ディフェンディングチャンピオンが歩みを速め、ひたひたと首位の背中に迫ってきた。

 J1第12節、横浜F・マリノスは京都サンガをホームに迎え、4−1と勝利。これで、最近の6試合を4勝2分けとした昨季J1王者は、首位ヴィッセル神戸と勝ち点2差の2位につけ、いよいよ本領発揮の気配を漂わせている。

 昨季J1を制し、今季は連覇を狙う横浜FMは、開幕2連勝でスタートしたのも束の間、その後は第6節までに2敗を喫するまさかの展開に陥った。特に第4節、北海道コンサドーレ札幌戦で喫した敗戦は0−2と、自慢の攻撃力が無得点に封じられての結果だった。

 とはいえ、時間を今季開幕前に巻き戻せば、横浜FMにも不安要素がなかったわけではない。

 昨季JリーグMVPのDF岩田智輝を筆頭に、スーパーサブ的な役割を担ったFW仲川輝人、チーム得点王のFWレオ・セアラと、複数の主力クラスが優勝を置き土産にクラブを去った。

 その一方で、目立った補強はなく、昨季との比較で言えば、戦力ダウンは明らか。加えて、新シーズンが始まってみると、DF小池龍太が負傷離脱するなど、さらなる戦力減が発生。そんな状況で喫した開幕早々の2敗は、昨季王者の頭上に立ち込めた暗雲であるかに思われた。

 しかし、J1屈指の厚い選手層を誇る横浜FMにあっては、そんな不安も徐々に解消されつつある。

 セレッソ大阪に1−2で敗れた第6節を最後に、その後、無敗を続けていることは冒頭に記したとおりだが、その間には首位を走る神戸を、撃ち合いの末に3−2と退けて勝利。最近6試合で奪った得点は17と、自慢の攻撃力も徐々に火がつき始めている。

 なかでも、好調ぶりが目につくのは、FWヤン・マテウスだ。


本領を発揮し始めた横浜F・マリノスのなかで、際立った活躍を見せているヤン・マテウス

 昨夏に移籍加入したブラジル人レフティは、来日1年目の昨季は控えに回ることが多く、わずか5試合出場で、そのすべてが途中出場。今季に入ってからも、ルヴァンカップを除けば先発出場はなく、第10節の名古屋グランパス戦(1−1)までの全試合に出場するも、そのすべてが途中投入だった。第2節の浦和レッズ戦(2−0)で、今季初ゴールこそ決めていたが、存分に力を発揮する機会はなかなか得られずにいた。

 だが、ゴールデンウィーク中の開催とあって、中3日での試合が続いた第11節のサガン鳥栖戦(3−1)。ここでヤン・マテウスは、自身初となるJ1での先発出場を勝ち取り、いきなり2ゴールと大活躍。従来は左サイドでの起用がほとんどだったが、この試合では右サイドに入ると、水を得た魚のように、左利きらしいゴールへ向かうプレーで鳥栖の守備陣を恐怖にさらした。

 まずは0−1で迎えた前半11分、左足で豪快な同点ゴールを突き刺すと、同21分には、右サイドでのコンビネーションから巧みにニアゾーンへ進入し、今度は右足で逆転ゴールをゲット。さらには後半60分、右サイドに開いて攻撃の起点を作り、チーム3点目となるFWエウベルのゴールにつなげている。

 華々しい先発デビューを飾ったヤン・マテウスは、続く第12節の京都戦にも先発出場。2試合連続となるゴールを決めたばかりでなく、CKのキッカーとして先制点をアシストし、1−1に追いつかれたあとは、鋭いクロスからオウンゴールを呼び込み、チームを逆転勝利に導いている。

 この2試合で横浜FMが奪った7得点のうち、ヤン・マテウスが(程度の差こそあれ)絡んだのは、実に6点。いわゆる"逆足"の右FWとして、カットインから多くのシュートチャンスを作るばかりか、セットプレーのキッカーも務めるなど、その存在感は強まるばかりだ。

 一躍時の人となった、ヤン・マテウスが語る。

「チームに貢献する、チャンスをものにするというところは、選手としてはすごく大事なこと。(先発して)出場時間が長くなるとすごく楽しさがあり、本当にのびのびとプレーすることができる。こうやってチームに貢献できてうれしいし、ここに至るまでずっと準備をしてきたので、今後もチャンスをものにしたい」

 こうなると、心穏やかではいられないのは、3トップの右FWとして主軸を務めてきたFW水沼宏太だろう。

 第10節まで全試合に出場していた水沼は、ヤン・マテウスとは対照的に、そのうち8試合が先発出場だったが、その間ノーゴール。正確なクロスを武器とし、ゴールよりアシストでチームに貢献する選手だとはいえ、やはりFWを任される以上、ゴールがほしかったに違いない。

「前が開いた瞬間から思いきり打とうと思っていたので、とにかく入ってよかった」

 第12節の京都戦で今季初ゴールを決めた水沼は、そう言って笑みを浮かべ、「同じポジションでああやって(ヤン・マテウスが)ゴールを決めるのは、すごく刺激になる」と語り、こう続ける。

「(互いの)プレースタイルは違っていて、彼には彼のよさがあって、僕は僕自身で強みを持ってやっている。でも、(ヤン・マテウスの活躍が)刺激には間違いなくなっているし、そういう意味では、僕も今日ゴールを決めることができてよかったなと思う」

 横浜FMでポジション争いが激化しているのは、右FWだけではない。

 トップ下では、今年3月の親善試合で日本代表にも選ばれたMF西村拓真が負傷欠場するや、代わって出場したMFマルコス・ジュニオールが、穴埋めにとどまらない活躍を披露。ここでもまた、ハイレベルな競争が繰り広げられている。

 2019年にはJ1得点王にもなったマルコス・ジュニオールも、その後は徐々に影が薄くなり、途中出場が多かった昨季は、ついにシーズンを通してノーゴール。もちろん、来日以来初めての屈辱的な成績だった。

 しかし、今季は西村の代役を務めたことをきっかけに出場機会を増やし、キレのあるパフォーマンスを発揮。自身が優れたプレーを見せるだけでなく、ベンチからも他のブラジル人選手にアドバイスを送るなど、兄貴分としてのリーダーシップも示している。

 開幕前には戦力ダウンが心配された横浜FMだったが、ここに来てのヤン・マテウスの台頭、そしてマルコス・ジュニオールの復活は、心強いばかりのプラス材料である。

 熾烈なポジション争いの只中に立つ、水沼は言う。

「ここから、それぞれの選手たちがそれぞれのポジションで切磋琢磨して、チームを引き上げていくことができれば、またマリノスのよさが出せると思う」

 昨季のJ1王者にして、今季の優勝候補筆頭が、いよいよJ1屈指のパワーを誇るエンジンの回転数を上げてきた。首位追撃へ、この先、まだまだギアアップがありそうだ。