映画『かもめ食堂』を始め、数多くの映像作品でフードスタイリングを手がける飯島奈美さんの料理本『LIFE』シリーズは、累計30万部を超えるロングセラー。最新刊の『LIFE 12か月』は、小説家・重松 清さんが綴る12か月の物語に寄り添う46品の料理が収録され、小説とレシピが一緒に楽しめる新しいかたちの料理本です。今回は、飯島さんに本書の魅力と日々の料理づくりを楽しむヒントを教わりました。

「レシピは寝起きではっと思いつくことが多かった」

人気フードスタイリスト・飯島奈美さんの最新刊『LIFE 12か月』。コロナ禍のなか、3年間かけてつくられたという本作。発売を機に開催された試食会にESSE編集部員がうかがいました。

【写真】飯島さんがつくる「チキンライスグラタン」

●飯島奈美さんが重松清さんの物語から料理を考案

『LIFE 12か月』に収められた物語は、タイトル通り、1月から12月まで、それぞれの月を冠した12の物語が収録されています。物語は全て作家・重松清さんによる、書き下ろしの新作。試食会では「三月 お弁当の交換日記」の「メンチカツ」、「十二月 のんちゃんサンタは、バスに乗って」の「梅にんじん和え」など、実際に本書に登場する料理がふるまわれました。

なかでも、ひときわ歓声が上がったのが、チキンライスとグラタンが重ねられた「チキンライスグラタン」。「五月 ワンパク兄弟の親孝行」に寄り添ってつくられた一品です。重松さんのリクエストで、自身の思い出に重ね合わせ、「おふくろの味は『和風』ではなく『昭和中期の洋食』」になったと、飯島さんが明かす、本書オリジナルのレシピは、耐熱ガラス皿から覗く二層の色味のコントラストがとても華やか!

試食会では、本書制作時のエピソードが語られる場面も。収録されたレシピは、重松さんがつくったプロットをもとに飯島さんが考案。さらに料理を試食した重松さんが物語を完成させ…と、やり取りを重ねてかたちになったのだそう。

「どんなレシピにするかは、寝起きではっと思いつくことが多かったです(笑)。ずっと、『なににしようかな?』って考えていて、夢うつつのときにイメージが出てくるんです。いちばん苦労したのは、バレンタインチョコがもらえない弟のために姉がつくるチョコ入りの料理ですね」(飯島さん)

どんな料理になったかは、ぜひ本書でチェックを。

1食でバランスを完璧にしようとしなくても大丈夫

ESSEonlineの読者に向けて、飯島さんから、日々の料理づくりを楽しむためのアドバイスを伺いました。

●料理づくりを楽しむコツ

――料理について「つくらなくてはいけない」と義務感を覚えてしまう人も多いですが、モチベーションを上げるコツはありますか?

飯島さん(以下、飯島):ちょっとした工夫を試すと気分が変わりますよ。最近、きんぴらをチャプチェみたいにつくってみようと思って、いつもは一度に調理するところを、食材を1種類ずつ炒めてみたんです。ニンジンは薄口しょうゆとみりん、ゴボウは濃口しょうゆと砂糖、レンコンは梅酢…と味つけも変えて。同じフライパンで次々炒めるだけなので、そこまで手間もかかりませんし、仕上げに合わせたときに、ひとつひとつ味も炒め具合も違うから、いつものきんぴらとはまた違ったおいしさで。

とにかく「時短」の時代、「そんなことやってられない」って人もいると思いますが、自分が楽しめそうな気づきを取り入れると、気分も変わるのでおすすめです。

――子どもが巣立ったり、世帯の人数が減ったことで料理をする意欲がなくなったという声もよく聞きます。

飯島さん:今までみたいに主菜、副菜のバランスを完璧にしようとすると、おっくうになってしまいますよね。朝は野菜、昼は炭水化物、夜は肉だけ…と割り切ってしまうのも手。私自身、昼に野菜をいっぱい食べて夜は肉しか食べないということもあります。副菜に気を使わなくてすむし、食材の縛りがある分、選択肢が限られるので悩まずすみますよ。

――たしかに、それなら気負わずできそうです。ちなみに、肉だけの日はどんなメニューに?

飯島さん:鶏ささみを梅酢に漬けてサッと焼くだけとか、本当にシンプルです。梅酢は、梅干しをつくるときにできるエキスですが、塩味と酸味だけではない複雑なうま味があって、これひとつでも味が決まります。から揚げの下味にするのもおすすめ。塩の代わりに使うといつもと違う風味になるので、定番調味料以外のお気に入りがあると、あれこれ試したくなるはず。がんばりすぎず、思いついたことを気軽に取り入れてみると、日々の料理がもっと楽しくなりますよ。