「アイスエクスプロージョン2023」公開リハーサルでの村元哉中・郄橋大輔

 2023年1月5日、横浜。3年ぶりの開催となる「アイスエクスプロージョン2023」(1月6〜8日)のゲネプロ(最終リハーサル)後、リンクに即席の会見場がつくられた。

「アイスダンスを始めて、スケーティングスキルのところをあらためて一番追求してきました」

 アイスダンス転向3年目になる郄橋大輔(36歳)は、壇上でいつものように丁寧に質問に答えていた。

 2022年末の全日本選手権では、村元哉中とのカップル「かなだい」で見事に初優勝。シングルで6度も頂点に立っているが、史上初の2種目制覇という前人未到の記録をつくった。

「(滑りの)きれいさや強弱、アイスダンスをやることでテクニックのところは増しているはずで。それが備わった分、表現する力も倍になったというか。(ソロで)たとえパートナーがいなくても、(誰かがいるように滑る)想像はしやすくなりました。ディテールのところでの違いはありますね」

 郄橋は表現者として、フィギュアスケートの世界を広げ続けている----。

【心に秘めたものを見せる演出】

 今回の「アイスエクスプロージョン」では、郄橋はキャストの筆頭であるだけでなく、プロデューサーという立場でも関わっている。つまり、ショー全体の演出。彼自身の色が強くにじみ出た舞台になったと言える。

「前回(2020年)は派手な演出だったんですけど、今回は趣向を変えたいなと」

 郄橋は、演出家としての視点で語っている。

「曲を選んでいる段階で、内の爆発というか、心に秘めたものを見せる演出をしたくて。オープニングからフィナーレまで、流れやストーリーがあるものにしようと。そこでグループナンバーを後半にもっていって、2部では(名前の)コールもなしに、流れでつながり、『もう終わってしまったの!』ってなるように。誰が滑っているかわからないという不安はあったので、先にオーダー票を出して。皆さんの意見ももらいながら、次に生かしていけたら」

 物語の疾走感にこだわる郄橋ならではの演出だ。

 冒頭、怒涛の音響と照明のなか、冷気が立ち込めるリンクにスケーターたちが入り乱れる。氷の世界が"爆誕"する風景に一気に引き込まれる。郄橋から荒川静香にスポットを切り替える演出は、場面展開の心地よさとこれから始まる物語を予感させるだろう。連なった物語に目が離せない。

 なかでも、郄橋のスケートは際立つ。一つひとつの動きが鍛え抜かれているからだろう。エッジは深く鋭く、体のひねり方や腕の角度ひとつをとっても、細部の深度に違いが見える。

 音を拾うリズム感も、今さらだが極まっている。村元との『Love Goes』やジェイソン・ブラウンとのグループナンバーは、フィギュアスケートの神髄を感じられるはずだ。

「世界観を大事にしたかったので、スケーターのしんどさをあまり考えず、グループナンバーをひとりふたつ滑っているなど、かなりハードな内容になっています」

 郄橋はそう明かしたが、自身のストイックなスケートをショーに落とし込んだ形か。その点、全体で郄橋の息遣いを感じとれるはずだ。

 終盤のソロ『Bios、 Krone』では、久しぶりにアクセルに挑戦している。「まわりすぎました」とあえなく転倒だった。ただ、憂いを抱えて苦しそうに滑りきり、仲間に支えられる姿は演出にも映る。長年、氷の上で過ごしてきた郄橋の人生の投影があるのかもしれない。

「(『Bios、 Krone』は)ひとりで自分を追い込んでしまうところを仲間に助けてもらって、希望に向かうというストーリーで。孤独感じゃないですけど、最後は仲間がいるんだよと。3年間、コロナ禍はひとりでしんどかった方もいるはずで、でも苦しい時に仲間がいたら立ち上がれる。そんな思いを感じてもらえたらと滑っています」

【世界大会へ向けまだ成長できる】

 郄橋は大勢のスケーターの力を借り、表現者として新たなフェーズに入りつつある。その経験は、競技者としてもフィードバックされるだろう。2022年の全日本選手権での『オペラ座の怪人』は出色の出来だったが、それを超えるものが今後は見られそうだ。

「シーズンの真ん中で、体力的には厳しいですけど、こうやってクリエイティブなことを考えるのも大事で。練習の追い込みから解放されたり、他のスケーターと交わることで逆にエナジーをもらったり。そこで頑張ろうってなるものなので」

 郄橋はそう言って、2023年への決意を込めた。2月は、「かなだい」として昨年に銀メダルを手にした四大陸選手権に挑む。3月には、2021年全日本選手権で北京五輪出場を逃した"因縁の深い"埼玉での世界選手権が開催される。トップ10入りが目標だ。

「シングルで復活し、アイスダンスをやるようになって、全日本で再び表彰台の真ん中にのるというのは、やっぱりうれしいです。でも、まだ成長できると思うので。世界選手権では完成形を見せたい」

 そう語っていた郄橋は、表現者としてどん欲だ。