3年ぶりに開催された2022年9月の三沢基地航空祭。そこで初めて展示されたのが、F-35Aの「パイロン」です。F-35はステルス戦闘機ゆえにパイロンも専用設計のものを使うそう。どんなものか現地で聞いてきました。

見慣れない展示品「SUU-96/A」と「LAU-151」

 2022年9月11日、日米が共同使用する青森県の三沢基地で、3年ぶりとなる「三沢基地航空祭」が開催されました。航空自衛隊の最新鋭戦闘機F-35A「ライトニングII」が2022年9月現在、唯一配備されている基地での航空祭ということもあり、F-35A 12機による大編隊など見応えある飛行展示がいくつも行われたほか、F-35Aに搭載する各種装備も展示されました。

 地上で展示されていたのはミサイルや誘導爆弾などですが、それらと並んで長方形の形をしたグレーの見慣れない器具も公開されていました。説明板によると、これはF-35専用の装備品である機外搭載用のパイロン「SUU-96/A」と、ミサイル用レールランチャーの「LAU-151」だといいます。


正面から見た航空自衛隊のF-35A「ライトニングII」。インテーク(空気取り入れ口)の角度と、その後ろの垂直尾翼の角度が同じなのがわかる(布留川 司撮影)。

 パイロンとは、戦闘機や爆撃機が機体外部に兵器を搭載する際に使う支持架のことです。通常、ステルス機はレーダーから見えにくくなるよう、レーダー波を反射しやすい装備品は機外に搭載せず、すべて機内のウエポンベイ(爆弾倉)に収納します。しかし、ウエポンベイの内部容量には限りがあるため、より多くの兵器が必要な場合は通常の戦闘機と同じく、主翼下に武装を搭載する形をとります。

 しかし、武装を機外搭載することで、そこがレーダー波の反射の元となり、結果としてステルス性を損なうことにつながる恐れがあります。ただ、その反面、兵器の搭載数(量)は増えるので、機体自体の兵器投射能力、すなわち攻撃力は向上します。

 隠密性(ステルス性)を取るか、はたまた携行能力向上を図るかはミッションの性格によって判断します。逆に言えば、F-35Aは戦闘の状況に応じてステルス性と攻撃性のどちらかを伸ばすことが可能。ゲームのキャラクター風に言えば戦闘に応じて攻撃力と防御力(もしくは素早さ)のステータスを自由に切り替えることができる機体だと表現できるでしょう。

ステルス機だからこその専用設計

 ゆえに、兵器の搭載箇所がウエポンベイしかなかった従来のステルス戦闘機と比べると、F-35は任務対応能力の幅が広く、運用もフレキシブルに切り替えられるということを意味しています。


三沢基地航空祭で展示された機外搭載用のパイロン「SUU-96/A」とミサイル用レールランチャーの「LAU-151」。上部の台形の形をしたのが「SUU-96/A」、その下に付いている長い部分が「LAU-151」(布留川 司撮影)。

 戦闘機が武装品を搭載できる場所は「ハードポイント」と呼ばれており、F-35Aの場合は主翼下に左右でそれぞれ3か所あります。冒頭に記した「SUU-96/A」と「LAU-151」を組み合わせたパイロンは、3か所のうち最も外側に取り付けられるもので、搭載できるのは空対空ミサイルのみです。

「SUU-96/A」は主翼下面に垂直で設置しますが、その先の「LAU-151」は機体外側に角度を付けて取り付けられています。これはミサイルを発射したときに、その火炎が翼や隣のパイロンの兵器に影響を与えないための措置だとか。

 これらパイロンはF-35専用設計のため、通常の戦闘機用パイロンとは外見が大きく異なっている点が特徴といえるでしょう。通常のパイロンは“取付け金具”といった感じで、一種メカニカルな雰囲気を持っていますが、「SUU-96/A」と「LAU-151」はF-35Aと同じグレー単色になっており、側面の突起部分は菱形で角度を揃えてデザインされています。これは母機であるF-35と同じ様にステルス性を考慮した結果です。

 三沢基地航空祭で説明のために傍らに立っていた隊員によると、「このパイロン、機体に搭載しているとよくわかると思いますが、ランチャーの角度がF-35のインテーク(空気取り入れ口)や垂直尾翼の角度と同じになっています」とのことでした。

 F-35に限らず、ステルス機は機体各部の角度が同じになるようにデザインされています。F-35を正面から見るとインテークや機体断面、垂直尾翼の傾きが同じ、上から見ると主翼と水平尾翼の前後の角度が揃えられています。

取り付けの際は皮手袋を着用

 ほかにも、よく見ると着陸脚の部分や機体側面にあるパネル開口部の蓋なども、角度が揃えられた多角形に成形されているのがわかります。これはレーダー波が機体に照射されたとき、機体の突起部分の角度を揃えることで反射波を別方向に反らすための措置だと言われています。そのルールに則り、「SUU-96/A」や「LAU-151」も角度が付いた形状をしているのです。

 また、パイロン自体がステルス仕様であるため、取り扱いは通常のパイロンよりも慎重になるとのこと。表面に傷などを付けると、そこがレーダー波を反射する源になってしまう可能性があることから、取り扱い時には革手袋を着用すると教えてくれました。ちなみに、F-35はアメリカで開発された装備のため、マニュアル類は全て英語だそうです。


三沢基地航空祭で行なわれたF-35Aの大編隊飛行。12機の内、2機が「SUU-96/A」&「LAU-151」を装着している(布留川 司撮影)。

 機密とハイテクの塊ともいえるF-35A「ライトニングII」。その性能や能力についてはいまだに軍事機密として公開されていませんが、機械である以上は外見からわかる部分も多いといえるでしょう。今回のパイロンのように、実物を見ることでステルス性の一端を実感できることもあります。

 もし、航空祭などで実物の戦闘機を見る機会があったら、なぜそのようなデザイン、アウトラインになったのか、技術的な側面からあれこれ考察してみるのもいいかもしれません。