開業した東京駅の新バスターミナルだけでなく、全国でバスターミナルの建設計画が相次いでいます。交通事業者がターミナルを整備していた時代は終わり、都市再開発の一環としても作られるようになりました。そこには懸念もあります。

バスターミナル東京八重洲開業 全国では「バスタプロジェクト」進行

 2022年9月17日(土)、東京駅前の大型バスターミナル「バスターミナル東京八重洲」(以下、「BTY」)が第一期開業を迎えました。25年度に第二期開業、さらに28年度に全面開業すると、20の乗降バースを持つ、国内最大級の高速バスターミナルになる予定です。

 BTYを追うように、全国で高速バスターミナルの建設計画が相次いでいます。都市部の停留所不足に悩まされてきた高速バス業界が待ち望んでいたことです。この「バスターミナル建設ラッシュ」は、何をもたらし、どんな課題があるのでしょうか。


開業前の9月15日に行われたバスターミナル東京八重洲の開業式(中島洋平撮影)。

 これらの計画には、大きく二つの流れがあります。一つ目は、国土交通省道路局による「バスタプロジェクト」です。

 2016年開業のバスタ新宿は、国道20号(甲州街道)の一部として整備されました。そのため、新宿の一等地ながら、バス事業者が支払うターミナル利用料は抑えられています。一方、道路やその付属物には、法律上、商業施設などの設置に制約があります。そこで2020年に道路法が改正され、「交通(バスなど)ターミナル+商業施設」を作り、民間企業がその運営権を一括購入して運営できることになりました。

 それを受け、全国9都市で進んでいるのが「バスタプロジェクト」です。災害対応なども兼ねてターミナルが整備される見込みです。

 なお「バスタ」という愛称は新宿開業時に公募で決まったものですが、「バス&タクシーの略」など多様な意味合いを持ち、バスタ新宿も、タクシーのりばを含む交通結節点の総称です。「バスタプロジェクト」ではないBTYなどが、公式に「バスタ八重洲」と呼ばれることはありません。

 二つ目の流れは、自治体や民間が、都市再開発事業の一環として整備するものです。特に「都市再生緊急整備地域」に指定された再開発事業では、バスターミナル整備などの公共貢献を行うと容積率の緩和が認められることがあり、開発する側にもメリットがあります。

 二度にわたるBTYの拡張(2025年度、28年度)のほか、建て替え中の浜松町バスターミナルが2027年度に再開業予定で、さらに渋谷、新大阪などの計画があります。

バスターミナル建設→地元の期待は「爆買い」というズレ

 筆者(成定竜一:高速バスマーケティング研究所代表)は、いくつかのプロジェクトにアドバイザリー業務で関わっていますが、だんだんと課題も見えてきました。

 まずバス事業者の視点では、ターミナル新設は、必ずしもいいことばかりではありません。ターミナル利用料が発生するほか、渋滞防止などの理由で、ダイヤ改正による増便や、繁忙日の続行便(2号車、3号車)の設定に制約を受けることがあります。

 半世紀にわたり成長を続けた高速バスの輸送人員は、バスタ新宿開業の年から伸びが止まっていますが、新宿発着路線で続行便に制約がかかったことと無関係ではないと筆者は考えています。


高速バス年間輸送人員(全国)は、バスタ新宿が開業した2016年度に成長が止まった(国土交通省のデータを元に高速バスマーケティング研究所が作成)。

 次に、事業計画段階の需要見通しが不十分なケースもあります。例えば、地元の商店会へ意見のヒアリングに行くと「インバウンド(訪日外国人)の買い物客が増えるからバスは歓迎」と回答されることがあります。その時、商店会の方が頭の中に描いているのは、団体ツアーです。

 従来、インバウンドは、出発国の旅行会社による団体ツアー(発地型ツアー)中心に成長し、「爆買いツアー」という言葉まで生まれました。しかし、個人観光ビザの発給要件緩和や旅行者の旅慣れによって、FIT(個人自由旅行)中心へ変化しています。ポスト・コロナで回復が見込まれるのもFITです。

 FITは、主に公共交通機関で移動します。バスで言えば、貸切バスではなく、高速バスや空港連絡バスです。また、日帰りなどの現地参加型のツアー、いわゆる「着地型ツアー」に参加する人もいます。従来の「発地型ツアー」が不定期に企画されるのに対し、高速バス、空港連絡バスや着地型ツアーは、定期的に走るビジネスなので、安定した集客が必要です。

「その街に多様な宿泊施設がある」など、FITの集客にはいくつかの前提条件があり、 「バス→インバウンド」という受け身の連想では、期待外れに終わります。

運行に制約がかかるのはゴメンだ!

 施設を設計する上での課題もあります。高層ビルの中に、例えばホテルを設ける場合、先にホテルの運営会社を決定し、細かい設計はその会社が主に担います。片や、バスターミナルの運営会社が決まるのは、一般的に、基本的な設計が終わった後です。

 ただ、乗り入れ路線の構成、例えば「短距離の自由席路線(待機列が必要)/中長距離の座席指定路線(ベンチの数が重要)」や「始発便/経由便」の比率によって、必要な施設は異なります。人手やITをフル活用し最大の便数をさばく必要があるのか、便数が少なく低コストを追求するかで、車両管制や旅客案内の機器も違います。

 バスターミナルには「企画→設計→意匠(内装デザイン)→サイン計画」をシームレスに繋ぐ工夫が求められています。避けてほしいのは、バスタ新宿の模倣です。バスタ新宿には欠点もたくさんありますし、高頻度で発着する自由席路線の比率が小さい点が、他の多くの案件との違いです。それぞれの案件に合った設計を、設計者と一緒に考えたいのです。

 他方、一つの地区に複数のターミナルが併存することを認めないという意見も聞きます。高速バス停留所を集約できると、わかりやすいことは確かです。しかし、多数の便を集約すると施設は巨大化し、乗客はそのなかで長い距離を歩かされることになります。バスの出入りが集中すれば、周辺に渋滞も起こります。そして、バスタ新宿のように発着便数に制約がかかってしまいます。


「バスタ新宿」は交通結節点全体の愛称で、その4階にあるバスターミナルの正式名称は「新宿高速バスターミナル」。一部の掲示物には、その略称である「SEBT」のロゴも使われる(成定竜一撮影)。

 1か所に集約するより、分散を認めつつ、名称を「北/南」とか「第1/第2」という風に連続的なものにするなど、案内方法を工夫する方が現実的です。

 このような課題はあっても、バスターミナルの新規開業は歓迎すべき話です。特に東京都心部の発着枠は常に不足し、関係者は調整に苦心してきました。しかし、相次ぐ開発計画のおかげで、2030年頃には東京(山手線内)の高速バス発着枠に余裕が生まれ始めそうです。

発着枠が増えると、どんな路線ができる?

 その時に求められるのが、発着枠の有効活用です。高速バスは、路線の長さによって発着のピーク時間帯が異なります。これらを、パズルを埋めるように複数のターミナルへ上手に配分できれば、発着枠の「虫食い状態」を防止できます。続行便設定の多い路線とそうでない路線を上手に組み合わせることも、バース運用を効率化します。

 では、発着枠に余裕が生まれると、どういう路線が新規開設するでしょうか。東京発着の高速バス路線はおおむね開拓が済んでいて、簡単に新路線を引ける地方都市はほぼ残っていません。

 しかし、地方と東京側の事業者との共同運行による既設路線で、後者の戦略性の有無によって、せっかくのポテンシャルを活かしきれていないケースも見られます。「地方の名士企業」として地元で大きな販売力を持つ地方側事業者が、東京への高速バス市場をさらに成長させるため、単独運行または新たなパートナーと組んで、東京への路線を増やすことが考えられます。

 また、成田空港と都心を結ぶ空港連絡バス路線のうち、割安な運賃を売りにするタイプも、大きく便数を伸ばす可能性が生まれます。さらに、前述のようにFITが増加すると現地参加のツアーのニーズが高まるので、定期観光バスや「着地型ツアー」の分野でも新規参入が期待されます。


旧・浜松町バスターミナルのあったビルは解体中。手前のホテル送迎バスも以前は同BTに乗り入れていた(成定竜一撮影)。

 日本のバスターミナルは、まず広島バスセンターや熊本交通センター(現・桜町バスターミナル)など地方都市の中心市街地に半官半民で設置が進み、その後は大手私鉄系やJR系事業者らが、大都市のターミナル駅周辺に自社系列の高速バス用にターミナルを開設していきました。そして現在は、都市再開発事業の一環として高層ビルの中に整備される、新しいフェーズに入ったと言えます。

 そのため、建物全体の所有者やターミナルの整備主体はバス事業とは直接関係がなく、ターミナル運営会社との契約によって運営されるケースが増えていきます。後に続く多くの案件のため、先行するプロジェクトで経験値を蓄積し、整備の方法や、現場オペレーションのノウハウを充実させることが求められています。