今シーズンでフランクフルトを去ることが確定的となった鎌田大地

 ブンデスリーガ・フランクフルト所属の日本代表MF鎌田大地の周辺があわただしい。

 来季の移籍先を巡って、毎日のようにニュースになっている。欧州のトップクラブへの移籍を希望しているのは明らかで、一時は「ドルトムント移籍で決まり」と報じられていた。しかし現状、確証はない。一方で、「フランクフルト残留はない」と、本人が退団の意思を固めたニュースが報じられた。2023年6月末までの契約で満了になる方向だという。

 つまり、今夏のタイミングで移籍は確定的だ。移籍金に換算した市場価値は、60億円近くとも言われている。フリーになった鎌田は、どこも舌なめずりする"好物件"だろう。はたして、どのクラブが引き当てるのか?

 移籍先を巡っては、まだ二転三転することになるのではないか。

 これまで挙がった名前では、ドイツ国内では、ドルトムント、バイエルン・ミュンヘン、イングランドではリバプール、ニューカッスル、マンチェスター・シティ、アストンビラ、トッテナム・ホットスパー、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、イタリアではローマ、ACミラン、ポルトガルではベンフィカなど、複数の有力クラブが食指を動かしているという。単なる人物照会や"飛ばし記事"もあるだろうから、実質的オファーは限られるはずだが、移籍金なしは相当な魅力だ。

 ドルトムントとの交渉が止まったとされたあと、有力視されているのがスペイン、リーガ・エスパニョーラの強豪アトレティコ・マドリードへの移籍である。

 アトレティコが鎌田に興味を示しているのは事実だろう。彼らは「労働できるファンタジスタ」を求めている。アントワーヌ・グリーズマン、トマス・ルマール、メンフィス・デバイ(バルセロナからのレンタル)、ジョアン・フェリックス(チェルシーにレンタル中)らがそれに該当する。その点で、ボランチにも下がることができるなど、守備もできる鎌田は格好の人材だ。

 スペインはドイツよりも技術や創造性のアベレージは高いが、その点に関しては、鎌田は乗り越えられるだろう。有力選手が周りに多くなるほど、彼はコンビネーションを生み出せる。その特性は、久保建英と同じだ。

【日本人が煮え湯を飲まされてきたリーガ】

 ただし、重大な懸念材料がある。

 スペインという国では、スペイン語のコミュニケーションが基本になる。ドイツのように、献身や真面目さという人間性が尊ばれ、語学力不足が許容される程度は少ない。強い自己主張で仲間と連帯できないと、弾き出されるのだ。信じられないことだが、スペイン語を話せないだけで侮られることがある。長いシーズンでは、相当にストレスな環境になるのだ。

 そのために西澤明訓、大久保嘉人、中村俊輔、家長昭博、清武弘嗣、武藤嘉紀などスペインに来たほとんどの日本人選手が煮え湯を飲まされてきた。

 一方で久保は、18歳でのスペイン挑戦1年目から活躍ができている。幼少期をバルサの下部組織で過ごした久保は、コミュニケーションに問題がない。語学力だけでなく、性格も外向きで明るくふてぶてしく、「スペイン人以上にスペイン人」なのだ。

 日本人のなかで例外が乾貴士だった。言葉の面では苦労したが、残留が目標のクラブにあって、飛び抜けた技術の高さが愛された。当時のエイバル監督、ホセ・ルイス・メンディリバルの意向もあった。

 また、バスクのクラブは質実剛健で、スペインよりもドイツのメンタリティに近く、エイバル、アラベスでは奏功した(一方、アンダルシアのベティスでは乾は活躍できなかった。ちなみに久保が所属するレアル・ソシエダもバスクのクラブである)。

 アトレティコはスペインの首都マドリードにあるだけに、スペイン語を話せないだけでかなりのデメリットになる。同じ街のレアル・マドリードは、過去に英国のスターを何人か(マイケル・オーウェン、ジョナサン・ウッドゲイト、デイビッド・ベッカム、ガレス・ベイルなど)獲得してきたが、英語しか話せなかったことで、ほぼ全員が難渋し、最後は孤立した。

 その特殊性を考慮に入れるべきだろう。

 そして何より、アトレティコの指揮官ディエゴ・シメオネは、心からファンタジスタを好むタイプではない。

 シメオネが好むのはあくまで"勤勉な闘士"。ジョアン・フェリックスとは結局、そりが合わず、才能を潰しかけた。守備のハードワークに対して偏執的で、ボールプレーの美徳など歯牙にもかけない。最近はシメオネ自身の進退も噂されているが、かつて欧州の覇権を争ったチームの力は下降線を辿っている。

 そんなアトレティコが鎌田にとって、好ましい新天地なのか?

 移籍金なしで獲得できるだけに、どこもが手を挙げるだろう。だからこそ逆に、鎌田本人がよく吟味しないと、ハズレを引くことになる。バルセロナも移籍先の候補に挙がっているが、もしスペインに活躍の舞台を求めるなら、腹を括ることだろう。