ブルックリン・ネッツがプレーオフ敗退となり、渡邊雄太のNBAでの5シーズン目が終わった。

 NBA在籍5年といえば、中堅選手の域だ。たとえば、渡邊がNBAに入ったばかりの2018-19シーズンにお手本としていたひとり、ジョー・イングルス(現ミルウォオーキー・バックス)はその当時、NBAで5年目の選手だった。

 イングルスも渡邊と同じようにドラフト外からNBAに定着した選手で、決してスター選手ではなかった。それでも5年NBAにいるということは、その選手ならではの武器や持ち味があり、まわりから手本にされることもある立場なのだ。


渡邊雄太は昨季ネッツでデュラントと一緒にプレー

 実際、最近は日本人に限らず、NBA入りを狙うアジア系の選手たちから「渡邊雄太のような選手になりたい。彼を手本としている」という声がよく聞かれるようになった。渡邊のプレーを参考にしている子どもたちや若手選手たちは世界中にいるはずだ。

 シーズンが始まった頃、5年目のNBAシーズンを迎えることについて聞いた時、渡邊はこう言っていた。

「僕はいつも、1年目っていう気持ちぐらいの感覚で練習中からやっています。もちろん経験を積んでいる分、今までに比べて余裕が出てきた部分はあるんですけど、自分が5年目だからっていうふうにあぐらをかけるほどの結果を今までの4年間で残せているわけではないですし。

 本当に定着するためには、この1シーズン、まずはしっかりシーズンを通して結果を残さなきゃいけないって思っているので、そこの部分では気の緩みだったりとか、そういうのは一切、自分のなかではないかなと思います」

 あれから半年近くが経ち、渡邊は「シーズンを通して結果を残す」という目標を、間違いなく達成した。

 無保証のキャンプ招待からのし上がり、ロスター枠を勝ち取って、ローテーション入り。高い成功率で決める3ポイントショットや、役割を忠実にこなすディフェンスで、コーチだけでなくケビン・デュラント(現フェニックス・サンズ)やカイリー・アービング(現ダラス・マーベリックス)らスーパースターからの信頼を得て、勝敗を分けるような場面で試合に出ていたこともあった。

【渡邊は新たなステージに突入】

 4月28日、シーズン終了のオンライン会見で、渡邊はそんなシーズン前半についてこう振り返っていた。

「勝敗に直結するような時間帯で、自分がスーパースターたちと肩を並べて試合に出て、そのなかで信頼を得て、パスをもらえていた。そこはやっぱり、今までのシーズンではなかったことでした。自分のワンプレーだったり、ひとつのミスがチームの勝ち負けを決めるヒリヒリする時間帯で出られるっていうのが、自分にとっても何よりもうれしかったです。

 もちろんその分、プレッシャーも大きかったですけど、自分が小さい時からずっと目標にしてきたNBAで、小さい時からずっとああいうシーンをイメージしながら練習してきたので、それがひとつ形になったシーズンだったのかなって思いました」

 シーズン後半に入って、アービングとデュラントがトレードになったことで状況は大きく変わった。だが、それでもシーズンの前半にあれだけの活躍ができて、NBAの世界で自分の力が通用するという自信をつけたことは、渡邊のキャリアにおいて大きな出来事だった。

 今年3月、渡邊が試合に出られなくなった時期に遠征先のミルウォーキーで取材した時、こんなことを言っていた。

「去年も、ちょうどこの時期って全然試合に出られなくなって苦しい時期だったんですけど、今年はあんまり苦しいっていう感覚は自分のなかでなくて。もちろん、いろいろ思うところあるんですけど、去年みたいな『しんどいな』とかそういう思いが一切ないのは、自分が活躍できていたっていう自信がこの1年ですごいついたので。

 チーム状況として今は出れていないだけで、今までの過程を見た時に自分は十分やれていた。だから、同じ試合に出られていないっていう状況でも、あんまり去年のようなしんどさはないです」

 それを聞いて、渡邊はNBA選手として、新しいステージに入ったのだと感じた。

 最初の4シーズンは、とにかくNBAと契約し、チームに残ることが目標だったから、少し出られない時期が続くと不安になった。しかし今は、NBAでやれるということを前提に、より多くのプレータイムを得たり、よりチームに貢献するために、どんな面で成長が必要なのかといったところに視点が移っていた。

 それは、シーズン終了時のコメントからもうかがえた。

【試合に出たことで見えた課題】

 渡邊自身が挙げた今後への課題は、昨季までより具体的で、これは試合に出たからこそわかったことばかりだった。

 たとえばディフェンスの課題。

「自分のディフェンスの持ち味は、どっちかというとオフボールで、運動量を出したり、ヘルプだったり、そういうのは得意なんですけど、1対1でエースを守れるほどの力がまだない。自分がこれから上を目指すためには、やっぱり相手チームのエースを守れるようなディフェンダーになっていかなきゃいけない。

 その(試合終盤の)時間帯に出たことで、自分のなかでの役割をある程度できるっていうのを感じられた反面、まだまだディフェンスは強度を上げなきゃいけないなって感じています。

 あからさまに僕を狙ってくる時間帯っていうのがあって、その時間帯で僕が相手にしなきゃいけない(ディフェンスをしなくてはいけない)のは相手の得点源であるエースなので、そこを抑えるだけのディフェンス力っていうのが、今後自分がつけていかなきゃいけない部分かなと思っています」

 さらに、今季は3ポイントシューターとして評価されるようになったオフェンスでも、試合に出たからこそ、課題が見えてきた。

「今シーズン一番はっきり見えたのが、自分はまだチームメイトに依存するなって。スーパースター以外はある程度、誰でもそうだと思うんですけど、ただ、自分はあまりにもそこに依存しすぎていて。

 もともとそんなに1対1がうまい選手だとは思っていないけれど、自分でもうちょっとクリエイトできるようにならないと、トレードでチームが変わった時に、今年みたいな感じで試合に出られない状況も出てくると思います。だから、プレーの幅はもうちょっと広げていかないと。

 3ポイントに関しても、キャッチ&シュートは高確率で決めていたんですけど、来シーズンは動きながらでもあれだけ決められるかとか、ドリブルからのプルアップ3ポイントでも決められるかとか、そういうところが今後の自分の課題になるかと思います」

 さらに、シーズンの半分とはいえ、NBA歴代でもトップレベルのスーパースター、ケビン・デュラントと時間をともにできたことも大きかった。毎日、彼が努力する姿を間近で見ることができたからこそ、わかったことがあったのだ。

【デュラントが一流である理由】

 渡邊に、ケビン・デュラントやカイリー・アービングらNBAの一流選手と練習をともにし、毎日を一緒に過ごしたことでわかった一流ならではのすごさは何だったかと聞いてみたら、こんな答えが返ってきた。

「練習の初日から、スーパースターと言われるのは理由があるんだなっていうのはすぐにわかりました。KD(デュラント)が練習している時間帯というのは、チーム練習でも個人練習でも、本当に一切ダラダラした瞬間がない。

 毎試合ほぼフルで出ている選手なんで、個人練習の時間が長い・短いはおそらく日によってそれぞれあるんですけど、そのなかでドリブルひとつをとっても、パスにしても、シュートにしても、自分がやるって決めた時間のなかで、もう本当に一瞬でも彼が気を抜いたりダラダラしたりした瞬間っていうのは1回も見なかったです。

 外から見ていたら、彼はあれだけ身長があって、技術があって、もしかしたら人によっては『あれだけの能力があれば、NBAでも活躍できるのは当たり前』っていう人がいるかもしれないんですけど、やっぱりそれを裏づけるだけの努力があるんだなっていうのが、改めて今シーズン、彼と一緒に生活できて感じた部分でした。

 あそこまで自分の練習を大切にする人っていうのは、今までもちょっと見てこなかったかなっていうくらい、本当に彼のワークアウトには圧倒されました」

 渡邊自身も人一倍練習し、努力して成長してきた選手だ。そんな彼をもって「圧倒された」と言うほどのデュラントのワークアウト。そして、スーパースターの派手な部分ではなく、毎日の努力や、その時の姿勢にすがさを感じた渡邊。

 これまでよりひとつ上を目指し始めた時に、そんな一流の姿勢に触れたことが、渡邊の今後のキャリアにどんな影響を与えるのだろうか。今から来季が楽しみだ。