名戦闘機MiG-17は民間エアショーでも映えた! でも手放したワケ チームに聞いた“致命的欠点”
1万機以上が生産された旧ソ連製の傑作戦闘機MiG-17。ベトナム戦争などでアメリカ軍戦闘機を苦しめた高性能機ですが、民間機として飛ばすとなると、ある致命的な欠点が浮き彫りになったそうです。
そっくりさんMiG-15とMiG-17見分け方は?
アメリカでは、民間で飛行し続ける退役した元軍用機がいくつも存在しており、それがエアショーなどで飛ぶことが珍しくありません。しかし、ジェット戦闘機を飛ばすとなると燃料費が高くつくことから、その多くは運用コストが比較的安い低速の練習機ばかりです。
そういったなか、かつてはMiG-17をエアショーで飛ばしていたチームがありました。そのチームは、MiG-17を飛ばす理由について、民間転籍の元軍用機の中では速度や機動性が高く、エアショーの興行などではその高速性やアフターバーナーを使った派手なフライトを行うことで観客の目を引く存在となるからだと話しています。
アメリカ空軍博物館で保存展示されているMiG-17(画像:アメリカ空軍)。
ただ、そんなチームも、事業の軸足を飛行展示から軍の業務請負に移した際に、MiG-17を手放してしまっています。なぜそのような決断に至ったのか、そこには飛ばし続けるにあたっての致命的な欠点があったからでした。
そもそもMiG-17は、1950年1月14日に初飛行した旧ソ連(現ロシア)の戦闘機です。当時はジェット戦闘機が実用化されて間もない黎明期であり、このMiG-17は朝鮮戦争で多用された同じ旧ソ連製のMiG-15を改良発展させた機体になります。
両者は一見すると非常に良く似た機体ですが、機体各部は変更されており、細部を見比べると別の機体であることがわかります。最も外見的に異なるポイントは主翼の後退角で、MiG-15が35度だったのに対し、MiG-17では45度に変更されており、より高速域での飛行に適合するように改良されています。
後期モデルではアフターバーナーも装備され、超音速飛行こそできないものの、MiG-15にあった高速飛行中に突然にスピンに入ってしまう欠点も修正されており(このためMiG-15ではマッハ0.92を超えないよう速度と連動してスピードブレーキが自動で開くようになっていた)、高速飛行がウリのジェット戦闘機としてMiG-17は、技術的にも性能的にもより完成された機体になったといえるでしょう。
元「トムキャット」乗りによるMiG-17の評価は?
こうして傑作機となったMiG-17の生産数はなんと1万機を超えており、ポーランドや中国ではライセンス生産も行われています。なお母国ソ連だけでなく、その友好国にも多数が輸出されており、この機体を運用していた国は約20か国にも上ります。
そのため、20世紀後半に発生したいくつかの戦争に度々参加しており、特に1960年代のベトナム戦争ではアメリカ製戦闘機と空中戦を行い、この機体よりも新しく開発された新型機の撃墜記録まで打ち立てています。当時、アメリカ軍にとっては旧世代機に自慢の高性能機が撃墜された事実は相当にショッキングな出来事だったと伝えられています。
しかし、流石の名機も時代と共に陳腐化していき、2023年現在はアフリカ諸国や北朝鮮(中国でライセンス生産されたJ-5)で少数が運用されているだけとなっています。
密集編隊でローパスを行う「ブラックダイヤモンド・ジェットチーム」のLim-5とLim-6。これらはポーランドのMiG-17ライセンス生産モデル(布留川 司撮影)。
軍用機としては晩年を迎えているMiG-17ですが、アメリカにおいては民間籍で飛行している機体が僅かですが存在しており、その中にはエアショーでの演技飛行を行っている機体もあります。
「ブラックダイヤモンド・ジェットチーム」はアメリカで過去に活動していた民間アクロバット飛行チームです。このチームが保有していた機体は100%民間資本で運営されていましたが、軍で使われていたジェット機を自前で複数取り揃えており、それらを使った編隊飛行によるアクロバット飛行をエアショーなどのイベントで行っていました。使用する機体は、チェコ製のL-39「アルバトロス」とアメリカ製のT-33「シューティングスター」の両ジェット練習機で、このほかにMiG-17のポーランド生産モデル「Lim-5」と「Lim-6」を1機ずつ保有していました。
アメリカ空軍や同海軍の退役パイロットも「ブラックダイヤモンド・ジェットチーム」に所属しており、Lim-5とLim-6の2機のミグ編隊は元F-14「トムキャット」のパイロットが操縦。1人はアメリカ海軍でもっとも長くF-14を操縦したデイル・スノッドグラス氏で、もう1人は過去に厚木基地のトムキャット飛行隊で勤務経験のあるベテランパイロットでした。
エアショーでは、MiG-17の高速性能や機動性が遺憾なく発揮されており、低空飛行や距離数mの密集編隊飛行での演技も安全に行うことができました。「エアショーでジェット機による高速飛行するには良い機体」(デイル・スノッドグラス氏談)とパイロットもコメントしています。
民間機市場でミグシリーズが売買されない理由
しかし、よくよく話を聞くとこれはあくまでも「エアショーで」という前提が付くとのこと。逆に言うとMiG-17は興行での展示飛行以外には使えない機体だそうです。
その理由はコストの高さと飛行時間の短さにあるといいます。のちに「ブラックダイヤモンド・ジェットチーム」は、民間請負会社「ドラケン・インターナショナル」に人材や機体をそのまま引き継ぐ形で姿を変えましたが、その際にLim-5とLim-6だけは民間の航空機市場に売りに出されています。
MiG-17のポーランド版Lim-6のパイロットを務めたデイル・スノッドグラス氏(布留川 司撮影)。
なぜ、運用コストが高く、なおかつ飛行時間が短いのか。それは前線戦闘機として開発されたため、航続距離・飛行時間が短くても問題ないと判断されたからです。実際、「ドラケン・インターナショナル」は会社立ち上げの時に、MiG-17とは別にポーランドから退役したMiG-21戦闘機も購入していますが、こちらも任務での飛行時間が1時間程度と短いため、訓練に適さないという理由から組み立てすら行わずに保管状態となっています。
MiG戦闘機といえばソビエトの戦闘機を代表する戦闘機の名前でしたが、その最新型であるMiG-29も航続力の短さなどが理由で生産数は伸び悩み、改良型の開発も停滞しています。代わりに、より大型で航続距離も長いスホーイの戦闘機「フランカー」シリーズの方が注目されており、今のロシア軍だけでなくインドやマレーシア、中国といった海外まで輸出されています。
MiG-29とスホーイ「フランカー」の両戦闘機の差は、運用思想の違いから生じたものですが、結果、冷戦が崩壊し、有償で購入しようとしたときには後者の方が圧倒的に支持される結果となっています。
前出のデイル・スノッドグラス氏のコメントのように、MiG-17の飛行性能はむしろ良いのです。それでも、足の短さは致命的だったといえるでしょう。今後、より一層、戦闘機には優れた多用途性や滞空性能などが要求されるようになることを鑑みると、現在のロシアを代表する戦闘機の称号が「ミグ」ではなく「スホーイ」になったのは必然といえるのかもしれません。