JR特急列車は乗車の際に特急券が別途必要な有料列車です。有料の価値はスピードだけでなく快適な設備の使用料金でもあります。では、日常的な都市間輸送の昼行特急で最も快適な車両は何か、“座席鉄”の視点で解説します。

JR四国とJR東日本で同じ座席?

 JRの在来線特急は全国各地で走っています。特急料金にはスピードだけでなく設備利用料も含まれますが、もちろん設備は列車ごとに異なります。今回は筆者(安藤昌季:乗りものライター)が乗車した中から、特色ある座席や施設を持つ列車を紹介します。

 観光特急を含めるなら、「1人当たりの専有面積」ではJR四国「伊予灘ものがたり」に備わる、1車両全てが個室の「フィオーレスイート」に勝るものはないでしょう。次点はJR東日本の特急「いなほ」に備わる半個室のグリーン車でしょうか(いずれも昼行)。

「座席」では、JR東日本の全席グリーン車である特急E261系「サフィール踊り子」の「プレミアムグリーン席」か、JR九州の787系に備わる「デラックスグリーン席」のどちらかでしょう。


筆者がJR在来線の昼行特急で最も快適だと感じる車両の車内(安藤昌季撮影)。

 グリーン料金がかからない「JR在来線昼行特急の普通車」ではどうでしょうか。筆者は、JR四国で特急「しおかぜ」(岡山〜松山)などに使われている8600系電車が「一番快適なJR特急車両」だと考えています。座席の出来栄えがよく、付帯設備も充実しているからです。

 付帯設備は枕、肘掛けのコンセント(障がい者対応席の手前のみ、肘掛け内蔵テーブル)、座席背面のフットレスト、大型テーブル、ドリンクホルダー、網袋、壁面に帽子掛け、側窓にロールカーテンで、前後の座席間隔は98cmです。

 そして座席自体が、JR東日本の常磐線特急「ひたち」などのE657系や、中央本線特急「あずさ」などのE353系に類似した形状です。違いはフットレストの有無と座席間隔。E657系などは96cmです。わずか2cmの違いですが、出入りに余裕ができ、またフットレストがあることにより足が疲れにくいのです。なお鉄道会社が違ってもほぼ同じ座席を採用する例は、最近だとE5系新幹線(JR東日本)とH5系新幹線(JR北海道)など、それなりに見られます。

N700S普通席をグリーン車並みにする方法

 鉄道座席で背もたれに枕が備わっていて、人それぞれの体型に対応できることは、特にポイントが高い部分です。普通車の中で形状が優れている快適な座席のひとつが東海道新幹線N700S普通席ですが、これには枕が備わりません。

 筆者は身長173cmで標準体重ですが、N700S普通車はリクライニングした際、座席の湾曲した上縁が後頭部の狭い範囲に当たるので、首が疲れやすくなります。ただ、柔らかい衣類を首と座席の間に挟み枕代わりにすると、グリーン車に近い座り心地に化けます。ぜひお試しください。


JR東海の特急「ひだ」に使われる、新型HC85系の普通車(2019年12月、乗りものニュース編集部撮影)。

 ここで新旧車両ともに快適さを追求した、JR東海の特急「ひだ」普通車を見てみます。引退が迫るキハ85系は、座席間隔が8600系よりもさらに広い1mですが、枕とドリンクホルダーとコンセントが備わりません。

 一方、つい昨年の2022年にデビューした新型HC85系にはコンセントがあり、眺望性に優れた大型の側窓は魅力ですが、枕とドリンクホルダーとフットレストがありません。こうした理由で、設備面では8600系がやや勝り、在来線の特急普通車としては最高の設備と考えます。

 ちなみに8600系のグリーン車はどうでしょうか。1+2列配置で、首都圏の2+2列グリーン車よりゆったりしています。座席自体は、E5系新幹線とほぼ同じものです。

「サフィール踊り子」より8600系が◎といえる理由

 冒頭で挙げた全席グリーン車のE261系「サフィール踊り子」は、E5系グリーン車と同様の座席が1+2列で採用されています。ただし、腰部の詰め物がE5系よりE261系の方がやや分厚いようにも思えます。

 付帯設備はE261系、E5系ともほぼ同じ。背もたれに枕と読書灯、肘掛けにコンセントと収納テーブル、座席背面に大型テーブル、小物ポケット、ドリンクホルダー、壁面に帽子掛けがありますが、E261系のみ「天窓」も備わります。座席間隔は116cmです。

 ところが8600系グリーン車はさらに豪華といえます。上記の付帯設備に加え、座席下部に足首より下を置く「フットレスト」が備わっており、ふくらはぎを置くレッグレストと併用することができるのです。座席間隔は117cmで、わずかにE261系よりも広いです。


8600系のグリーン車座席(安藤昌季撮影)。

 フットレストとレッグレストの両方が備わるのは、九州新幹線のN700系7000・8000番台グリーン車が挙げられます。これらは腰から下を流れるようなラインで支えることができます。座席間隔が、一般的なグリーン車(116cm)より広いグリーン車は、キハ85系の1+2列や787系などほかにも存在しますが、サービス性を総合すると、筆者は8600系が在来線特急において総合的に最も快適な車両と考えます。

 ちなみにJR四国の新型特急2700系は、座席形状が8600系に似ていますが、普通車のフットレストと枕、グリーン車の枕が廃止されています。これは振り子気動車として軽量化が必要となったため、省略されたとのことです。

 運行会社や地域を異にしつつも、「実は同じ座席」という例はほかにもあると思われます。同じ座席で設備が異なるケースも、また然り。座席に注意して旅をするのも楽しいかもしれません。