首都高がつくった「歩道橋」すごいカタチ 中心は“穴” 複雑交差点の上にデザイナーの思いやり
板橋区内の首都高近く、複雑な作りの交差点をまたぐように、奇抜な形状の歩道橋がかかっています。まるで神経細胞のように、中央部分から3方向に分かれる構造は、横浜ベイブリッジを手掛けたデザイナーが関わって誕生しました。
ただの道路の延長ではない歩道橋を
都営三田線西台駅から都道446号線を南へ進むこと約700メートル、東京都板橋区高島平1丁目には、かなり入り組んだ3叉路の交差点があります。上下線が分離された大きな道路どうしが斜めに交わり、さらに別の道も貫いているため、変則的な8叉路とも捉えられる複雑さです。
この交差点にかかっている「蓮根歩道橋」もまた、かなり変わった形をしています。
車道にまたぐ形である蓮根歩道橋の中央部(斎藤雅道撮影)。
実はこの歩道橋、首都高中央環状線のかつしかハープ橋や横浜ベイブリッジをデザインした、橋梁デザイナーの大野美代子さんが手掛けたものです。
同歩道橋は1977年に完成しました。複雑に入り組んだ交差点である道路を無理にわたる歩行者が多く、事故も多発したことから歩道橋をかけることになったそうです。施工は首都高速道路公団が担当することになりました。
このときデザイナーとして入ったのが、まだインテリアデザイナーとして家具や住宅、病院などを手掛けていた大野さんで、照明・床などのデザインを担当しました。公団側は、人間が渡る橋なので、人に近い場所のデザインをしている人にということで声をかけたそうです。
蓮根歩道橋は3方向から道路を横断できるような構造で、当時では珍しく通路には手すりがつけられました。さらに、中央の3方向の通路に分かれる場所にはベンチが置かれています。これは大野さんの提案だったそうです。
当時としては歩道橋にベンチを置くのは異例のことで、反対の声もあったそうです。ですが、大野さんの説得により、ただ歩道の延長線とするのではなく、ベンチに座って休憩した際に心が安らぐような場所を作るべきという考えに最終的にはまとまり、中心部にベンチを置き、デッキ下は植栽を行うという現在の形となりました。
完成後、インフラとして機能しつつもデザイン性も高い蓮根歩道橋は、土木の業界で大きく評価され、土木学会が優秀な橋に贈る田中賞を受賞することになります。その後、大野さんは橋梁デザイナーとして横浜ベイブリッジなど数々の橋のデザインを担当することになります。
なお、蓮根歩道橋は特撮ドラマの『仮面ライダージオウ』と『仮面ライダーゼロワン』で撮影場所として使われています。特に『仮面ライダーゼロワン』に関しては第29話の終盤で、後の展開に関わる重要なシーンで使われていたため、覚えているという同作のファンは多いのではないでしょうか。