新参でも見過ごせない内容 BYDシールへ試乗 ツインモーターは530psで519km
欧州での販売が本格的にスタート
BYDによるバッテリーEV(BEV)の販売が、欧州でも本格的にスタートする。いずれのモデルもブランドイメージを形成するうえで重要な位置づけにあるが、今回試乗した中型サルーンのシールは、特に背負うものが大きいといえる。
【画像】新参でも見過ごせない内容 BYDシール 競合クラスのBEVと比較 日本上陸のアット3も 全120枚
もっとも、欧州や日本のユーザーにとっては目新しい自動車メーカーだが、世界規模で見れば既に沢山のBYDユーザーがいる。中国を代表する規模の企業であり、60万人の雇用を抱え、拠点は6つの大陸に広がっている。
BYDシール AWD 82kWh(中国仕様)
乗用車だけでなく、ソーラーパネルや電車なども製造し、既に電動バスは日本でも走り始めている。携帯電話だけを見れば、世界中の機種の20%にBYDのバッテリーが使われているという。新技術のリン酸鉄リチウム・バッテリーも提供している。
事業展開は幅広く、タッチモニターやシートの生地なども、自社で開発・製造を行っている。BYDとは、 Build Your Dreams(あなたの夢を叶える)の略。着実に同社の夢は現実になっているようだ。
果たして、シールの完成度は高い。ボディサイズは全長4800mm、全幅1875mm、全高1460mmと、フォルクスワーゲン・パサートやアルテオンなどと同等。スタイリングは、見る角度ではポルシェ・タイカンに似ているかもしれない。
ツインモーター版の最高出力は530ps
シールがベースとする基礎骨格は、e-プラットフォーム3.0と呼ばれる、自社開発のもの。駆動用モーターは、リアに1基載った後輪駆動で312psの仕様と、前後に2基載った四輪駆動で530psの2種類が設定される。
駆動用バッテリーは共通で82kWh。航続距離は、WLTP値で569kmと519kmがうたわれる。英国価格は未定だが、シングルモーターで4万1000ポンド(約660万円)、ツインモーターで4万7000ポンド(約756万円)からが予想される。
BYDシール AWD 82kWh(中国仕様)
英国での販売は2023年秋からの予定だが、今回、短時間試乗できたのは中国仕様。僅かな手直しが加えられ、導入されるようだ。
ツインモーター版の最高出力は530psあるだけあって、カタログ値0-100km/h加速3.8秒という、笑ってしまうほどの加速力を披露する。それだけでなく、アクセルペダルの角度に対する反応が洗練されていて、スピードやパワーを調整しやすい。
スポーツ・モードを選択すると、ステアリングホイールの重み付けが増加。軽くないボディを、豪快に旋回させることもできる。姿勢制御は引き締まり、グリップ力も充分。操舵には充足感が伴う。
ただし、シャシーから感じ取れる特徴のようなものは薄い。運転する楽しさでいえば、BMW i4やポールスター2には届いていない。とはいえ、シールも充分に磨き込まれていて能力は高い。
シングルモーター版は車重が少し軽いぶん、反応が快活だった。ドライビング体験の中心に圧倒的な加速力がある、ツインモーター版とは印象が異なっていた。
明るく開放的な車内 ブレーキの制御は要改善
試乗コースの路面は平滑で、乗り心地は充分に判断できなかった。少なくともボディ剛性が高く、悪くはないだろう。サスペンションは、ツインモーター版にはアダプティブダンパーが組まれる。荒れた路面への処理力は、英国で改めて確かめたいところ。
筆者が気になった部分が、回生ブレーキの制御。強い制動力を求めると、摩擦ブレーキが取って代わるため、ブレーキペダルを踏んだ反応に一貫性が乏しく感じられた。今後、改善される可能性はある。
BYDシール AWD 82kWh(中国仕様)
車内はルーフ全面がガラス張りで、明るく開放的。乗員空間には余裕があり、荷室容量も402Lと小さくはない。通常のサルーンボディだから、開口部の大きさは限られるが。荷室の床下には充電ケーブルをしまえて、フロント側にも53Lの収納がある。
インテリアには知的な雰囲気が漂いつつ、視覚的な特徴もある。モデル3とは大きく異なり、欧州のメジャーブランドを最初から意識しているように感じられる。BMW i4の品質には及ばないとしても。
ダッシュボード中央のタッチモニターは、15.6インチ。任意に回転できるが、縦に長い状態にすると前方視界に掛かってしまう。エアコンには、エネルギー効率の高いヒートポンプ式が採用されている。外部給電機能も備わる。
既存のライバルへ挑むのに不足ない内容
急速充電能力は、DCで最大150kWまで。フォルクスワーゲンなどのBEVと同程度の能力ながら、今後速くなる可能性はある。欧州上陸までにキアやヒョンデ、テスラ級の200kWまで向上されないとは限らない。運転支援システムも一通り実装されている。
まだ馴染みの薄い新参メーカーのBYDながら、シールには見過ごせないほどの内容が備わっている。冷静に中型のBEVサルーンとして評価すれば、既存のライバルへ挑むのに不足ない、求められるすべてが整っていると表現していい。
BYDシール AWD 82kWh(中国仕様)
BYDシール AWD 82kWh(中国仕様)のスペック
英国価格:4万7000ポンド(約756万円/予想)
全長:4800mm
全幅:1880mm
全高:1640mm
最高速度:180km/h
0-100km/h加速:3.8秒
航続距離:519km
電費:6.2km/kWh
CO2排出量:−g/km
車両重量:1900kg(予想)
パワートレイン:ツイン非同期モーター
駆動用バッテリー:82kWh
最高出力:530ps
最大トルク:92.4kg-m
ギアボックス:−