【ゲーム依存】なる子とならない子の決定的な差
近年問題となっている子どものネット依存、ゲーム依存。どんなゲームがリスクなのか、予防法も含めて解説します(写真:Ushico/PIXTA)
メールチェックやSNSのやりとり、ニュース検索、動画視聴、ゲーム……。賢く使っているつもりが、いつのまにかスマホやタブレットといったモバイル端末に生活を支配されてはいないだろうか。
今回はネットへの依存によって起こる諸問題について、日本初のインターネット依存症の専門外来を立ち上げた独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの樋口進医師に話を聞いた。
今や生活に欠かせない水や空気のような存在ともいえるインターネット。総務省の調査で保有率をみると、小学生以下ですら5割に届く勢いで、20〜50代は100%を超えている。1人1台以上持っていると推測される。
スマホやタブレットなどのモバイル端末の登場で、インターネットは利便性・効率性がすこぶる高まったが、使い方を一歩間違えると、心と体に悪影響を及ぼす。実際、1日中スマホを手放せない中高生が増加の一途をたどり、厚生労働省の調査では、ネット依存が疑われる中学生・高校生の割合は2017年で93万人。5年前(2012年)と比べて2倍近い。
さらに近年では小学生以下にも依存が広がりつつある。小さなお子さんを持つ40代、50代にとっては、決して他人事ではない。
WHOが「ゲーム依存」を認定
このネット依存のなかで世界的に問題視されているのはゲーム依存だ。2019年5月に世界保健機関(WHO)が国際的に統一した病気の基準である「国際疾病分類(ICD)」のなかに、ゲームの長時間プレイで日常生活に明確な問題が生じ、自らの意思でやめるのが難しい状態を「ゲーム障害(ゲーム依存)」とすると認めた。
そもそも依存とは何か、改めて樋口医師に聞いた。
「依存の定義は漠然としていますが、私がご家族や患者さんに話すのは、どんなにゲームプレイの時間が長くても、それによって“問題が起こっていなければ過剰使用”です。一方、時間が短くても何らかの“問題が起きていれば依存”と判断します」
極端な話をすれば、例えば大人が自宅で長時間ゲームをしていても、毎日会社に行き、きちんと仕事をしているのであれば、それは「過剰使用」の範囲といえる。しかし、明け方までゲームをしていたために朝起きられず、仕事や学校に行けなくなる。子どもであれば成績が落ちたり、生活リズムが狂って体調を壊したり、引きこもって両親への暴言を吐き、暴力を振るったりするのであれば、それは過剰使用の範囲ではない。
「こういった明確なトラブルが起きてくれば、依存として対応すべきでしょう。それは酒やギャンブルなどの依存と同様です」(樋口医師)
なお、我々はよく「スマホ依存」という言葉を使うが、樋口医師によると基本的には正しくないそうだ。スマホはあくまでデバイスというツールでしかなく、それ自体に依存性はない。ゲームやSNSなどへの依存によって、結果的にスマホやPCの使用時間が過剰になることが本質的な問題だ。
ゲーム依存は生活に支障を及ぼし、心身をむしばむ病気であり、「はまる」というレベルではすまされない。こうした問題にかなり前から注視していた樋口医師が、ネット依存の専門外来をはじめたのは、今から12年ほど前だ。
「現在、当院の専門外来にお見えになるのは、ほぼ100%オンラインのゲーム依存です。以前はRPG(ロールプレイングゲーム)が主でしたが、最近は圧倒的に戦闘型(シューティングゲーム)です。例えば、無人島に戦士が降り立って、お互いに殺し合い、最後に残った人が勝つ。いわゆるバトルロワイヤルゲーム系のゲームに変わってきています」
一方で、「SNSへの依存は少数派」と樋口医師は言う。
最近はライブ配信サイトで、推しバンドや推しメンの配信を見るために学校に行かない、投げ銭で高額を使うなど、生活が乱れて困ると親が連れてくる女子はいる。だが、依存度はゲームのほうが圧倒的に高く、ほぼ男子だという。
ゲーム感覚の延長でネットカジノに
また、最近では違う側面からのゲーム依存のトラブルが発生している。それはゲームのガチャ機能。射幸心をあおるギャンブル性の高さが依存を深刻化させるだけでなく、ゲーム感覚の延長でネットカジノに足を踏み入れ、高額な借金問題にまで発展するケースも増えている。
「一見、気軽なゲームのようにみえるオンラインカジノが違法という事実を大人もわきまえるべき。お子さんが手を出さないよう注意が必要でしょう。親のクレジットカードを罪の意識もなく使い込んでしまうことが実際に起きています」(樋口医師)
では、なぜゲームは依存を招きやすいのか。そこには「のめり込む要素が多彩」と樋口医師は指摘する。それが以下の通りである。
<ゲーム依存に導く仕掛け>
・闘争心があおられる
・課金や長時間プレイで、レベルアップが自己肯定感を左右する
・他人に勝つことで、自己承認欲求が満たされる
・レベルアップで共にプレイする仲間の信頼感や尊敬を得られる
・ガチャのワクワク感
・定期的なイベント
・クリアの先にまた別のゴールが与えられる(エンドレス)
・毎日ログインボーナス
「特にシューティングゲームが依存になりやすい。バーチャル世界なら自分がレベルアップでき、勝ち上がれば仲間に認められ、ヒーローになることもできます。それにより達成感や多幸感が得られ、脳内ではいわゆる快楽ホルモンといわれるドーパミンが分泌されます。それを求めて中毒になっていくのです」(樋口医師)
また、常にアップデートされ、クリアすれば次のミッションが与えられる。飽きることのないエンドレスな仕掛けが用意されていることも、依存しやすい理由に挙げられる。
だが、同じようにゲームをしていても依存になる子とならない子がいる。樋口医師によると、以下の要素があると依存に陥りやすいという。
<依存になりやすい要因>
・男性
・若い(18歳以下)
・リアルな対人関係が苦手
・ゲームがいつでもどこでもできる環境がある
・親子関係が悪い
・両親の仲が悪い(父親と母親の意見が違う)
・リアルなコミュニケーションが苦手
では、子どもがスマホ依存になっているかもと心配になった場合、どう対応すればいいだろうか。樋口医師はこうアドバイスする。
「まずは使用時間を見直すことです。寝る2時間前はスマホを見ない、食事のときはスマホを見ない、といったルールを設けるといいでしょう。スマホを手離す習慣をつけるのは決して簡単ではありませんが、試みる価値はあります」
親が自分たちのスマホの使い方から見直すことも大切だ。家族全員がスマホを使わない時間を30分でも1時間でもいいので設けるのも一案。せめて、食事のときだけでも全員がスマホを持たず、会話をする。
そのうえで、スマホの使い方についてしっかりと話し合い、スマホを使っていい時間帯を設定するようにしたい。
依存は予防できる
「家族が面と向かって話をするなかで、親が責任を持って物事の良し悪しを子どもに伝えていかなければ、彼らはネットから“自分にとって都合のいいモラル”だけを学び続けます。それは危険です。本来の家族の直接のかかわりが取り戻せれば、依存は予防できます。ぜひ、各ご家庭でやっていただきたいです」(樋口医師)
なお、対策の1つに「ペアレンタルコントロール」など、未成年のユーザーの安全利用の機能もあるが、今の子どもはパスワードはいとも簡単に外してしまうという。
また、親がスマホを強制的に取り上げるのは、親子関係が悪化するだけで得策ではない。ゆっくり時間をかけて、本人が変わっていくのを待つしかない。
「一筋縄ではいかないでしょうが、親子のコミュニケーションがどれだけとれるかが重要です。コミュニケーションがとれて、意思の疎通ができてくれば、状況はよくなっていきます」(樋口医師)
最後に、子どもがゲーム依存に陥る背景には、親世代のゲームへの親和性の高さもあることを、伝えておきたい。
「今の親がゲーム世代なので、ゲームに対して非常に寛容なケースが多いように思います。実際、親がゲームしているのを、お子さんはそばで見ていますし、一緒にやったり、教えてくれたりもします。ゲームの時間が長くなっても、『自分が大丈夫だったから』と子どもに許します。だいたいそういうことをするのは父親です」
これに対して母親は反対することも多いのだが、実はこれもあまり勧められない。その理由を樋口医師はこう話す。
「ゲーム依存のお子さんの場合、ご両親の仲が悪いことが多い。子どもにとっては両親の意見が大事なのに、2人の意見が違うと混乱します。それぞれの主張があるでしょうが、お子さんに対しては同じ情報を発信するために、できる限り意見を調整するべきです」
ネット依存の専門外来ではどんな治療が行われるのか。次回の記事で紹介する。
(取材・文/熊本美加)
次回記事:【ゲーム依存】使用時間減「治療キャンプ」の中身
国立病院機構久里浜医療センター名誉院長・顧問
樋口進医師
東北大学医学部卒業。アメリカ国立保健研究所留学、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センターの副院長、院長を経て現職。主な著作に『ゲーム・スマホ依存から子どもを守る本』(法研)、『Q&Aでわかる子どものネット依存とゲーム障害』(少年写真新聞社)など。
(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)