地下鉄はそんなに弱くない 東京メトロ東西線“だけ”冠水し輸送障害 原因は台風14号を甘く見たことだった
台風14号が接近する大雨のなかで発生した、東京メトロ東西線の冠水による輸送障害は、複数のミスが重なって発生したことが判明。前例のない規模の台風に厳重な警戒が呼びかけられるなか、見込みの甘さがあったことがわかりました。
線路冠水は、いくつもの複合的なミスが重なった
2022年9月18日、台風14号の影響による大雨のなか、東京メトロ東西線で発生した線路冠水により高田馬場〜日本橋間で約8時間にわたり運行を停止。複数ある地下鉄の乗り入れ路線のなかでも、東西線だけが冠水した事案は、別の大雨でも起きた可能性がありました。
東西線の運休を説明する東京メトロの係員。9月18日(中島みなみ撮影)。
東西線の飯田橋〜九段下間で発生し、約14万人の利用者に影響を与えた線路冠水について東京メトロは当初、台風14号の大雨の影響を強調していました。しかし、この輸送障害は、駅のある地下施設の拡張工事と密接に関係していました。
1つ目のミスは、線路冠水区間の東西線の上を走る下水管の移設・撤去工事で起きました。この工事は、地下施設の拡張工事現場にある下水管が地下施設拡張の妨げとなるため、古い下水管を撤去し、新しい下水管につないで管路を移し、古い下水管を撤去する内容です。
下水管は直径1350mmと大型で、事故があった当日は新設した下水管が機能していました。切り離された古い下水管の片側は既設の下水管がつながり、もう片側は終着駅のように断ち切られて、断面がふさがれていました。
ただ、完全にふさいでいたわけでなく、地上に敷き詰めた覆工板の隙間から入ってくる雨水を集めて排水するため、排水ホースを入れるすきまを作っていました。
豪雨により下水管に流れ込んだ雨水が、断面のすきまから大量に吹き出しました。この断面が完全にふさがれているか、または18日の時点で対策が講じられていれば、東西線が止まることはありませんでした。
2019年、東京メトロは東京都下水道局と下水管移設の計画を協議し、この工事を自社の責任で実施することになっていました。
資機材搬入口の止水蓋が、密閉されていなかった
2つ目のミスは、漏水を止められなかったことです。道路の下、つまり地下は大きく2層になっていて、すぐ下に下水管、さらにその下に東西線の折返し施設の拡張工事現場があります。下水管の漏水は、下水管のある層で食い止めら得るべきでした。
この2層は分離しているのですが、あいだに資機材搬出入のため2000mm×3000mmの開口部を設けていました。この開口部は、雨水などが下層の工事現場に流れ込むことを想定して止水蓋になっています。固定金具でゴム板を挟みこんで浸水を防いでいるのですが、固定金具が未装着で、漏水が多くなるにつれて止水蓋がずれて、下層の工事現場に直接流れ込みました。
工事現場のすぐ隣では、東西線が運行を続けていましたが、駅構内の天井から水が垂れることなく線路が冠水したのは、雨水の進入が開口部から直接工事現場に流れ落ちたためです。本線と工事現場である留置線の間には低い仕切りがあるものの、雨水は工事現場側の排水口などから本線に流れ込みました。
東京メトロは次のように説明します。
「作業中、開口部は開放し、作業が終わると閉じる。荒天が予想される場合に固定金具で密閉する。台風14号は19日(輸送障害の翌日)に東京へ影響を与えることになっていたので、この日の点検後に固定金具を使う予定だった」
資材搬出入口から進入した雨水は、飯田橋駅を通過し、神楽坂駅方面へと流れ落ち、ポンプ室がある区間最深部を中心に約430mを浸水させました。駅間の固定ポンプのほか、22台の仮設ポンプで地上にくみ上げる必要がありました。
9月18日の運行案内。高田馬場〜日本橋間で運休となった(画像:東京メトロ)。
「荒天が想定される場合、トンネル内への雨水流入の可能性がある箇所について、点検作業を徹底すべきだった」(前同)
これが約8時間にわたって13万9000人の足に影響を与えた輸送障害の真相でした。前例のない猛烈な台風という警鐘は、東西線に限っては響きませんでした。折しも9月23日から25日までの3連休、別の台風が日本へ近づいています。