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シリコンバレー銀行(SVB)のバッグ。仮想通貨取引所FTXの帽子。音楽フェス「ファイア・フェスティバル(Fyre Festival)」のフーディー。話題の企業が倒産する一方で、その企業の商品は再販市場で第2の人生を歩んでいる。何年も前なら、不祥事を起こした企業や最近解散した企業の商品を手に入れるのは難しかったかもしれない。しかし、インターネットのおかげで、華々しい転落を遂げた企業の商品に対する需要を中心に、新しいタイプの経済が台頭している。バックパックからキーホルダーに至るまで、かつて次代の大企業と謳われた企業の商品をeBay(イーベイ)やFacebookのマーケットプレイスで購入し、出品する人たちが年々増えている。最近のシリコンバレー銀行の破綻も例外ではない。「SVBスワッグ」というフレーズのGoogleトレンドは、シリコンバレー銀行が連邦規制当局によって閉鎖された翌日の3月11日にピークに達した。フリマアプリのポッシュマーク(Poshmark)では、「ビンテージSVBクリスマスセーター」と書かれたセーターが35ドル(約4600円)で売れた。eBayの出品者は、SVBブランドの1000ドル(約13万2400円)の毛布、SVBのロゴが入った249ドル(約3万3000円)のワイン&チーズボード、SVBのパッチが付いた340ドル(約4万5000円)のパタゴニアのバックパックを出品している。これらの商品の中には、数日のうちに何十件もの入札を記録したものもある。

パロディ商品も登場

eBayに掲載されている、SVBのロゴが入った紺色のレインズのバックパックは、ベッキー・ジェイコブ氏が出品したものだ。ジェイコブ氏は半年ほど前に友人からこのバックパックをプレゼントされたと米モダンリテールに語っている。2人は、SVBブランドのアイテムについて、需要や関心があることを知り、このアイテムをeBayに出品することで、「何が起こるか見てみよう」と思ったという。同じ商品が通常110ドル(約1万4600円)前後で販売されているため、ジェイコブ氏はバックパックを150ドル(約1万9900円)で出品した。同氏は、「バックパックは新品なので、そのくらいの値段で売れるだろうと思っていた。そして、少しクッションを加えてみた」。ウォールストリートジャーナル(WSJ)や、ビジネスインサイダー、アントレプレナーなどの出版物は、シリコンバレー銀行破綻後のSVBグッズの驚異的な売れ行きを報じている。また、多くの起業家たちは、自分たちのパロディグッズを作ろうと立ち上がっている。ノースカロライナ州のオプショントレーダーであるデビッド・コーリー氏は、 「Silicon Valley Bank Risk Management Department(シリコンバレー銀行 リスクマネジメント部)」と書かれたTシャツをEtsyで購入したとWSJに語っている。2021年、ガーディアン紙は、バイオベンチャーのセラノスの創業者エリザベス・ホームズ氏にちなんだグッズの人気について報じた。たとえば、ホームズ氏の顔が描かれたスマートフォンケースや、「First they think you're crazy, then they fight you, then you change the world(最初に彼らはあなたが狂っていると思い、次に彼らはあなたと戦い、そしてあなたは世界を変える)」という同氏の言葉が書かれたスエットシャツなどだ。このようなパロディ商品は、制作者に数千ドルの利益をもたらすことがあり、彼らはその多くをeBayやEtsyに出品している。また、パロディ以外の商品も、実際の企業ブランドの商品を装って登場することがある。ソフトウェア開発者で元ジャーナリストのクリスティーナ・ウォーレン氏は、米モダンリテールの取材に対し、「コピー商品の増加、そしてSVBやFTXのような本物の商品への関心の高まりは、公式商品の入手を困難にしている」と述べる。

価値に気づきはじめた人々

ウォーレン氏は、何年も前から、解散した会社のグッズを集めている。ウォーレン氏のコレクションは、ポップソケットやシャツなど、テック系カンファレンスで入手したアイテムから始った。今のところ、ウォーレン氏は倒産した会社の商品を30〜40点所有している。その中には、FTXブランドのゴールデンステート・ウォリアーズのボブルヘッド(首ふり人形)、ファイア・フェスティバルのシャツ2枚、リーマン・ブラザーズの名刺とピンバッジ、エンロン(Enron)のマグカップなどがある。eBayのようなウェブサイトや、友人、あるいは企業の商品サイトなどから、いくつかの方法で入手する。ウォーレン氏は、特に「次の大きなできごととして、注目されている」ような企業の商品に惹かれると説明する。「私にとっては、文化的な時流に合っているものでなければならない。そういうものを追い求めている」。しかし、ウォーレン氏は、「失敗した商品、失敗したできごと、失敗した会社の裏には、お金を失い、人生を狂わされた人たちがいることを私は知っている」と注意深く述べている。「そのことに無頓着でいたくはない」。昨年、ウォーレン氏に関するNPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)の記事がインターネットを駆け巡った後、商品を提供したいと手を差し伸べてくれる人が現れはじめたという。しかし、それは同時に、この趣味を知り、やってみたいと思う人が増えたということでもある。この記事のためにインタビューを受けた時点で、ウォーレン氏はSVBのアイテムを現実的な価格で手に入れることに悩んでいた。「今は、入札して競り落とされるような状況ではない」と同氏は説明する。以前購入したアイテム、たとえばファイア・フェスティバルのシャツやFTXの首ふり人形などは、40〜70ドル(約5300〜9300円)の範囲だったが、同氏が保有するエンロン社のマグは21ドル(約2780円)だった。「私は倹約家だ。これを集めているが、破綻した銀行のグッズを買って自分の銀行を運営しようとしているわけではない」とジョークを飛ばした。

奇妙なことが起こる場所

企業が倒産してから数カ月経っても、待ちの姿勢でいることは可能だ。消滅した企業の遺物は、通常、サイト上に出現し続ける。たとえば、現在、eBayには140ドル(約1万8500円)のファイア・ケイ(Fyre Cay)の男性用ジョガーと、35ドル(約4600円)の大手書店ボーダーズ(Borders)のしおりが出品されている。ジェイコブ氏のアイテムの入札は3月20日月曜日の夜に終了した。ジェイコブ氏は期限直前に売り手を確保することができた。ウォーレン氏だ。ウォーレン氏は、米モダンリテールとの最初のインタビュー以降、SVBのロゴが入ったバイクジャージを送料抜き65ドル(約8600円)で購入することもできた。ジェイコブ氏は当初、バックパックが売れなければ再び出品することはないだろうと話していた。失敗した会社の商品に対する需要について、同氏は、「まったく理解できない」のだという。同時に、「しかし、インターネットは奇妙な場所だから」とも付け加えた。[原文: The collapse of companies like SVB is triggering demand for limited-edition corporate merch] Julia Waldow(翻訳・編集:戸田美子)Image via eBay