加速する電動化の渦中で「エンジン」から考える“五感を刺激してくれるプロダクト”としてのクルマ

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いま自動車好きの懸念は2023年問題。いよいよ24年あたりから、自動車の電動化が加速する見込みで、エンジン車好きはいまのうち、と焦る人も。

たとえば、ランボルギーニ。このコラムでも、23年5月に北米で試乗したウラカン・ステラートがいかにすばらしいクルマか紹介しましたが、ひょっとしたら、純粋エンジン車はこれで打ち止め。

そこで私は考えた。エンジンって自動車にとってなんだろう。

「デザインの良さで歴史に残るクルマは多いけれど、動力性能でずっと語られるクルマはない」

かつて私の大先輩の著名自動車評論家がそう語ってくれたことがあります。自動車の美を競うコンコース・デレガンスが世界中で開催されている状況をかんがみると、なるほどなあと思います。

一方で、ヒストリックカーによるラリーの人気も根強いのは事実。走りを楽しむイベントです。日本でも、秋にはさまざまな規模のイベントが開催され、少なからぬ数の観客を集めているのは、ご存知のとおりです。

たとえば「やっぱりポルシェ356(1948年−65年)はブレーキがすばらしく効くので思いきり走れる」なんて評価も。それを聞くと、古いクルマも走らせてナンボなんだなあという思いを強くします。

▲ポルシェ356(写真はカブリオレ)は63年からディスクブレーキを装備していた

■今は気筒数や排気量で単純にエンジンは語れない

私が新車に乗るとき、もっとも気になるのは、なんといってもエンジン。

とくに、フィールといって、回転を上げていったときの加速感(言葉で表現しにくい)はクルマの魅力を左右するといってもいいのでは、なんて思っています。

一般的にエンジンを語る際は、気筒数や排気量が問題になるものです。2000年代までは、排気量が大きければトルクが太く、パワフルな走りが期待できるとされていました。

いまは、エンジンの制御技術や燃焼技術などが大きく向上。排気量ではクルマを語れなくなっています。メルセデス・ベンツE200 Sportsなんて1.5リッター4気筒で、価格は889万円。

上記E200 Sportsの場合、むかしの排気量や気筒数の常識からすると法外に高価だけれど、別の面からみると、エンジンの存在感がそれだけ薄まっているともいえるでしょうか。

しようもないエンジンかというと、しっかり“仕事”をしてくれます。トルクもあるし、回転マナーもいい、よくできたエンジンです。BMWの最近の1.5リッターも、こちらもよい出来です。

これらのエンジンは、そういうわけで、乗っていて楽しく、私の好きなパワートレインです。

メルセデス・ベンツが、最新のメルセデスAMG SL43に載せた2リッター4気筒もすごい。

いわゆる電動ターボチャージャー装着で、小型モーターの力も借りてぱっと発進したのち、ターボが効き始め、高回転域までパワー感が途切れません。

▲最新のSLであるメルセデスAMG SL43(1648万円)

▲SL43搭載の2リッター4気筒はBSG(ベルトドリブンスタータージェネレーター)と、排気用タービンと吸気用コンプレッサーの間にモーターをそなえる

ターボチャージャーは大きさで効率が決まるため、小型だと比較的低回転域のパワー積み増し(いまのエンジンはほとんどのものが小さなターボをつけている)、大型だと高い回転域に効く。

SL43のエンジンは電動ステッピングモーターを使ってタービンを回すことで、大小のツインターボ化しなくても、加速時のパワー感を堪能させてくれます。

 

■気になる多気筒エンジンの行方

メルセデス・ベンツなどドイツのメーカーはいまもエンジン開発の手を緩めていないのでしょうか。

「おそらくそれは10年前に開発に投資した結果です。SLの電動ターボは、効率も良く、燃費とパワー両方を満足させてくれるたいした技術。その必要性を10年前に認識していたのでしょう」

某日本の自動車メーカーのエンジン開発者は、彼我の開発姿勢に言及しながら、私にそう語ってくれました。

一方、メルセデス・ベンツ、BMW、ランドローバー、マツダなどが手がける直列6気筒エンジンは、低振動で、回転マナーもスムーズという直6本来の良さを味わわせてくれます。

▲3リッター6気筒エンジン搭載のBMW Z4 M40i(912万円)

▲BMWは戦前から6気筒エンジンを手がけていて、日本では1968年から1994年にかけての「M30」というユニットが有名(写真は現在の「N58」)

さらに多気筒では、5リッターV型8気筒を載せたレクサスIS500(Fスポーツ・パフォーマンス)もあります。

単に排気量が大きいっていうだけではなく、全体のバランスが良く、北米市場で人気が高いっていうのもよくわかります。

▲5リッターV8搭載のレクサスIS500 Fスポーツ・パフォーマンス(850万円)

▲鍛造クランクシャフトやチタン製吸排気バルブなど凝った作りのレクサスIS500用V8エンジン

そういえば、ドイツのメーカーについて時おり、“8気筒以上のマルチシリンダーエンジンの開発を止めるらしい”という風説が流れます。

たしかに1.5リッター4気筒でもりっぱな性能を発揮してくれるし、ハイブリッドなら2リッターもあれば十分でしょう。でも、結局は、多気筒エンジンは作り続けられています。

「これからはハイブリッドやBEV(ピュア電気自動車)の開発を推進しますが、マーケットがV8を好むのは事実」

そう語っていたのは、もっともジープらしいジープといえるラングラーの開発責任者です。結局、すぐに止めることはできないので、様子を見ながら段階的に廃止、となりそうだとか。

▲ジープ・ラングラーの高性能(オフロードでの)仕様であるルビコンに設定されている「392」はV8搭載モデル(日本での販売はなし)

▲ラングラーの392(立方インチ)V8は燃焼効率にすぐれる半球形燃焼室をそなえた6.4リッターで、プラグインハイブリッド「4xe」と併売される

プロサングエなるクロスオーバー型のスポーツカーとともに、新しい12気筒エンジンを開発したのはフェラーリ。こちらも「12気筒は作り続けます」と、本社重役の弁。

ただし、マルチシリンダーの高性能スポーツモデルでは、eフューエルなどと呼ばれる合成燃料を使いながらの延命の可能性が言われています。

ポルシェでは、これまで製造したプロダクトのうち約7割がいまも路上を走っているとか。そこで、「eフューエルを使えるか実験中」などとしています。

▲フェラーリが発売したあ新しい形のスポーツカー、プロサングエ(4760万円)

▲プロサングエが搭載する6.5リッターV12は、自然吸気式(ノンターボ)ゆえのナチュラルな吹け上がりにこだわりをみせる

 

■多様性のある趣味的なプロダクトであるクルマだからこそエンジンにも注目を

じゃあ、高いクルマでないとエンジンが楽しめないのか。っていうと、私はもちろん、そんなふうに思っていません。

たとえば、マツダ2に設定されている15MBなる1.5リッターエンジンモデルは、運転ってある種のスポーツだと思わせてくれるモデルとして、勧めたい1台。

どこがいいかって、このエンジンは低回転域でのトルクが細いです。メルセデス・ベンツだったら、EクラスどころかAクラスでも、こんなトルクの細いモデルはありません。

なので活発に走るためには、エンジン回転を高めに保つ必要があります。ギア比が近接しているマニュアル変速機との相性がいいのです。

▲2023年3月に発売されたマイナーチェンジ版のマツダ2 15MB(174万9000円)

▲マツダの1.5リッターユニットは最大トルクが142Nm@3500rpmと低回転域ではやや力不足だがマニュアル変速機との相性がいい

たとえば、3000回転以下でシフトアップしようとすると、トルクが足りず加速してくれないのです。そこで、ちょっと回転を引っ張ってシフトする。それが決まれば、じつに痛快。

いまの世の中にあっては、なんだか逆説的な存在かもしれません。でも、トルクがたっぷりある、いまのクルマだとマニュアル変速機で乗っても面白くないのです。

クルマって、本来は多様性のある趣味的なプロダクトです。“都会に住んでいるから公共交通機関が便利でクルマは必要ありません”って言うひとがいますが、私には信じられません。

iPhoneがあるからカメラも腕時計もいらないとか、kindleがあるから紙の本は不要とか、ストリーミングで音楽を聴くからメディアは買わないとか。そういうのは全部反対。

世の中は、五感を刺激してくれる趣味のものがあるから楽しい。それに同意してくれるかたは、エンジンにも注目してもらいたいなあと思うのです。

<文/小川フミオ>

オガワ・フミオ|自動車雑誌、グルメ誌、ライフスタイル誌の編集長を歴任。現在フリーランスのジャーナリストとして、自動車を中心にさまざまな分野の事柄について、幅広いメディアで執筆中

 

 

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