Neil Fraser ©2022 Courtesy of RM Sotheby's

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史上最もミステリアスなスーパーカーといえば「J」であるということに異論を唱える人は少ないだろう。エンスージアストの皆さんならこの文字を「ジェイ」ではなく「イオタ」とついつい読んでしまうのではないだろうか。と、流石にそれは言い過ぎかもしれないが、イオタことランボルギーニミウラ・イオタは非常に謎に満ちた車であり、それゆえに最も魅力的な車の一台であることは間違い無い。

【画像】オリジナル・イオタの仕様をかなり細かいところまで忠実に再現したランボルギーニミウラ(写真17点)

元々ミウラは、ワイルドなスタイリングをマルチェロ・ガンディーニが、シャシーをジャン・パオロ・ダラーラが設計し、ミッドエンジン設計の先駆者となった。このマシン1966年に発表されると、たちまちパフォーマンスとロードプレゼンスの新しいベンチマークを打ち立てることとなった。その後1968年に登場したミウラP400Sは、20馬力パワーアップして370馬力になり、1971年のミウラSVはさらに385馬力まで出力を向上させた。

しかしミウラでは物足りなさを感じる人が少なからずいたのである。

FIAの競技規定に定められている付則J項目に適合するよう考案されたイオタは、エンジニア兼テストドライバーのボブ・ウォレス主導で開発され、サーキット走行に特化したワンオフのレーシングマシンであった。ノーマル車から数百kgの軽量化を図るとともに、エンジンの改良により400馬力の壁を越えた。しかし、ボブ・ウォレスによって制作されたこのオリジナルイオタは、残念ながら現存していない。有名な話ではあるが、売却後のテスト走行中に事故に遭い炎上し、廃車になってしまったからだ。

ところが、その後このスペシャルミウラの噂を聞きつけた人々がオリジナルイオタと同じ仕様のミウラを熱望し、その声に応える形でランボルギーニ社は、ミウラSVJというネーミングで数台のイオタレプリカをこの世に送り出した。SVJにも様々な仕様が存在し、また当時の記録も多くは残っていないことから、現在世界に何台の公式のミウラSVJが存在するのかは明らかになっていない。

SVJの中にはランボルギーニ公式によって作製されたわけではないSVJ仕様のミウラも少なからず存在する。

ロッソ・コルサ塗装にネロ・レザー・インテリア、そしてエアコンを装備したシャシーNo.4280のミウラSは、1969年10月23日にサンターガタから出荷された。この車は、最初のオーナーであるチェリー王ステファノ・ファッブリにイタルカー経由で届けられた後、日本に輸入され、当時日本のランボルギーニ正規販売店であったミツワモータースを通じて販売された。その後、神戸、千葉、福岡のオーナーの手に渡り、より高いパフォーマンスを求めるオーナーによって、1980年代にオリジナルのS仕様のエンジンから30633と刻印されたSVエンジンに交換された。

1998年に日本国内で売却された#4280は、イオタ仕様に改造され、2006年から2013年にかけてボディワークの大幅な改良が施された。費やした費用は総額で6100万円を超えることを示す書類も残っているという。カラーは、現在の印象的なアランチオ・ミウラの色合いに変更された。フロントリップこそないものの、かなり細かいところまでオリジナルイオタの仕様が忠実に再現されており、改造を施した人物のイオタへの情熱とこだわりが窺い知れる。

この車は2014年にオークションで売却され、イギリスへ渡る前にスウェーデンでしばらくの時を過ごした。そして、今回RMサザビーズが来年2月1日に開催するオークション「PARIS」に出品されることとなったのである。

直近では、#4280は2019年11月にランボルギーニ・バーミンガムで整備を受け、また2022年11月にも同センターで中間サービスを受けており、その総費用は7,500ポンドを超えているという。ランボルギーニ・バーミンガムからの請求書とビデオコンディションレポートも付属しており、#4280の詳細な状態も見ることができる。

仕様とはいえベースは本物のランボルギーニミウラであり、幻のスーパーカーランボルギーニイオタへの最大限のリスペクトとパッションを感じさせてくれるこの#4280。一体どれほどの魅力が詰まっているのかは計り知れない。

Photography: Neil Fraser ©2022 Courtesy of RM Sotheby's