山武司が分析するセ・リーグで芽を出し始めた強打者たち 巨人でオコエが元気な理由、阪神と中日の「右の大砲」の現状も語った
山粼武司の強打者診断
セ・リーグ編
(パ・リーグ編:パ・リーグ編 清宮幸太郎ら本格開花が待たれる3人の課題、一番「バランスが一番いい」のは?>>)
NPB通算403本塁打を誇る、山粼武司氏に聞くセ・パの若き強打者たち。パ・リーグ編に続き、セ・リーグの強打者編をお届けする。
現役ドラフトで移籍した巨人で好調のオコエ
【オコエ瑠偉(25歳/巨人)】
オコエは、「野球に対する姿勢」が楽天時代に問題視されていた、という話も聞いています。ポテンシャルが高い分、そこに頼って野球をやってきた面が大なり小なりある。それがジャイアンツに入って、規律や伝統に触れて「自分を変えていこう」という感じが出てきた。環境が変わることで、それがいい方向に出る選手もいますが、オコエはそのタイプに見えますね。
今でも少しその感じは残っていますが、ずいぶん改善されつつあるなと見ています。今年は、外の低めの変化球が比較的に見えているから四球も取れるし、「反対方向に打とう」という意識も出てきてボールを長く見れている。そこが彼の成長のひとつ。これまでは、外国人選手に負けない体格と身体能力に頼った"ポテンシャル勝負"でしたが、危機感があるんでしょう。
彼は、どちらかと言うとヒッチ(テイクバック時に手を上下動する予備動作)して打つタイプですけど、以前はヒッチすると前の肩がベースに被さるくらいまで入り込んで、引っ張りにいっていた。インコース以外はまともに打てなかったんですが、それも解消されつつある。技術的な部分で好調の要因を挙げるなら、外のボールへの対応が変わってきたことに尽きるかな。
今は調子がいいけど、この数試合で「開眼した」とまでは思っていません。長いシーズンでどれだけ我慢できるか。彼の場合は特に継続性が課題になってくると思う。それをクリアしたらキャリアハイの成績となり、チームからも認められる存在になれるかもしれませんね。
【井上広大(21歳/阪神)】
彼は本当に夢がある選手だと思う。去年の1軍でのバッテイングを見た時には、相手投手に翻弄されて、まともに振らせてもらえなかったような内容だった。それが、今年はずいぶん落ち着きも出てきたし、成長を感じます。
前提として、阪神タイガーズという球団でやることは、みなさんが思っている以上にすごいプレッシャーがあると思うんですよ。そのなかでやっと片鱗を見せてきたな、という気がしていますね。
体も大きいし、芯に当たれば打球がどこまでも飛んでいくようなバッター。ボールが高く上がって綺麗な放物線を描く、今は少なくなったタイプの"右の大砲"ですね。広角に本塁打を打てることが大きな魅力。今は悩みながら模索して、打席でいろいろやっているのも伝わってくる。だけど、井上にはスケールの大きなバッターになってほしいから、三振や凡退で"小さく"なるようなことはやめてほしいですね。
ひとつ矯正してほしいのは、構え。膝の曲がり、しゃがみこむ幅が大きすぎます。体が大きいから、投手に威圧感を与えるような構えができるはずなのに、小さく見せてしまっている。かがみ気味に構えているから、もっと背中と胸を張ってドカッと構えてほしい。そういう雰囲気も作っていくことも大事ですから。
本当に楽しみな選手ではあるけど、1軍でレギュラーを張るにはもう少し時間がかかるかな、という気もします。仮にタイガーズが「打てなくても井上を使う」というのであれば、今年中には片鱗は見せてくれるでしょうけど......チームの優勝ということを考えると、1軍で安定して力を出すレベルには達してないかなと。ただ、それを差し引いてもすごく楽しみな選手だし、今後も成長を見守っていきたいです。
【石川昂弥(21歳/中日)】
今はチーム事情で4番を任されているけど、石川については想定内の活躍です。今のドラゴンズの打者陣ならば彼が4番を打つのは当然のことだし、僕が監督でも間違いなくそう起用します。ケガさえクリアしていれば当たり前ですよ。
これまで、(パ・リーグ編も含めて)5人の名前を挙げてきましたけど、ポテンシャルで言うと石川は頭ふたつくらいリードしている。今の成績がそこまで抜けているわけではないですが、打席での内容や雰囲気はすでに抜けてきていますね。
去年までとの一番の違いは、ボールを捉えるポイントが前になったこと。差し込まれ気味だったのが、少しずつなくなってきた。彼のスイングは力感がなくて柔らかさがあるのに、当たるとホームランになっちゃう。だから「10年にひとりの素材かな」と感じてしまうんです。
若いわりに変化球の対応がうまくて、アウトコースも捌ける。その分、インコースは詰まる傾向があるので、それをどうケアしていくか。それができれば、もっともっと打てると思います。まだ150kmオーバーの真っ直ぐには振り遅れている印象もありますが、それも経験と慣れ。微調整をしていって、ポイントをほんの少し前にする感覚を覚えると弾き返せるようになるでしょう。
石川に期待したいのは、1年間を通してサードで守りきることです。1年間レギュラーとしてサードで守れれば、結果的に.270、20本塁打くらいの数字がついてくるはず。現段階で、そのレベルにある選手。一番の課題は故障や体力といった部分で、技術的なところではさほど気になるところがない。今年、サードでシーズンを完走できたら、近い将来に間違いなく30本は打つ選手になると思います。
昨年、清宮幸太郎は18本塁打を打っているのに対し、石川は5本。まだ数字で語れる段階ではないですが、村上宗隆級の素材だと確信しています。
【プロフィール】
山粼武司(やまさき・たけし)
1968年11月7日、愛知県生まれ。86年ドラフトで中日から2位指名を受けて入団。96年、39本塁打を放ち初の本塁打王を獲得。02年オフ、平井正史とのトレードでオリックスに移籍。04年に戦力外通告を受けるも現役続行を決意し、新規参入の楽天に移籍。07年には43本塁打、108打点で二冠王に輝く。11年に楽天を戦力外となるも、中日と契約。13年に現役引退後は、解説者など活躍の場を広げている。