車に緑・ピンク・紫・黄色…受け入れられるの? “攻めた”カラートレンド 生まれる背景
自動車塗料メーカーのBASFが、最新のカラートレンドを発表。昨今のサステナブル志向を製造方法にも反映したカラーサンプルは、ますます、何色か説明しがたい方向に。ただその中でも、“攻めた”傾向が生まれてきています。
トレンドは「中間色」だけど、ちょっと変化
ドイツの化学メーカーの日本法人BASFジャパンが2022年9月15日、2022-23年版の自動車カラートレンド予測を発表、その報道向け説明会が同日、横浜市にあるBASFジャパンの工場にて開かれました。
アジア太平洋向けキーカラー「エフロレッセンス」。白のようなベージュのような(中島洋平撮影)。
カラートレンド予測は今後3年から5年のあいだに自動車のボディーカラーの傾向へ影響を及ぼす社会的変化や技術の進展などを分析し、複数のカラーサンプルとともに発表しています。BASFはこれらをたたき台に、自動車メーカーへ新車のカラー展開を提案しています。
今年はまず、塗料製造におけるサステナビリティ(持続可能性)の取り組みが紹介されました。現在の主流であるクリアコートの多層塗りではなく、「1コート(モノコート)で意匠を出す」ことや、塗料の焼き付け温度を抑えて製造のエネルギー消費を減らす「低温硬化」塗料などです。BASFジャパン執行役員の前田 孝さんによると、工程のデジタル化による開発時間の短縮、塗料を無駄にしない高効率の塗装機械の導入なども推進しているといいます。
カラートレンド予測では、複数のカラーサンプルのなかから、さらに、地域ごとのキーカラーが設定されています。
日本を含むアジア太平洋地域のキーカラーとしては「EFFLORESCENCE(エフロレッセンス、開花)」が打ち出されました。ホワイトのような、ベージュのような、それでいて、輝きのあるパール系とも、ベタっとしたソリッド系とも言い難いものです。
「1コート、低温焼き付けで仕上げたものです。パールホワイトはアジアで最も人気な色ですが、日本では見飽きてきました。他にどんなホワイトの表現があるだろう、ということで追及したのがこの色です」
こう話すのは、BASFジャパンのカラーデザイナーである松原千春さん。「自動車メーカーからすれば、いまさら1コートなんて、と思うでしょう。ネガティブなところを新しい価値に変え、デザイン性と機能性を両立させています」と話します。
「『親ガチャ』なんてタブーが言えちゃう世の中」を捉えた
1コートの塗料は、たとえばトラックの白など、非常に簡素なもので、もはや乗用車向けには“タブー”だといいます。しかし、そんなタブーが言えてしまう、言うことが憚られなくなってきた、そうした世の中の変化を今回のカラートレンドは踏まえていると、松原さんは話します。
「『親ガチャ』なんていう言葉を聞きます。これもタブーだったはずです。でも、冗談っぽく言ってもオープンにして、あるがままの自分の状況を受け入れる。そのうえで自分らしく生きることが選択されているのです」
アジア太平洋のなかでも、とりわけ中国向けのキーカラーとされているのが黄色系の「RAN RAN(ランラン、リラックスの意味)」。これは、「少し主張があるけど、豊かで控えめな黄色」だといいます。
「中国ではいわゆる『寝そべり族』と呼ばれる人たちが、競争に疲れた若い世代にすごく共感を得ました。もがいてもなかなか今を脱せない、(ならば競争せず)寝そべっていれば倒れることはない、という考え方です。言い換えれば、自分らしさをもって、流れに身を任せていこうということ。そこで、少し元気が出るような、でも控えめで、自然に身を任せるような概念の色が、これからのクルマに使われるのではないでしょうか」(松原さん)
中国向けキーカラー「ランラン」(画像:BASFジャパン)。
トレンドカラーとして打ち出された複数の色の全体的な傾向としては、前年に引き続き、「中間色」だといいます。何色か説明しがたい、あるいは、光の当たり方で別の色に見えるようなものです。
これには、コロナ禍やウクライナ情勢、急激なインフレ、エネルギー危機など、将来が予測できない、なんともいえない中間的な境遇にある世界の趨勢を捉えたものだといいます。
ただ、今年は、そのなかでも「少し方向性が見えてきた」ところだそう。前年と比べると、トレンドカラーのラインアップが全体的に「色が少しハッキリしてきた」といいます。その背景には、世界が「辛いところを受け入れて、なんとか自分たちで対処していこう」(松原さん)という気持ちに傾いてきていることがあるそうです。
欧米はもっと“攻めて”きている!
今年は、白、黒、シルバーといった定番色の新しい解釈が打ち出されているほか、これまで自動車カラーではあまり使われなかったピンク、パープル系の色を世界のBASFのデザイナーが打ち出しているといいます。
自動車メーカー側も、欧州では特に、緑系や茶色系など、中間的な色を新車に打ち出してきているとのこと。松原さんによると、これらはサステナビリティが重視される世の中において、“攻めた”提案をしているといいます。
BASFが今回、欧州にフォーカスしたキーカラーとして打ち出したのは、「GRAVATAR(グラヴァター)」と呼ばれる黄色系の塗料。これは、天然由来の顔料を使用した、“ムラのある”黄色いものだそう。自動車塗料でムラはそれこそタブーであるものの、陶器など「自動車以外のものならば受け入れられる」といい、やはり“攻めた”提案だそうです。
米州(南北アメリカ)のキーカラーとして打ち出された「LAVA(ラヴァ、溶岩)」は、素材の面で特徴が。黒系の塗料ですが、廃タイヤのカーボンブラックをリサイクルして使用しているそうです。そこに赤系のハイライトを加え、ミステリアスに輝く色として仕上げているといいます。
2022-23カラーコレクション「NEW ARRAY(新しい様式)」(画像:BASFジャパン)。
これらは、技術的にはまだ確立されていない部分もあるといいます。中間的な価値観や色が選択されるなか、サステナビリティを背景に、素材や技術の面でも、既存概念を打ち砕くような表現が生まれていくのかもしれません。