吉田知那美がロコ・ソラーレを象徴するフレーズとして大切にしている、ネルソン・マンデラ氏の言葉
「言葉」を大事にし、大切に「言葉」を紡いできたロコ・ソラーレの吉田知那美。そんな彼女がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載の第6回は、ロコ・ソラーレというチームを象徴するフレーズのひとつ、ネルソン・マンデラ氏の言葉だ――。
吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第6エンド
勝つか学ぶか
I never lose. I either win or learn.
(ネルソン・マンデラ)
2019年の日本選手権決勝で負けた時も多くのことを学び、そこから強くなっていったロコ・ソラーレ。photo by Takeda Soichiro
ロコ・ソラーレってどんなチーム?
そう聞かれると少し困ってしまうのですが、正直に答えると「たくさん負けて、そこから這い上がってきたチーム」です。
2015年にさっちゃん(藤澤五月)がチームに加わったシーズン、私たちは味の素ナショナルトレーニングセンターで数日間のチーム合宿を行ないました。その合宿中、チームビルディング研修を入れてもらって全員で参加したのですが、そのなかでさまざまなテーマに対して、自分の気持ちを付箋に記し、真っ白い大きな模造紙にその付箋を貼付。チーム全員の気持ちや目標を"見える化"するというプログラムがありました。
そのテーマのひとつが「チームのストロングポイントは何ですか?」というものでした。私たちはその設問を見て、みんなで黙ってしまって......。当時の私たちは実績もほとんどなかったし、自分たちの現在地もよくわからなかったんです。だから、何も答えられませんでした。
でもひとつだけ、胸を張って言えるかどうかはわかりませんが、私たちはとにかく負けてきました。だからこそ、大敗でも、惜敗でも、鮮やかな逆転負けでも、ひとつひとつの負けから多くの悔しさと課題を見つけて、それと向き合うことができたのかもしれません。
それは、国際大会やグランドスラムなどに出られるようになった今も、まったく変わらないです。
そして、徐々に勝てる試合も増えてはいますが、むしろその分、「勝てば得るものは多いけれど、学ぶことは負けたほうが多いかもしれないな」と感じています。
勝てば、次の大会への挑戦権だったり、メダルだったり、賞金だったり、注目だったり、肩書きだったり、得るものは多いです。どれも大切なものではありますが、「もっと強いチームになりたい」「さらに強い選手でありたい」と願うなら、少なくとも私たちには負けは不可欠な要素だと捉えています。
強いチームはたくさんあります。でも本当に強いチームは、ただでは負けず、負けから誰よりも多くのことを学び、そして何度負けても、どん底から這い上がってくるチームだと思っています。
負けを怖いと感じるのは、それを失敗と捉えているからで、私はその先で勝つために必要な確認作業だと考えています。多くの人は勝っている時、うまくいっている時には確認作業を怠ってしまいがちですが、負けたあとは必ず試行錯誤や課題克服のためのトレーニングに取り組みます。
チーム、選手としての真価はうまくいっている時ではなく、どん底の時にどう振る舞うか。ロコ・ソラーレはこれからも、勝って、学んで、どん底から笑顔で這い上がってくるチームとして、私たちのペースで世界一になる研究を続けていけたらと思います。
今回挙げた「I never lose. I either win or learn. 」という言葉を最初に聞いたのは、いつ、どこで、だったのか、どうしても思い出せなくて、ある時調べてみたら、元南アフリカ大統領のネルソン・マンデラさんの言葉だったことを知りました。
きっとどこかで読んだのだと思いますが、場所と時間を超えて、私たちにも共通したフレーズだったので、今でも大切に使わせてもらっています。そして、ロコ・ソラーレは今季もたくさん負けましたので、最後のグランドスラムでまた這い上がる準備をしている最中です。
カナダ・レジャイナ(サスカチュワン州)で開催中のグランドスラム『チャンピオンズカップ』に出場中のロコ・ソラーレ。試合に向けてのデータチェックも、常に入念に行なっている。写真:本人提供
吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。