「射精」について子供たちにどう説明すればいいのか。中高生に性教育活動を行っている聖隷浜松病院リプロダクションセンター長の今井伸さんは「射精道」を提唱している。今井さんの著書『射精道』(光文社新書)から、全16条のうち9つを紹介しよう――。(第1回)
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■オナニーはセックスという本番に向けた練習

第1条 オナニーを基本とする

射精道で最も大切なことであり、基本の基となるのは、自分自身で射精をする訓練をすること。すなわち「オナニーをすること」です。

射精とは、つまり「精液を出す」ということですが、精液をうまく出すにはコツがいります。うまく出すということは「たまっている精液を気持ちよく射出すること」です。

おじさんはよくものごとを野球にたとえますが、オナニーによる射精は、野球でいえば素振りです。うまくバットコントロールができなければヒットを打てないように、陰茎をうまく刺激したり、コントロールできなければ、気持ちのよい射精はできません。

つまり、オナニーは、セックスという本番に向けた練習であると考えてください。セックスのためにオナニーをするわけですから、ただ気持ちよく出すことばかりやっていては、本番に至る実力は養われないということです。

■快感のためだけのオナニーをしてはいけない

常に、射精をコントロールする意識をもってオナニーをすることが大切です。「快感+コントロール」を常とすることが重要であり、「快感」のみのオナニーだけをずっと行っていると、本番のセックスで失敗するようになります。

自分自身の思春期を振り返ってみても、オナニーを始めた頃は、いつ射精するか予測できず、思いもよらない時に勝手に精液が出てしまったり、タイミングがずれて精液があまり出なかったりしたものです。自分の思い通りに射精できるようになるまで、半年以上かかりました。

うまく射精するには、オナニーという「練習」を繰り返し、コツをつかむことが必要であると考えてください。

そのコツは、走り幅跳びに似ています。走り幅跳びは助走から始め、その勢いを溜めてタイミングよく踏み切ることで、遠くに跳べるようになります。同じように、射精はペニスの刺激から始めて、射精が近づいてきてもできるだけ我慢して、タイミングよく我慢を解放すると、気持ちよく精液を出すことができます。タイミングがずれると、少ししか精液が出なかったり、精液が出ない“空撃ち”のような感じになったりしてしまうのです。

いわゆる「気持ちのいい射精」は、ビュッと勢いよく遠くまで精液が飛ぶような射精です。

昔、寮生活をしている男子学生が皆で飛ばしっこをして、一番遠くまで飛ばせたやつが勝ち、みたいなことをやっていたなんて話も聞いたことがありますが、これはオナニーの訓練という意味で、じつはとても理にかなっています。

挿入に至る前に射精してしまう、もしくは挿入したとたんに射精してしまう、いわゆる「早漏」に悩む患者さんには、「出したくなったら我慢せず即出す」というオナニーをしてきたケースが多くみられます。これでは、セックスのトレーニングになりません。

練習であるオナニーがまともにできない人が、本番であるセックスをしてもうまくいくはずがないのです。ある程度、自分の意思で射精をコントロールできるようになってから、セックスをすることが理想です。

■「セックスで射精の練習」は危険

第2条 セックスは「心・技・体」が伴うまで行うべからず

ここでいう「心・技・体」の「心」は、セックスをするのに十分な知識と一般常識とコミュニケーション能力を備えているか、ということです。射精道でいう「知行合一」「義・勇・仁・礼」が備わっていることが、重要なのです。

「心」は、正しい避妊や性感染症予防といった性の知識をベースに、セックスのパートナーと1対1でのコミュニケーションが問題なくできる能力があるかどうか、自分の欲望を満たすことに走らず、相手を尊重した大人の対応ができるかどうか、他人に迷惑をかけないことを実践できるかどうかです。

「技」とはずばり、射精の技術です。第1条で説明した通り、オナニーできちんと練習して、射精をコントロールできるようになって初めて、本番に臨める準備ができたということになります。

「体」は、完全に大人の身体になってから、という意味です。早ければ小学校高学年から二次性徴が始まり、中高生で大人の身体へと変わります。そういう意味では、「心・技・体」のなかでは最初に整う条件といえるため、「体」だけでいえば「思春期でセックスしてもいい」ということになってしまいます。しかし、僕は身長の伸びが止まる18歳くらいが「大人の身体」の完成時期であると想定しています。

この「心・技・体」の3つが十分に備わっていない場合には、いい年をした大人でもセックスをしないほうがいいともいえます。逆に、未成年でもしっかりと身についていれば、「セックスをするにふさわしい大人の男」といっていいでしょう。

「セックスで射精の練習をしてみた」という話を聞くこともありますが、これは非常に危険な行為といえます。凶器である刀の振り方もまだ分かってないのに、戦場に出かけるようなもので、自分自身が痛い目にあうか、セックス相手の心身を損なうような多大な迷惑をかけるのは想像に難くありません。

自分でコツコツと練習した上でセックスをするのが基本であり、相手を尊重することにつながります。射精道の「守るべき道」であると考えてください。

■「気になる人を思い出してオナニー」は全く問題ない

第3条 他人に迷惑をかけるべからず

混雑した電車のなかで、自分の精液を女性の身体や衣服、持ち物にかけるなどの迷惑行為があったと、時々、報道されています。公衆の面前で脱いだり、オナニーを始めたり、無理やり性行為を迫ったりというのも、当然のことながら、厳に慎むべき犯罪です。

これらの例は極端ですが、射精をするにあたって他人に迷惑をかけないようにする心がけは大切です。精液をまき散らして周囲を汚したり、精液を受け止めたティッシュを捨てずに放置したりしないことは、当たり前のマナーです。

家庭内でも、処理した後のティッシュを家族が目にしたり、始末させたりするようなことがないように、自分でゴミ袋にまとめておくなどの配慮は欠かせません。

一方で、「学校やアルバイト先の女子を見るだけで、ムラムラしてしまい、家に帰ってからその子を思い出してオナニーをした」というケースはどうでしょうか。こうしたケースで罪悪感を持つ男子から相談を受けることがありますが、僕は「他人に迷惑をかけていないのであればまったく問題ない」と伝えています。むしろ、抑制し過ぎたことから、いきなり襲ってしまう方がよほど問題であり危険なことです。

■アダルト動画や成人誌を人前で見るのはNG

イメージすること自体は自由であり、「こんなことやあんなことをしたい」と空想(妄想)することは、悪いことではありません。むしろ、性的に興奮する情景を目に焼きつけておいて、家に帰ってから思い出してオナニーをするというのは、オナニーの基本中の基本です。また、頭のなかでイメージを膨らませてオナニーやセックスをすることは、性的なメンタルをトレーニングする上でメリットがあり、セックスの本質でもあります。

ムラムラして(性欲が湧いて)しまうこと自体は男性として非常に自然なことであり、それを止めることは不可能です。ですから、自分の性欲を認識した上で、それをうまく制御することが大切なのです。そのひとつの方法として、オナニーをするのは有効な手段といえます。

ただし、オナニーの時に見るアダルト動画やエロ本(ヌードやセックスシーンの写真が載った雑誌)を人前で見たり、他の人に見せたりすることは、立派な迷惑行為です。世の中には、それらのアダルト動画や画像を目にすることで不快な思いをする人もいます。そのため、同居する家族や来訪者などに見つからない場所に保管する配慮も必要です。ただし、人目につかないようこっそりと個人で楽しむ分には、まったく問題ありません。

写真=iStock.com/AndreyPopov
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■オナニーをするのに最適な環境とは

第4条 一人になれる空間を確保すべし

安心して射精するため、安心してオナニーするためには、一人になれる環境が必要です。

というのも、勃起している時の男性の精神は、攻撃的な興奮状態にあると思われがちですが、じつはその真逆だからです。勃起を得るためには、精神的にリラックスしていることが大前提です。

人間の自律神経には、「交感神経」と「副交感神経」の2種類があります。仕事中やハードな運動をしている時は、身体の活動を高めるために心拍数を増やしたり、血管を収縮させたりする交感神経が優位になります。逆に、リラックスしている時には、心拍数を抑制し、血管を拡張させる副交感神経が優位になります。

緊張感のある戦いの最中に勃起をしていては、邪魔になるばかりです。性的な興奮はしていても、精神的にはリラックスできる環境でないと、本来、勃起はできないのです。

特に、妄想しながらオナニーするためには、そのイメージの中に入り込める、他に気が散らない環境が必要です。

とはいえ、住宅事情の悪い日本の都市部では、子どもの一人部屋がないケースも多いことでしょう。その場合には、僕はお手洗いやお風呂場でのオナニーを勧めています。ほとんどの場合、カギがかかる空間でしょうから、誰も入ってこないという安心感が得られます。家族が寝静まった時に、布団の中でこっそりとする人も多いようです。

また、家族が出払ったタイミングがあれば、またとないチャンスです。他のことは後回しにして、オナニーをする機会にあてるとよいでしょう。

■強く握りすぎると「腟内射精障害」になる恐れがある

第5条 勃起した陰茎を軽く握り、亀頭部を刺激するようにしごくべし

手でオナニーをする際には、「握る強さ」と「刺激をする場所」という2つのポイントを押さえましょう。標準的なオナニーのやり方としては、勃起した陰茎を軽く握り、亀頭部を刺激するように、上下に手を動かします。

この手を使ったオナニーは、先にお伝えした通り、自分一人でできるセックスの疑似体験です。実際のセックスでは、陰茎を腟内に挿入して前後に動かすことにより、陰茎全体が粘膜に包まれた形で刺激を受けます。つまり、陰茎を筒状のものに入れて、全体が包まれた形で刺激をされることで、実際のセックスの時の状態に近づけることができるわけです。

ここで重要なのが、あくまで握りは軽くすること。決して、強く握りすぎてはいけません。実際のセックスの時に腟から受ける刺激を超えるほど強く握ってしまうことがないようにしてください。強く握ってしごくのが癖になると、強い刺激でしか射精ができなくなってしまいます。

射精までに時間がかかり過ぎる「遅漏」や、重度の遅漏である「腟内(ちつない)射精障害」になってしまうと、実際のセックスでは感じない、射精できない、ということになります。現在、男性不妊外来の患者さんのうち、半数近くにこの腟内射精障害が見られます。

■汚れた手でオナニーすると炎症を起こすことがある

第6条 汚い手で行うべからず

コロナ禍も3年目に突入し、衛生観念がかなり改善され、自宅に帰ってきたら手洗いすることがすっかり常識として定着しました。僕はオナニーをする時にも、事前に手洗いをすることを推奨しています。というのも、僕の診察室では、汚れた手で強くこすったりすることで、亀頭や包皮部分に炎症を起こしてしまった患者さんたちが日々、訪れてくるからです。

トイレの後だけでなく、パソコンやスマホを触ったり、公共の場で手すりや取っ手に触れたりした後には、細菌や、皮膚によくない物質などの汚れが手にたくさん残っていることがあります。特に「指先」が顕著で、次に「手の甲」「指の間」「手の平」の順に、付着する汚れの量は多くなります。

一方、亀頭は非常に薄い皮膚で覆われているために、汚れに対して脆弱で、細菌感染もしやすい構造になっています。そこを細菌や汚れだらけの手でガシガシとこすり上げれば、当然ながらトラブルを起こしやすくなってしまいます。

手をアルコール消毒までする必要はありませんが、オナニーの前に石鹸で手を洗うか、お風呂上がりにオナニーをすることをお勧めします。

また、セルフプレジャー(オナニー)グッズとして販売されているローションなどを使ってオナニーをした時にも、事後はきちんと洗い流してください。

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■「床オナ」をしない方がいい理由

第7条 陰茎を布団や壁にこすりつけるオナニー(床オナ)はしない方がよい

布団や壁などに陰茎をこすりつけて射精に至るオナニーを、通称「床オナ」といいます。獨協医科大学埼玉医療センター(当時、現・プライベートケアクリニック東京 東京院院長)の小堀善友先生が名づけたこの「床オナ」が習慣となって、それでしか射精ができなくなると、将来セックスの時に射精できない「腟内射精障害」の原因となります。

なぜなら、床オナで受ける床に押し付ける際の刺激は、実際のセックスの際に腟へ挿入して受ける刺激とはかなり異なるためです。床オナでいつも射精をしているために、腟への挿入では快感を得られなくなり「セックスしても気持ちがよくない」ということになってしまうのです。

これは、第5条の強すぎる握りに慣れてしまったために遅漏になるケースと、同じプロセスです。強い刺激や、実際のセックスと異なる形での刺激で気持ちよくなるというオナニーは、避けたほうがよいということです。

■「半勃起」での射精も避けた方がいい

第8条 必ず勃起した状態で射精すべし

通常、男子が射精をする時の陰茎は、勃起をしています。大多数の男子は勃起している時にしか射精したことがないと思います。

そもそも「勃起しないで射精できるのか」と思うかもしれませんが、実際には可能です。その典型例が、先に述べた床オナをしている人たち(床オナニスト)の射精です。

床オナニストの多くは(ほとんどすべてかもしれません)、半勃起もしくは勃起していない状態で射精しています。

床オナニストは、亀頭を何かに擦り付けた時に感じる気持ちよさを持続させることによって快感を得、射精しています。亀頭の気持ちのよい感覚は、完全に勃起すると鈍くなってしまい、気持ちよさが減ります。じつは、一番亀頭が敏感になるのは、「これから勃ちますよ」という、いわゆる半勃起の時なのです。

つまり、「床オナ」をする人にとっては、床にこすりつけながら半勃起の状態を維持することが気持ちがよく、そのまま射精をすることが習慣になってしまっているわけです。そのため、床オナをしている人の大半は、勃起していない状態で射精しているのです。

ところが、半勃起状態で射精するクセがつくと、今度は完全に勃起した状態では射精ができなくなります。当然ながら、半勃起では腟への挿入が困難になるため、セックスができなくなります。しかも、半勃起で射精する習慣のある人は、「完全に勃起させると気持ちよくない」「腟の中では全然感じません……」となってしまいます。これが問題なのです。

僕自身も、性に目覚めた頃は、うつ伏せになるとすぐ股間が気持ちよくなって勃起したものですから、床オナをしたくなる気持ちは分からなくもありません。しかし、オナニーはあくまで本番(セックス)に至るまでのトレーニングです。本番ができなくなるような方法で行っていては、本末転倒です。

そのため、完全に勃起した状態で射精をする習慣を作ってください。

■「出したくなったら出す」オナニーはあまりよくない

第9条 3回我慢してから4回目に発射すべし

通常、1回の射精で出る精液の量は1.5mL以上が正常とされています。

今井伸『射精道』(光文社新書)

射精と射精の間隔が1日以上あいていて、射精しそうになってから射精するまでの時間が長く、精液を出すタイミングがバッチリ合った時、より多くの精液が出ることが実感できると思います。

おしっこやおならが出るのを我慢して止めるように、「あともう少しで射精する」状態になった時、肛門を締めるようにすると、射精をある程度止めることができます。

ところが、この時にまったくブレーキをかけず(我慢せず)に射精すると、出る精液の量は少なくなります。また、我慢するタイミングがずれることで少しだけ出てしまったり、中途半端に出たりします。また、射精するタイミングがずれても、思うように精液が出ないことがあります。

僕はこの状況を、輪ゴムを飛ばそうとする時にたとえています。指に輪ゴムをひっかけて飛ばす時、引っ張る力が少ないと輪ゴムはあまり飛びません。逆に、輪ゴムをギリギリまで引っ張ってからパッと手を放すと、ビューンと遠くまで飛びます。

射精も同じです。出そうになっても頑張ってある程度我慢してからドバッと出す。それが量も勢いもある、気持ちのよい射精になります。逆に、我慢しないであっさり射精すると、精液の量も少なく、勢いもなく、射精に伴う気持ちよさも半減してしまいます。

よい射精を習慣にするための目安は、「出そうになるのを3回我慢して、4回目で出す」というものです。これを目標にオナニーで射精の練習をすることをお勧めします。

早漏を改善するトレーニングとしても効果的です。

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今井 伸(いまい・しん)
聖隷浜松病院リプロダクションセンター長
1971年島根県生まれ。聖隷浜松病院総合性治療科部長。日本泌尿器科学会専門医・指導医。日本性機能学会専門医・代議員。日本生殖医学会生殖医療専門医。日本性科学会幹事、同会認定セックス・セラピスト。日本思春期学会理事。島根大学医学部臨床教授。’97年島根医科大学(現・島根大学)医学部卒業後、同大学附属病院を経て聖隷浜松病院に勤務。専門は性機能障害、男性不妊、男性更年期障害。講演会や各メディアを通じ正しい性知識の普及に努める。共著に『中高生からのライフ&セックス サバイバルガイド』(日本評論社)、『セックス・セラピー入門』(金原出版)、『中高年のための性生活の知恵』(アチーブメント出版)、監修に『シニア世代の愛と性セックス』(平原社)など。
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(聖隷浜松病院リプロダクションセンター長 今井 伸)