チャンピオンズリーグ(CL)準決勝第2戦、マンチェスター・シティ対レアル・マドリード。前日、ミランを下したインテルとイスタンブールで決勝を争うチームはどちらか。サンティアゴ・ベルナベウで行なわれた第1戦の結果は1−1。想起するのは昨季の対戦だ。舞台は同じく準決勝で、レアル・マドリードが初戦3−4、第2戦3−1、合計スコア6−5で接戦をものにした一戦だ。しかも、第2戦で挙げた3ゴールは90分、91分、95分。これ以上望めない劇的すぎる逆転劇だった。

 決勝戦のリバプール戦を含む昨季のレアルの決勝トーナメント4試合は、すべて似たような試合展開だった。パリ・サンジェルマン、チェルシー、マンチェスター・シティ、リバプール相手に、すべて前評判で劣る弱者の立場で臨みながら優勝を飾った。番狂わせの主役になった。

 しかし、レアル・マドリードは、CL通算14度の優勝回数を誇る断トツの名門だ。欧州最強クラブであるにもかかわらず、チャレンジャーのような戦い方で優勝した。このアンバランスにレアル・マドリードの魅力は隠されている。

 劣勢下で力を発揮する負けにくいチーム。レアル・マドリードのチームカラーは、ここにきて一新されていた。今季のリバプール戦(決勝トーナメント1回戦)、チェルシー戦(準々決勝)、そして準決勝マンチェスター・シティとの第1戦でも、それは健在だった。

 相手の術中にハマりやしないかと不安な気持ちでこの第2戦を迎えたのはマンチェスター・シティ側だったはずだ。


レアル・マドリードを4−0で破ったマンチェスター・シティのベルナルド・シウバとアーリング・ハーランド

 前半はじっと待機し、相手が焦り始めた後半、勝負に出る。守るレアル・マドリード、攻めるマンチェスター・シティという、開始早々からピッチに描かれた構図を見ても、特段、前者に危うさを抱くことはなかった。

 開始7分、アーリング・ハーランド、カイル・ウォーカーがたて続けにチャンスを掴む。13分にはジャック・グリーリッシュのセンタリングをハーランドが頭で合わせ、GKティボー・クルトワを強襲するシュートを放つ。21分にはハーランドがそれにもまして決定的なヘディング弾でGKクルトワを泳がせていた。それでも、0−0で推移する間はレアル・マドリードのペース。楽観的でいられたはずだ。

【レアルが後方待機を決め込む理由】

 しかし、ハーランドのヘディングをクルトワが指先で際どく防いだその2分後、マンチェスター・シティに先制ゴールが生まれる。

 右サイドの深い位置でジョン・ストーンズ、ウォーカー、ケヴィン・デ・ブライネ、ベルナルド・シウバが4角を形成。そのルート上を、サイドと最深部をえぐりながらボールが回ると、最後にクルトワと1対1になったベルナルド・シウバが、左足シュートを確実に流し込んだ。

 この先制点には本来なら決勝ゴールのような意味がある。勝負を決めるような重みを感じるはずだが、その時は、まだ試合はこれから。ドラマは起きそうな気がした。レアル・マドリードがこのまま静かに敗れ去るとは思えずにいた。

 だが、一方的な関係はその後も続く。UEFAのデータによれば、0分から15分までの支配率は79対21、30分まででは76対24の関係に及んだ。

 レアル・マドリードが後方待機を決め込む理由は、先述の成功体験に基づいていると考えられた。結果的には、自らのしぶとさを過信した末の敗戦となるわけだが、レアル・マドリードはその時、エネルギーを全開に、斬るか斬られるかの反撃を開始するのはまだ早いと踏んだものと思われた。

 レアル・マドリードのパスが初めて何本も有機的に繋がったのは、なんと前半31分という遅さだった。ロドリゴがヴィニシウス・ジュニオールに際どいスルーパスを送り、マンチェスター・シティを慌てさせる際どいシーンを作った。33分にもロドリゴのスルーパスにカリム・ベンゼマが抜け出すシーンが生まれる。さらに34分、トニ・クロースがバー直撃のミドルシュートを放つと、試合はこの日一番の盛り上がりとなった。一瞬、オープンな展開になった。これがどちらにどう作用するか。

 幸運の女神が微笑んだのは、レアル・マドリードではなくマンチェスター・シティ側だった。

 前半36分、イルカイ・ギュンドアンは、大外のグリーリッシュからパスを受けると、その内側をスルスルとドリブル。隙を突いてシュートを放った。それはDFエデル・ミリトンの足に当たり阻止されたが、レアル・マドリードにとって不運だったのは、その跳ね返りがエリア内に侵入していたベルナルド・シウバの目の前に向かったことだ。頭で押し込む追加点が生まれた瞬間だった。

【象徴的だった先制ゴールのシーン】

 2−0、合計スコア3−1。レアル・マドリードのこれまでの神がかり的な戦いを振り返れば、試合の行方はまだわからなかった。マンチェスター・シティが俗に言われる"2点差の呪縛"にハマるか否かに目を凝らした。

 だが、心配は杞憂に終わる。後半31分にはマヌエル・アカンジ(結果はオウンゴール)が、後半46分(追加タイム)には交代出場のフリオ・アルバレスが3点目、4点目を決め、マンチェスター・シティは4−0(合計スコア5−1)で、昨季の覇者に完勝した。

 勝因は何か。昨季の一戦との違いは何かを考えたとき、たどり着くのは先制点のシーンになる。ロドリ、ベルナルド・シウバ、ストーンズ、ウォーカー、デ・ブライネとつないだボールをベルナルド・シウバが蹴り込んだ攻撃にその魅力、ストロングポイントを見ることができる。

 ロドリからのパスを右の高い位置で開いて受けたベルナルド・シウバは次の瞬間、さらにそれ以上高い位置に走り込んだストーンズにパスを送った。ストーンズはゴールライン近くの最深部でそのボールを受けている。相手ボールに転じた時は、右CBとして構える選手が、である。

 マイボールに転じた時は、守備的MFの位置に上がる4バックと3バックの可変式布陣の長所が全開になった瞬間だった。マイボール時、CBなら立ち位置が低すぎて、ベルナルド・シウバを追い越すことはできないが、守備的MFなら可能だ。

 その時、右の深い位置で、マンチェスター・シティはレアル・マドリードに対し数的優位を作ることができていた。実際、彼らが繰り広げたパスワークに苦しさは伴っていなかった。ボールが奪われにくいサイドの有効性を利用しながら、決定的なパスワークを楽々と、厚かましく行なった。マイボールの際、高い位置に多くの人数を割くことができたのだ。

 この勝利は言い換えれば、レアル・マドリードのストロングポイントであるヴィニシウスを怖がらず、可変式を貫いた産物となる。

 ヴィニシウスとコンビを組んだ時、無類の力を発揮するカリム・ベンゼマの調子が上がらなかったことも、マンチェスター・シティにとって幸いしたと言えるが、攻め勝ったことは事実で、レアル・マドリードはその攻撃的サッカーの圧力に屈したとなる。

 イスタンブールで行なわれるインテルとの決勝戦。ブックメーカー各社はマンチェスター・シティ絶対優位と予想する。ウィリアムヒル社の予想ではマンチェスター・シティの勝利1.4倍、引き分け4.5倍、敗北7倍となっている。

 心配がないわけではない。レアル・マドリードに対して4点も奪ってしまったことだ。事件は大勝した後に起きやすい。思わぬ敗戦を招きやすい。番狂わせは起きるのか、結果はいかに。