象となる窓の断熱改修工事の方法について

●外窓交換(カバー工法)

既存の枠は残した状態で既存の窓を取り外し、既存の枠の上から新たな枠をかぶせて新規の窓に交換する工事。

「開口部は一回り小さくなりますが、部屋や外壁、既存の枠も傷つけることなく窓の交換ができます。先進的窓リノベ事業の対象は、複層ガラス等への交換となります」。

 

●ガラス交換

既存のサッシはそのまま利用し、ガラスのみを取り替える工事。

「先進的窓リノベ事業の対象は、複層ガラス等への交換のため、単板ガラスから複層ガラス等に替える際は、厚みの違いをアタッチメントで調整します。既存のサッシがアルミでも、ガラスの交換で断熱性能は上がります」。

 

●外窓交換(はつり工法)

既存の窓を枠ごとすべて撤去し、枠から新しくつくり直す工事です。

「窓の周りの外壁や室内の壁も壊してつくり直すため、大掛かりな工事となります。フルリノベーションや耐震補強工事をする際に採用するといいかもしれません。先進的窓リノベ事業の対象は、複層ガラス等への交換です」。

 

●内窓設置

既存の窓はそのまま利用し、室内側に新しい窓を取りつけ、窓を二重にする工事。

「先進的窓リノベ事業の対象には、既存の内窓を新しい内窓に交換する場合も含まれます。内窓の新設や交換のいずれも、内窓に使われるガラスは複層ガラス等が対象となります」。

Q.補助額はどのくらいになるの?

A.窓のグレードや大きさなどで異なります

先進的窓リノベ事業の補助額は、リフォームした窓ごとに異なり、使用製品のグレードや工事方法、窓やガラスの大きさなどで変わります。製品のグレードは、熱の伝わりやすさを表す熱貫流率で4つに分類されます(下の表参照)。値が低いほど断熱性能は高く、補助額も高く設定されています。

ただし、Bグレードは0円。窓やガラスの大きさは、大・中・小・極小に分類。内窓設置と外窓交換は同じ設定ですが、ガラス交換は異なるので右表を参照してください。どの工事も小と極小は同額です。

「補助を受けるには、同事業に登録された商品の使用が条件です。また補助額は5万円以上、一戸あたりの上限は200万円など、さまざまな条件があるので注意してください」。

● 補助額の例(内窓設置/外窓交換の場合)

● 補助額の例(ガラス交換の場合)

● グレード

※ 1 先進的窓リノベ事業では、窓(ガラス・サッシ)の性能を表す指標のひとつです。大まかにいうと、窓(ガラス・サッシ)の外気に接する側と家の内側との間の熱の伝わりやすさを表す数値でUw値と表示されます。Uw値が低いほど、高い性能の窓(ガラス・サッシ)になります。
※ 2 国立研究開発法人建築研究所が公表する「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」の「2.エネルギー消費性能の算定方法 2.1 算定方法 第三章 暖冷房負荷と外皮性能 第三節 熱貫流率及び線熱貫流率 5. 部位の熱貫流率 5.2開口部 5.2.4大部分が透明材料で構成されている開口部(窓等)または大部分が不透明材料で構成されている開口部i (ドア等)の熱貫流率」(令和4年9月更新)に基づき、開口部の熱貫流率は、JIS A 2102-1 などによる方法のほか、当該窓の仕様に応じて付録Bで定める熱貫流率の値によることもできます。

 

Q.支援を受けるための手続きは、どうすればいいの?

A.リフォーム事業者などに依頼しましょう

上の図が手続きの流れです。ちなみに交付申請の手続きは、工事の施工者が行います。

「工事施工者は、窓やガラスの交換を行う会社やリフォームを行う会社など。しかし、同事業に登録した工事施工者限定なので、依頼先を決める際には気をつけましょう。補助金の還元も工事施工者が行います。すでに交付申請は始まっていて、期限は遅くとも今年の12月末まで。工事完了後に交付申請をしますが、着工後に予約申請ができます(11月末予定)。予算は1000億円と大きな額ですが、上限に達成次第、終了。フルリノベーションなどの場合は、工事期間が長いので注意が必要です」