鉄道事業者が設置したのではない非正規の踏切を「勝手踏切」と呼びますが、この数が全国最多なのが愛媛県です。伊予鉄の沿線にも多く存在し、ある場所はフェンス状の門まで付けられています。

都道府県ごとに算出された「勝手踏切」の数

 昨2021年9月、山添拓参議院議員が埼玉県内で「勝手踏切」を渡ったとして書類送検されたことが報じられました。「勝手踏切」とは、鉄道事業者が設置した正式な踏切ではなく、地域住民などが慣例的に通行している非正規の踏切を指します。


伊予鉄横河原線(画像:写真AC)。

 時代とともに数を減らしているとはいえ、それでも国土交通省の調査によると、2021年1月の時点で全国に1万7066か所もあるそう。これらも年を経れば廃止されることが予想されますが、地域の事情を勘案すると、簡単に廃止が進まない可能性があるものも存在します。

 元衆議院議員の津村啓介氏は、現職時代に「勝手踏切」を問題視し、国会でその数を都道府県ごとに算出しています。それによると、鉄道がモノレールしか存在しない沖縄県は0。そして47都道府県で最も多いのが愛媛県でした。

 その数は1031。県内はJR線のほか、県都・松山市を中心に伊予鉄道が路線を有しています。沿線を歩いているとすぐに見つけられるほど。そうした点からも、「勝手踏切」が多いことを実感できます。

 危険なのはいうまでもありませんが、先述の通り簡単に廃止できない事情もあります。そのため伊予鉄道では、神奈川県の江ノ島電鉄のようにユニークな対策が講じられています。

 伊予鉄横河原線の田窪駅(東温市)から線路沿いに西へ歩いていくと、ガードレールがいったん途切れ、その間に開け閉めできるフェンス状の門が姿を現します。気をつけていないと見落としてしまうような小さな門ですが、これは「勝手踏切」を自由に通行しないようにするための措置です。

一概に撤去できない切実な事情とは

 なぜ、わざわざここまでするのか――この場所は線路の反対側に畑があります。つまり「勝手踏切」を渡らないと畑に到達できないのです。法令上は横断禁止でも、立地上やむを得ないため苦肉の策といえそうです。


用水路の脇に「勝手踏切」があり、そこにはフェンス付きの門が設置されている。写真は畑側で、途切れたガードレールは踏切の向こう側にある(小川裕夫撮影)。

 そして、注目したいのが「勝手踏切」の下に用水路が流れている点です。用水路は地域全体の公共物であるため、歴史的に見ると所有権が曖昧なことが多々あります。日本では近代化の過程で、地域全体のインフラは法定外公共物として扱うようになり、長らく国が所有権を持ち市町村が管理するという体制が整えられました。

 2000(平成12)年に地方分権一括法が施行されると、国が保有していた所有権も段階的に市町村へと移譲。すべての所有権が市町村へと移譲されたわけではありませんが、現代においても管理体制が不明確なものが残っているのです。この用水路も、所有権が誰なのかをはっきりさせなければ、「勝手踏切」の対策すら立てようがありません。

 昨今、再び「勝手踏切」がクローズアップされるようになると、国土交通省は通行しないよう通達を出しています。

 とはいえ前出の江ノ島電鉄では、「勝手踏切」を含む通路が、津波や土砂崩れといった災害時の避難路として機能している箇所もあるほど。「勝手踏切」は法と慣習の狭間にあるといえるでしょう。