保護犬だった雑種のポテトとペットショップにいた黒柴の銀。かたや臆病で慎重派、かたや大胆な怖いもの知らず。そんな正反対の愛犬2匹とのにぎやかな暮らしを漫画家のまんきつさんが描く実録犬漫画『犬々ワンダーランド 1巻』(扶桑社刊)が6月6日に発売されました。これまでお酒に逃げ、(『アル中ワンダーランド』)、サウナにハマり(『湯遊ワンダーランド』)、その末に見つけた愛犬たちとのカラフルな日々とは――。まんきつさんに犬たちとの出会いから、今作に込めた思いなどを伺いました。

まんきつさんインタビュー。愛犬との出会い、漫画にするまで

――3年ぶりの新作ですが、なぜ「犬」をテーマに描こうと思われたんですか?

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まんきつ:もともと気功の漫画を描こうとしていて。気功治療に通っていて、私もできるようなったらいいなと思って気功の勉強をしていたら、担当編集の高石さんが当時の週刊SPA!の編集長に企画書を出したんです。そうしたら編集長が「この漫画が世に出たら、まんきつさんの漫画家人生が終わるね」って言われたと。今は本当に描かないでよかったなと思ってます。

――そこからどう「犬」に辿りついたんですか。

まんきつ:その頃ツイッターに2ページぐらいの犬の漫画を投稿していたんです。それが結構リツイートされていて、高石さんから「犬をテーマに描きませんか?」と提案されて、昨年3月から週刊SPA!で連載することになりました。

――オールカラーで漫画を描かれるのは初めてだと。

まんきつ:カラーは時間がかかりますし、大変ですね。ただ、『犬々(わんわん)』のネタ的には日々の中でいくらでも見つかるので全然困らないんです。

●保護犬ポテトとの出会い

――そもそも、まんきつさんが犬を飼うことになったきっかけは?

まんきつ:14年前ぐらいに息子が犬を飼いたいって言い始めたときに「保護犬を引き取ろう」と思ったのが最初です。実家でも犬や猫を飼っていたんですが、保護した動物ばかりで、最初はお金を出して動物を飼うことに対して違和感があったんです。

――そして保護犬のポテトと出会った。

まんきつ:犬の保護活動をされている荻原さんのお宅に伺ったときに「いちばんおとなしい子を譲ってください」とお願いして出会ったのがポテトです。ほかの犬にいじめられちゃうぐらい弱くて隔離されていた子でした。うちにはすでに猫がいたので、大人しければ穏やかに暮らせるかなと思って。

――その一方で、黒柴の銀ちゃんは小さい頃は噛み癖がすごくて元気だったと。

まんきつ:漫画では噛み癖がひどかったと描きましたが、基本子犬のパピー期はみんな甘噛みをするんですよ。それが元気な証拠。これはみんなが通る道で、時期が来れば噛まなくなる犬がほとんどだと思います。

――とはいえ、当時は暴れている銀ちゃんをなだめるために「肛門を舐める」という愛情表現をされたこともあったんですよね。

まんきつ:あのときは犬のことを全然わかってなかった。どうやって育てていいかわからなくて、シーザー・ミランの本を読んだりとか。肛門を舐めたあとに口の中に変な口内炎ができちゃったし、あれは本当に間違ってたと思います。絶対にまねはしないでください…。

昔は犬の訓練とかしつけは主従関係がわからせるように厳しくするように言われていましたけど、それは昔の軍用犬を訓練していたやり方。今はそんな厳しい訓練は必要ないそうです。それを学んでからは、うちの子たちはほめてほめて育てています(笑)。

●育児漫画を描いているような気持ちに

――保護犬だと飼育が難しいという話も聞きます。

まんきつ:保護犬が難しいというよりも、どういう事情で保護犬になったかだと思います。個体差もありますから。ポテちゃんもそうですけど、家族以外にはほとんど心を開かないんです。動物病院に連れていくのも大変ですし、パニックになって吠えちゃうからペットホテルにも預けられない。そういう大変さはあります。

――また、作中に「犬好きあるある」も随所に散りばめられています。その中には「飼い主と犬は似てくる」というのがあったのですが、似てきた部分はありますか?

まんきつ:夜ベッドに入って、フーってひと息つくと、同じタイミングで横にいる犬も同じようにため息をついてマネしてきます。めちゃめちゃかわいい。

――性格的にはどうですか。

まんきつ:銀ちゃんは陽キャというか、人間だったら海の男だと思う。夏に海で日焼けしながらはしゃいでいるタイプの子。ポテちゃんは病弱で軽井沢の避暑地で白いワンピースを着てる子ですね。

そんな2匹と暮らしていると、今年成人した息子の小さい頃の記憶が蘇ってくるんです。だから、この作品は育児漫画を描いてるような気持ちになるときがあります。

●保護犬について取材をして感じたこと

――日常回に加えて「保護活動家」や「犬の学校」などにも取材に行かれています。

まんきつ:ポテちゃんを譲り受けた保護活動家の荻原さんがずっと気になっていたんです。今回取材するにあたって久しぶりに連絡をして、保護活動に対する想いを聞くことができました。

――犬にまつわる現場を取材されたなかで新しい気づきはありましたか?

まんきつ:私も歳をとったら犬を数匹引き取って、ささやかでも保護活動ができたらな…と思っていたんです。荻原さんのお話を聞いていると中途半端な覚悟では続かないなと痛感しました。毎日の散歩も大変ですし、家族の理解と協力がないと難しいなと思いましたね。

――コロナ禍で犬を飼う人が増えて、コロナが収束してきたことでペットを捨ててしまう人も増えているようです。

まんきつ:本当に心が痛いですよね。ペットショップで買って飼い始めてから、「こんなに大変だと思わなかった」といってお店に返す人もいるみたいです。それで保健所に連れて行かれる犬もいます。保護団体も荻原さんのように善意でされている方もいれば、ビジネス目的のところもあります。譲渡会では、引き取る代わりに高い保険やサプリメントを定期購入させられるところもある。そういう業界の現状も知ってもらいたいですね。

――今後連載で取り上げたいことや会いたい方はいますか?

まんきつ:ツイッターに「我が家の雑種犬」っていうアカウントがあって、その雑種犬が本当にかわいくてのびのびとした表情をしてるんです。写真を見てるだけで、「本当に飼い主がかわいがっているんだろうな」っていうのが伝わってくる。犬って目に感情が出るので表情を見て、「この動画はヤラセかもしれない」って思うときもあります(笑)。以前、なんとなく怪しいと思った動画があったのですが、それを見た他の犬飼いの方たちも「ヤラセでは?」とツイッターで呟いていたのが印象的でした。

――では、最後に『犬々ワンダーランド』の魅力をあらためて教えてください。

まんきつ:家に犬がいるだけで「いま、同じ部屋に犬がいる! うれしい!」って未だに毎日思ってしまいます。こんなに長く一緒にいるのに不思議ですね。ベッドから起きてトイレに行って戻ると私が居た場所にごろんとしていたり。毎日小さな幸せがあちこちにあるんです。『犬々ワンダーランド』を手に取ってもらった方に、その思いを感じてもらえたら嬉しいですね。

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